橋の端と端(1)
「梓ちゃんがそう思うなら、きっとそれは解かなきゃならない謎なんだと私は思う。面倒で難しいことや、嫌なことから逃げずに向き合おうと思うのなら、私も一緒に行きたい」
私も棗ちゃんと一緒に行きたかった。連れてってほしかった。
でもきっと、あれには理由があったんだものね。
棗ちゃん……。
「梓ちゃんは、もろはのつるぎ、だもんね」
うん、今もきっとそう。不器用なままだよ。
「でもその純粋さは私の憧れ」
逆だよ、棗ちゃんこそ私の憧れ。
「梓ちゃんは今よりもっと強くなるよ」
どうかな、今の私を棗ちゃんはどう思うかな。
「梓ちゃん、しっかりね」
待ってて棗ちゃん。
私の背後から吹き抜ける追い風は、わずかに弱虫な私の背中を押してくれているみたいだった。
さあこっちだよって手招きしながら、渡り廊下ほど先の露頭の崖下に風は吸い込まれてゆく。
数時間後や数日後は、むしろ後ろにジャンプするよりも簡単で、私にとっては水泳のターンくらいにしか感じなかった。
だけど――
『予想できる行き先は誰だって簡単に飛べる。この場の数日後が想像できない人間などいないだろう』
胸元の守護神は、さも当たり前かのような事を当然のように言う。
「それは、イヤってほど自覚してるんだけど……」
私は割と前ジャンプを甘く見ていたのかも知れない。やってみた結果は、
『惑わされるな』
「うん」
『自分を信じろ』
そうだ、空想めいた想像力。忘れてたよ、私はまだ夢見る少女だってこと。
さあ目に焼き付けたあの世界へ。
「スタート!」
ここから助走は崖に向かって一直線に延びて追い風に乗ってく。そしたら正面から昇りかけの朝日が、私の踏み切り位置を思いっきり光らせて教えてくれた。
飛べ、私!
その瞬間はきっと一生忘れない気がする。
追い風にフワッと浮いたジャンプは、私に蝶の羽でも生えたみたいに、飛び立つ高揚感を味あわせてくれたから。
それに、この時に自分が飛び越えたボーダーラインが、この先の運命までを変えてしまう境界線だってことを知らないまま私は飛んだのだから。
「わっ!あーっと!」
『ほお』
「うわっ、何ここ、蒸し暑い!」
『成功したのか?』
「分かんない、何年後なんだろう。まず本当に三賀山なのってカンジだけど」
正直これだけ違う場所に来てしまったら、中学女子にはプレッシャーが大きすぎて
そんなハズないと思う!!
「あの山奥がこんなSF映画みたいになっちゃうの?」
『だが断層が作り出した断崖絶壁はこの時代も変わらないようだ』
守護神の言う通り、正面の崖から先は長い橋がたぶん100メートル以上続いてて、その先の高層タワーにつながってる。遺跡のあったくぼ地に建つタワー周辺なんかはすっかり跡形もなくコンクリートの造形物に変わってるし、見渡す先はすべて360度あの画像の通りだった。
あの少年はここから来たんだ。
この風景をいつも見てたから、過去の三賀山が同じ場所じゃないみたいだって。
そりゃそうかも、あの山奥がこんな風になるなんて誰も想像できないもん。
「ねえ、私の格好ってどうなってんの?」
『容姿は微妙に変化すると説明したと思うが』
鏡で自分を見られないのはもどかしいけど、今ここから見える自分はとても個性的なファッションだというところまでは確認できる。
「これ、SFコスプレだよね?」
『この時代に君は存在しないのだから、つまり別人なのだ』
「でも顔は?自分でも後で見るけど」
『君そっくりだ』
「なんで守護神はそのままなのよ」
『それは知らぬ』
「本当に未来なんだよね。しかも私は別人で、未来の人ってこと?」
『一応そのはずだが』
「なぜか言い方が気に入らないけど」
周囲に人はまばらだけど、あんまり見られないようにしたい私。
たぶん見慣れないだけで、まあ皆さん間違いなく日本人だし、コスプレイヤーだけど普通に歩いてるし、とりあえず私を狙ってそうな亀人間はどこにもいないみたいだし、大丈夫そうだけど。
「橋の方へ行く人と、反対側の歩道橋みたいな方へ行く人と2択かな」
『まずこの人々はどこから現れているのだろう』
「ああ、もうこの人たちが
『じゃあまずは安全な方からだな』
私たちは歩道橋らしきルートから地元民の交通ルートを調べてみる。
クモの巣みたいに分かれる歩道橋はどっちにしても向かう方向は同じで、枝分かれに何の意味があるのか私が知ったこっちゃない。でも何となくそこからの交通手段が色々ありそうだって自分の予想。
「私の時代だったら、バス停なんてここから1キロ先なんだけど」
『街の利便性が向上したのだろう』
「ん?なんだこれ?」
私たちがまずこの場所を知ることになった理由、それは。
【三賀山旅客ターミナル駅】
そう
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