絵本の部屋(1)
右の上段の奥。
その二段下の手前、その隣。
左の下段の中央、中段の一番奥。
正面の三段目から出て四段目の端っこに入る。その近くから右の上段の奥に入る。
そして、どこからか現れた深緑色の絵本は、こっちに向かって来る途中で窓の細い光に表紙を明るく照らされて……。
――少しずつ長くなってる。
ていうか、はっきりしてる……前よりも。
私の空想は、いつも毎日ってワケじゃない。けれど自分が何となくだけど、その境界線上に混ざり込んでると感じる時はどうしてもこの部屋に来てしまう。安心するっていうか、落ち着くっていうか。
それが……意識せずに
だけど、最後の絵本の表紙が見えたところで今日も終わり。
あの絵本が本棚のどの場所から出てこっちに来るのか、どうしても分からない。
きっとこの部屋の本棚のどこかに、あの深緑色の絵本はあるはずなんだ……。
見つけ出せるか、分からない。だって何百冊もあるし、同じような色の表紙ばかり。
「とあえず、学校いこ」
居間のテレビから朝のワイドショーが聞こえる。いつも同じ話題ばかり何度も何度もやってる。すごく意味不明で下らなく感じる。
喋ってる有名人も、テレビ局の人も、それを見てる視聴者も、またそれを噂話や雑談してる人も、すごく下らない人間に思える。海外の出来事なんてまるで日本には無関係みたいに……。
『世界各地で頻発する自然災害による被害は、ここ数年で数十万人の死者にのぼるなど、各国で深刻なものとなっている。国連機関が発表したその経済損失は数兆ドル、年平均の発生は数百件を数え、自然災害に対する各国の対応が急がれている状況。またこれらは――』
「あー、おい梓、おはよう。今日も夢見る少女じゃいられない系女子か?」
パパは特に下らない人間に感じてる。ワイドショーが好きなところも、ああやって娘に笑えないギャグを押し付けるところも、すべて意味不明。
本当はこんな風に、人を見下すような自分がすごく嫌い。もっと両親とも仲良しで、一緒に朝ご飯食べて、悩み
――今さら、無理。
「ちゃんとツッコミしてあげたらいいのに」
「無理だと思う」
こんな風に簡単そうに結論を出す棗ちゃんは、きっと器用にツッコミとやらが出来るんだと思う。
「そんなことないでしょ?梓ちゃん若手のお笑いコンビ好きだし」
「いや、それはボケ担当が優秀だから……」
「梓ちゃんのパパもおもしろいじゃん」
「あんなの、なんてツッコミすればいいのやら……」
「じゃあ、授業中に余裕そうな見角、この登場人物の女性は誰だったかな?」
「はい!えっと、美禰子です!」
さすがです、我が親友。
「うわーびっくりしたー」
「ごめん、私がツッコミの話なんてするから……」
「そうだ、夢見る少女は目覚めました、おはようパパ!とか?」
さすがです、我が親友。
私は今朝のパパの顔を思い出そうとした。
どんな顔してたんだろう……。あの時、自分がパパの顔さえ見てなかったことが今日はなぜか冷たく感じる。そしたら、うっすら教室の窓に写る自分の顔が
本当に嫌い。
「梓ちゃん、今日の給食のメイン何か知ってる?」
「知らなーい、お腹すいたー」
「もうはや?朝ちゃんと食べてないからだよ」
「だってさ……」
私はもう一度窓に写る自分を見た。
「外、静かだね」
「うん、今日は静か。万が一揺れ出しても絶対叫ばないけど、あはは」
棗ちゃんが心配そうだって気付いて、私は平気そうに笑う。
「あの、御神本さん」
――いきなりの呼びかけだった。それは同じクラスの目立たない男子。私と棗ちゃんは顔を見合わせて、少し身構える。
「な、なに?なんかあった?」
私は普段から用意しているセリフで様子を
「あの、今日は、UFO……見えないの?」
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