ただひとり、夜道と歩くだけ

慎み深いもんじゃ

三日月は夜に沈む、らしい

 街灯は、オレンジ色だった。高速道路の街灯は、オレンジ色なのだ。車のライトで照らされても、そこはオレンジ色だった。夕焼けのような、オレンジ色。たとえ深夜の中だとしても、その夕焼けは続いていた。

 ぼくは、冬が好きだ。というか、寒いのが好きだ。顔や手先がかじかんだって、その感覚は、夏の蒸し暑さに頭を撫でられるよりも、遥かに心地よい。

 夕焼けがぼくの前で沈んでから、しばらく昼は見ちゃいない。昼は、いつまでたっても昇ってこない。不安にこそなったって、昼を望んでいた訳ではない、夜のままだって構わないさ。鋼鉄の足音が好きだから。

 世界は大変だった。三日月が沈まないってんで。つまり、夜が明けないから。…つまり、宇宙人の侵略である。


「何言ってんだ、お前」


真面目な姉ちゃんは、信じてくれなかった。


「だからさ。…ここはもう大変なんだよ。危機なんだよ」


「だから。何言ってんだよ」


「何でもないんだよ。なんでもない」


「は?」


…そういうことだった。

 歩き始めてから、いったい何分がたっただろうか。ぼくの体感では六時間は経っているけれど、いったい、何分たっただろうか。


「どうも、こんばんは」


「……。」


女の子に挨拶をした。


「ここでなにしてるんですか」


女の子に質問をした。


「何とか言ってよ」


「何でもいいでしょ。」


機嫌が悪いようだ。なんとかして良くしてあげよう。


「チョコレートしか持ってないけど、あげるよ」


ポケットに入っていた、溶けかけのチョコ。


「なんで?」


「なんでって、機嫌が悪いみたいだからさ、甘い物でも食べて、少しリラックス出来たらって」


「そう」


受け取ってくれた。

 歩き続けていると、三日月が南中したことに気が付いた。なんだ、しっかり動いてるじゃないか。少しほっとしながら歩みを続けると、夜も更けてきた。


「そろそろ帰らなきゃ」


時間が経ったから。

 靴の向きをビルに向けると、もう一度歩く。向こう側と、こちら側があって、面白いなぁ。

 空は、もうオレンジ色ではなかった。なら、ぼくも帰ろっかな。外に居るのも好きだけど、自分の部屋がやっぱり一番落ち着く。


「ああ。…今日はいいことをしたなぁ」


そう言って、上機嫌になったぼくは、ただひとり、夜道と歩くだけ。今日を終わる気満々マンだった。

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ただひとり、夜道と歩くだけ 慎み深いもんじゃ @enomototomone0918anoradio

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