第2章 前編

こうきは教室でそわそわしていた。

昨日の事を謝ろう。きちんと紗希ちゃんと向き合って話そう。ユリの存在が何なのか確かめなきゃと思っていた。


「こうき君おはよう!」

明るく挨拶をしてきたのは蘭

蘭はこのクラスの女子のリーダー的存在で皆から慕われている子だ。


「蘭さんおはよう」


「どうしたの?元気ないみたいだけど?」


「え、あっいや大丈夫だよ」


「絶対大丈夫じゃないやつじゃん?何かあったの?」


「いや、本当に大丈夫だから」

いつも話しかけると明るく相手してくれたこうきではなかった。


「蘭おはよう!」

彼女は絵里。

蘭の親友で蘭の事を尊敬している。


「おはよう絵里」


「こうき君もおはよう!」


「あっ、おはよう·····」


「こうきどしたの?」

絵里も普段のこうきではない事に気づいた。


「少し1人にしてくれないかな、ごめんね·····」

そういうとこうきは教室を出て行ってしまった。


「何かあったのかな?·····てか蘭今日本当にこうき君に告白するの?」


「するよ」


「絶対成功するよ!蘭は可愛いし頭も良いし!絶対お似合い!」

絵里には蘭が全てだった。


蘭と絵里が出会ったのは中学生の時。

絵里は元々内気でクラスの女子達とは馴染めず、次第にはぶかれ、虐めにまで発展した。

しかし、蘭が仲裁してくれて虐めは収まった。それ以降絵里は蘭に信頼を置き心の底から蘭の為ならなんだってすると思っていた。


朝のクラス会が始まっても紗希とこうきの席は空いたままだった。

担任の関が話す。


「皆こうきを知らないか?」


「こうき君は元気無さそうに教室から出て行きました。」

と蘭が言う。


その時教室の外で何か大きな音がした。

何か落ちた音。


「きゃー!」

窓側に居た生徒が悲鳴を上げる。


先生が窓に駆け寄ると外には血まみれのこうきが横たわっていた。


「いやー!」

蘭は悲鳴をあげて教室を飛び出た。



屋上では赤く目を光らせたイムが笑っていた。



こうきが屋上から転落する20分前。

こうきは外を眺めていた。

すると後ろから声を掛けれる。


「こうき君·····」

後ろを振り返ると紗希が居た。


「紗希ちゃん·····昨日はごめん·····少し話せないかな?」


「私も話したい事があるの·····昨日話したユリの事なんだけど·····」


「僕もその事をまず謝りたいんだ」


「違うの·····謝らなくて良いの·····」


「え?」


「ユリなんて本当は存在しないの·····私いつも1人だったから自分の頭の中で理想の友達を作ってたみたいなの·····」


「·····」


「こんな私の事嫌いかな?」


「そんな訳ないよ!僕は紗希ちゃんの事が本当に好きだし、これからは僕が側に居るから!」


「こうき君ごめんなさい。」


「え?」


「私やっぱり、こうき君とは付き合えない·····」


「な、なんで?だってユリちゃんっていう人自体が作り話なんでしょ?だったら昨日の紗希ちゃんが怒った事も」

紗希が会話を遮るように話す。


「私ユリを殺したの」


「·····どういう事?分からないよ!」


「私はもう生きていてはダメなの」

今にも壊れそうな紗希が目の前にいた。

きっと紗希には何か訳があって今頭の中がパニックになっているんだと思い強く抱きしめた。

静かに紗希が囁いた。


「1人で死ぬは怖い·····こうき君一緒に死の?」

そういうと強く抱きしめていたはずの腕の中からスっと抜け出し紗希は屋上から飛び降りようとした。


「あぁぁぁぁああ」


こうきが叫び声と共に紗希の腕を掴もうと屋上から身を投げた。


こうきは意識が朦朧とする中、目の前で横たわる紗希の手を握り名前を何度も何度も呼んだ。


「紗希·····紗希·····紗希·····」


しかしこうきの手を握っていたのは蘭だった。


先生達が駆け寄って来て蘭の手を解きこうきに声をかける。


「こうき大丈夫か!おい!しっかりしろ!早く救急車を!」

慌ただしい中蘭は自分の手を見つめて呟いた。


「なぜ·····紗希ちゃんなの·····」

間もなく救急車がやってきてこうきを載せ病院に向かった。

自分の手を見つめて硬直する蘭に絵里が駆け寄る。


「蘭·····大丈夫?」


「··········紗希·····」


「え?」


「なんで?なんで紗希ちゃんなの!」

そう言って泣き崩れた。

状況が飲み込めない絵里だか、今にも壊れそうな蘭を抱きしめた。

少し経ち生徒は教室に集められホームルームが開かれ先生が口を開く。


「先生もいきなりの事で·····どう話したら良いのか分からないが·····今こうきは必死に自分の命と戦っているはずだ·····何が原因でこんな事故が起きたのかまだ分からない·····皆も色々不安だと思う。だけど、今はこうきがまた元気にこのクラスに戻って来れるように祈ろう·····」


いつも明るくて、皆と仲良く接し楽しそうに学校生活を送っていたこうきの事を誰1人自殺だろうなんて予想するわけもなく、全ての人が事故によるものだと思っていた。蘭を除いては。

蘭が口を開く


「先生、こうき君の側に居たいです·····病院に連れて行って下さい。」

そういうと泣き崩れた。

ほとんどの生徒は蘭の気持ちに気づいていた。

たくさんの生徒が声を出す。


「先生蘭を病院に連れて行ってあげてよ!」


「先生お願いだよ!」


「蘭さんを病院に連れて行ってあげてよ!」


たくさんの生徒からの声が教室に響いた。


「·····分かった。代表として蘭を1人病院に連れて行く。皆もそれで良いか?」

誰1人反対する者はいなかった。

そして先生の車に蘭を乗せ病院に向かった。


病院ではすぐさま手術が行われていた。

こうきの両親、校長教頭、担任と蘭が手術室の前で待っていた。


校長にこうきの父親が詰め寄っていた。


「なんで屋上から落ちるようなことになるんだ!」


「すいません。普段はお昼以外しっかりと施錠しているのですが·····」


「こうきに万が一の事があればどうするんだ!」


「本当に·····本当に大変申し訳ありません」


「あなたやめて!今はこうきの無事を祈りましょう」

夫の腕を掴んでこうきの母は涙を流していた。


「蘭大丈夫か?」

担任が声をかけるが蘭はじっと自分の手を見ていた。


どのくらいの時が経ったのだろう手術はかなり大掛かりなもので、外は夕日に真っ赤に染まっていた。

すると手術中という電気が消え医者が出てきた。


「先生!先生!こうきは!?」

両親が医者に駆け寄った。


「とりあえずは一命を取り留めました。が意識が戻るかは分かりません。最悪の場合も考えて置いて下さい。」


泣き崩れる母親。

父親が口を開く

「こうきには会えるんですか!?」


「今からICUに移されます。まだお会いすることは出来ません。」


「なんで·····なんでこうきが·····」

そういうと父親も妻を抱きしめるように泣き崩れた。


担任の方を向き蘭が呟いた。


「全部紗希のせい」


「どういう事だ?」


「絶対にそうなのよ·····全部紗希のせいなの·····」


「詳しく聞かせてくれないか?」


「許さない。」


そういうと蘭は静かに立ち上がり歩きだした。

担任が駆け寄って聞く


「どこに行くんだ!?」


「今日は帰ります。1人になりたいです。」


「大丈夫なのか?送っていくから待ちなさい」


「家近いので大丈夫です。先生?本当に大丈夫ですから」


「そう、そうか·····さっきの事だけど、また落ち着いたら詳しく聞かせてくれないか?」


「分かりました。さようなら」

そう言い残して蘭は病院を去った。


蘭は1人で考えていた。

なぜこうきは紗希の名前を呼んでいたのか、私の手を握って私を見つめて、なぜ紗希の名前を呼んだのか。

理由はどうでも良かった。ただ紗希が憎くてたまらなかった。


1人で歩き家に向かう途中、公園のベンチに座る紗希を見つけた。

蘭は駆け寄り紗希の目の前に立ち紗希の頬を打った。


「あなたのせいで!あなたのせいで·····こうき君が·····」

そういうと泣き崩れた。

すると、紗希が立ち上がり蘭を見下すように言った


「無様ね?私こうきと付き合ってるの。あなたじゃなくて、こうきは私と付き合ってるのよ」

蘭が下から睨みつける。


「あなたこうきの為に何か出来るの?何も出来ないでしょ?所詮あなたはそんな存在なのよ」

そう言って笑った。


「私は今日ずっと病院にいた!付き添ってた!」


「だから?それでこうきは助かったの?ふふっ、本当に約立たずね」

何も言い返せずに蘭は泣いた。


いつの間にか紗希は居なくなっていて、夜の公園で蘭は動けなくなっていた。

そこに1つの陰が近ずく


「お嬢さん?大丈夫ですぅ?」


「ほっといて·····下さい·····」

力ない言葉で返す。


「うーん、このままだとこうき君死にますよぉ?」

はっと蘭は顔を向ける。

そこにはイムがいた。イムの見た目に少し驚き、この世の者ではない事が分かったが不思議と恐怖という感情はなく、それよりこうきの事を知っている事や、こうきが死ぬという言葉が気になって、


「どういう事?ねぇこうき君は死ぬの!?」

蘭はイムにしがみつく


「えぇ死にます。」

当たり前の事のように冷めた言葉でそう放った。


「いつ!?いつ死ぬの!?ねぇ!答えて!」


「彼の残り寿命は24時間となっています。」


「なんで·····ねぇ!お願い!なんでもするから!こうき君を助けて!」


「方法はありますけどぉ·····本当に何でもするんですかぁ?」


「する!こうき君がいないのなんて無理よ!」


「あなたの寿命頂けませんかぁ?」


「え?」


「申し遅れました私こういうものです。」

そう言って名刺を差し出した。


「·····寿命請負人·····?」


「そうですよ、見た目からこの世の者では無いことは察しがつくでしょ?私は命を操れるんですよぉ、とは言っても生きている方の寿命を頂いて、亡くなりそうな方へ頂いた寿命を移すだけですが·····笑」


「え?私の寿命をこうき君に渡すの?·····私はどうなるの?」


「死にますよ。もちろん死にまぁす!」


「え·····」


「世の中そんなに甘くはないのでぇ·····どちらか一方は死んじゃうんですよぉ」

不敵な笑みを浮かべ更に言いよる。


「で、どうされますか?間違いなくこうき君は明日死にまぁす!でもあなたの残り寿命はあと65年ほどありまぁす!こうきは助かりますけどぉ、どうされますかぁ?」


「人を殺した場合はどうなるんですか?」


「それはその人は寿命を全うした形になるので寿命をあげることは出来ないんですよぉ、どうしますかぁ?」


「少し、少しだけ·····時間を下さい。」


「時間を下さいって、明日にはこう」

遮るように蘭が言う


「そんなの分かってる!こうき君の残り寿命が1時間切ったら私の前にもう一度現れて!」


「·····なるほど、そうですか!了解しました!」

そういうとイムは消えていった。

蘭は考えていた。紗希の寿命なんか要らない

どうにか紗希の寿命をこうき君に·····

でも、そんな事無理だと思っていた。

そして憎くて仕方ない紗希の命がこうきに宿るのも許せなかった。


どうしたら··········

どうすれば私はこうき君と一緒に·····

生きられるの··········


蘭は電話をかけていた。


「もしもし!?蘭!?どこにいるの!?」

電話越しに絵里の声がする。


「絵里·····今から会えないかしら·····」


「会えるよ!どこにいるの!?お父さんとお母さん心配してさっき電話があったところよ!!」


「絵里の家に行く。親にはちゃんと連絡するから·····」


「分かったよ!ちゃんと連絡するんだよ!蘭は私と違ってちゃんと親いるんだから!」


「絵里ありがとう。」

そういうと電話を切った。



嬉しそうにイムが語ってた。

「いやぁ人間って面白いでしょお?」

イムが嬉しそうにエンマに話しかける。


「で、私に変わる次のエンマ候補は見つかったのですか?」


「もちろんですよぉ、早くエンマさんを天国へお連れしたくて僕も必死なんですからぁ」


「期待してるんですからね、あなたと私の2人だけの約束を」


「お任せ下さい。必ず満足の行く者を連れてきますから」

真剣な顔でイムが言った。



寿命は限られている。もしも自分の寿命を、誰かの寿命を、また別の誰かに移すことが出来たら、あなたはどうしますか?助けたい人、守りたい命はありますか?それが自分の命を、誰かの命を削ろうとも·····


第2章前編~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたの寿命を頂けませんか? いむ @imu0505

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る