第1章

あの日私はユリと屋上で弁当を食べていた。

いつもと同じようにたわいもない会話をしながらだ。

すると、屋上に誰かが上がってきた。


「あっ!いた!紗希さんちょっとだけいいかな?」

そこには、こうきが居た。


「紗希さんちょっと話があるというか、放課後時間つくれないかな?」

いつもと様子の違うこうきに驚きながら


「どうしたの?何かあったの?」


「いや、それは放課後に話すから、また迎えに来るね!」

その言葉を残してこうきは居なくなった。


「ほらね私の感は当たるのっ!絶対告白だよー!紗希良かったね!」

私よりも嬉しそうにユリが話す。

照れくさいのと嬉しい気持ちで溢れて、顔を真っ赤にしながら


「まだ分かんないよぉ、それに変な期待してそうじゃなかったら恥ずかしいじゃんか!」


「ううん、私分かるの紗希は絶対に告白される。でも、紗希が、こうきにとられるの少し寂しいなぁ」

小さい頃から何をする時も2人は一緒だった。

普段の休日もお互いの家に行き来し、2人で出かけて2人だけの時間を過ごし、気持ちを理解し合える。

ユリは紗希にとってかけがえのない存在だった。


「ユリは私にとって本当に大切な友達だから、他に大切な人が出来ても私の中での1番はユリだから大丈夫だよ」

自信があった。

だから素直な気持ちでユリそう言った。

これからだって、ずっと2人は一緒に居られるそう思っていた。

その言葉にユリはとても嬉しそうに頷いた。


放課後になるがなかなかこうきはやって来ない。

同級生達は帰宅したり、部活に行ったりなど教室にはほとんどの生徒は居なくなっていた。

ユリも今日は予定があるから先に帰るねと告げ、すでに帰宅していた。


「ごめん!遅くなった!紗希さん、時間いいかな?」


そうこうしているとこうきがやってきた。


「うん、大丈夫だよ」


「その、ここじゃあアレだから2人きりになりたいかな·····」

照れくさそうにしながらこうきが言う。

紗希にもこうきの緊張感が伝わってきていた。


2人は屋上に上がった。

放課後屋上を使う生徒はほとんどおらず、この時も案の定2人きりになれた。


「こうき君話って何?」


「うん、いきなり呼び出してごめんね。で話なんだけど·····」


時が止まったかのように、こうきは一呼吸置いてから


「紗希さん好きです。その·····良かったら付き合ってくれませんか·····」

ユリに昼休みに言われていたが、まさか本当に自分の好きな人に告白されると思ってもいなかった紗希は素直に嬉しくて照れながらも


「私で良ければ、よろしくお願いします。」


「·····え、本当?本当に?やった!」

純粋に心の底から喜んでるこうきがそこにはいた。

その後2人は初々しく何気ない会話をしていた。


その光景を空の上からイムが不敵な笑みを浮かべながら見ていることとは知らずに。




その日2人は一緒に帰った。

何気ない会話の中でこうきの言った言葉の意味が紗希には分からなかった。


「俺紗希ちゃんが何時も1人で居るの見てて、ずっと前からもっと仲良くなりたいなって思ってたんだよ」

楽しそうにこうきが話す。


「ユリも一緒に居るじゃんか!」


大切な友達の存在を居ないように話すこうきに少しだけ怒りを覚えた。

がこうきの顔が少しおかしい


「え?ユリ?」


「ユリの事を居ないみたいに言わないで!ユリは本当に大切な友達なの!」


「紗希ちゃん?待って分かんないけど、ユリさんて誰?」

こうきにふざけている様な感じはなく、本当にユリの存在を知らないみたいだった。

だが、紗希にとってユリは親友で大切な存在だ。紗希もこうきが知らない事に驚いていた。


「中村ユリ!同級生じゃんか!いつも私と一緒に居て、今日のお昼だって、ほら!屋上に2人で居たじゃんか!」


「待って、紗希ちゃん?紗希ちゃんは1人だったよ?」


「ふざけないで!ユリの事バカにする人はこうき君でも許さない!」


「ふざけてないよ!紗希ちゃん以外に何人か居たけど、紗希ちゃんは1人で弁当を食べてたよ?それに中村ユリなんて同級生はいないよ?」


「もういい!ユリの事バカにするなんて酷い!1人で帰るね!」

そういうと紗希は怒って1人で帰りだした。

とても怒っていた紗希を止めることが出来ず、こうきは立たずんでいた。


紗希はいつも皆に優しくて、誰かを虐めるなんて事を許さないこうきが、何故あんな事を言ってきたのか怒りが治まらなかった。そして、無性にユリの声が聞きたくなってユリに電話をかけることにした。


「もしもし、ユリ?今時間ある?」


「どうしたの?てか!こうき君なんだった!?」


「え·····こうき君は、その·····告白されたよ」


「やっぱり!ほらね私の感凄いでしょ?」


「ユリ?」


「ん?紗希どうしたの?」


「ユリは·····ユリだよね?」


「何言ってるの?私はユリだよ?」


「今日も一緒に学校に居たよね?お昼も一緒に食べたよね?」

今にも泣き出しそうな声で紗希はユリに話しかけた。


「何言ってるの?紗希大丈夫?なんか紗希変だよ?」


「ううん、ちょっとこうき君と揉めちゃって·····」


「え!?付き合って直ぐに喧嘩でもしたの!?」


「喧嘩というか·····ううんでも大丈夫!ユリの声が聞けて安心したからもう大丈夫!」


「本当に?大丈夫なの?今から行こうか?」


「ううん、本当に大丈夫。また明日も一緒に学校行こうね!」


「当たり前じゃん!朝家まで迎えに行くね!」


「うん、じゃあまた明日ね」

ユリはちゃんと居た。

私のことを大切に思ってくれてるユリはちゃんと居た。



次の日の朝何時もの時間になってもユリは迎えに来ない。

心配になった紗希はユリに電話をかけることにした。


着信音はなるが電話に出ない。

何度もかけるがいっこうに繋がらない電話。

紗希は不安になっていた。


「母さんユリがこんな時間になっても来ないし、電話に出ないの·····」


「ユリちゃん?ん?お友達?」


「え、ユリだよ?いつも一緒に学校行ってたユリだよ?」


「お母さんはユリちゃんは分からないけど、もう先に行っちゃったんじゃない?」


「え?何言ってるの?私が小さい時からずっと一緒に遊んでたじゃん?」


「ユリちゃん·····ねぇ、そんなお友達居たからしら?」


「ちょっとふざけないで!」


「でも、連絡とれないのは心配よね?そのユリちゃんだった?何かあったのかもしれないし、お母さん学校に電話してみるから紗希は学校に行きなさい」


「何言ってるの!?ユリの事心配じゃないの!?なんでそんな知らない人みたいな言い方するの!」


「紗希あなた大丈夫?紗希にとってそのユリちゃんがとても大切な友達というのは分かったわ、でもお母さん本当にユリちゃんの事知らないの、でもそのお友達が何か事件や事故に巻き込まれてたらダメでしょ?だから学校に電話してみるわ。」


「お母さん?嘘でしょ?なんでユリの事·····小さい時から家に来てたじゃん!同級生で!同じクラスで!」

紗希は必死に母に訴えかけるが、困った表情をしている。そしてふと思い出した。昨日のこうきの反応といい、お母さんの反応がまるでユリの存在を消したかのようで凄く不安になっていた。


「私ユリ探してくる!」

そういうと紗希は家を飛び出して行った。


紗希のお母さんは取り乱していた娘が凄く心配だったが、声をかける前に家を飛び出してしまい話を聞く事が出来なかった。

だから紗希を安心させようと学校へ電話をかけた。


「もしもし、中村紗希の母です。」


「おはようございます。紗希ちゃんのお母さんですね?どうされました?」


「娘の友達のユリちゃん?という子が今朝娘を迎えに来ると言っていたらしいのですが、なかなか来ないで、娘が電話をしてみたんですが、繋がらないみたいなので、娘はユリちゃんを探してくると言って出て行ってしまって·····ユリちゃんという子のご両親に連絡して頂けませんか?」


「ユリちゃんですか?苗字とか分かりますか?何人もユリという生徒がいまして」


「ちょっと苗字は分からないのですが、紗希と同じクラスと言っていました。」


「えっと·····紗希ちゃんと同じクラスでユリちゃんという生徒は居ないですが·····」


「え?でも娘はそう言ってましたよ?嘘をついてるような感じもなかったですし·····」


「紗希ちゃんと連絡着きますか?私どもの方でも連絡させて頂きます。」


「すいません、私の方からも電話してみます」




その頃紗希はユリを探して走っていた。

ユリにきっと何かあったんだ!そう思ってユリの家まで行こうとした。


···············


私·····ユリの家·····知らない。

え?どこ?なんで?小さい時もついこの間もユリの部屋で·····

どうして·····思い出せないの·····

紗希は突然変な不安に襲われた。

お互いの家を行き来して、休日はずっと一緒に遊んでいたはずのユリ家が思い出せない。

いや、そんな家知らないという事に気づいてしまった。

そして古い記憶が走馬灯のように脳内に流れ出す。




とある病院に小さい頃の紗希がいた。

紗希がまだ幼い頃親戚のお姉ちゃんが重い病気で入院していたので、良く母親とお見舞いに行っていた。


「お母さんお姉ちゃん早く退院しないかなー」


「そうね、早く良くなるといいわよね。お姉ちゃん一生懸命病気と戦ってるから、紗希ももう少し我慢してあげてね」


「うん、お姉ちゃんとお話してきていい?」


「いいわよ、でもあまりはしゃいだりしたらダメよ?」


「うん!」


「お母さん、お姉ちゃんのお父さんとお母さんとお話してくるわ」

そして場面が変わる。当時はお姉ちゃんの所まで行ったが、今頭の中で流れている映像は紗希の母親とおじさんと、おばさんが話している様子が流れた。


「どのくらいもつの?」

紗希の母親が重い口を開く


「長くて3ヶ月だそうだ。」

おばさんは涙をこらえられず静かに泣いていた。


「本当に·····なんでカオリちゃんが·····可哀想に·····お腹には赤ちゃんもいるのに·····」

そう言って母親も涙を流した。


「色々迷惑かけたな、紗希ちゃん寂しがるだろうな·····」


そして場面が変わった。

紗希はカオリの病室に居た。


「お姉ちゃんはいつ退院するの?」


「··········紗希ちゃん?あのね、お姉ちゃんはね·····生まれ変わるの」


「生まれ変わる?ん?」


「お姉ちゃんのお腹にはもう1人の私·····うーん、お姉ちゃんがいるの。名前はユリ」


「ユリちゃん?」


「そう、ユリちゃん。紗希ちゃんユリちゃんと仲良くしてくれる?」


「ユリちゃんはお姉ちゃんなの?」


「そうよユリちゃんの命は私の命なの」


「うーん、紗希はお姉ちゃんもユリちゃんも仲良くする!」


「そっか、紗希ちゃんは自分の命大切にするのよ」

優しい笑顔でカオリが紗希に話しかけている。

すると病室に1人の男の人が入ってきてカオリに話しかける。


「カオリさん?決心つきました?」


「はい·····あの·····お腹の娘は·····本当に無事に産まれてくるのですか?」


「カオリさんの残り寿命は3ヶ月です。あなたが寿命を僕にくれたらもちろんあなたは死にます。が、お腹の赤ちゃんは無事に産まれ3ヶ月の寿命が与えられます。」


「この子には1秒長くでも生きていてもらいたい、1秒でも多くの愛情をそそがれてもらいたい」

そういうとカオリは泣き出した。

紗希はよく分からないまま、その男の人を見つめるがぼやけてはっきりとした姿形が見えなかった。

男は口を開く


「カオリさん心の準備はいいですか?」

涙をふいて顔をあげたカオリは紗希を見つめ、そっと紗希を抱き寄せる。


「紗希ちゃん大好きだったよ。たくさんたくさん遊んでくれてありがとう。ユリの事よろしくね」

カオリは笑顔で紗希そう告げたあと男の方へ顔を向けると静かに頷いた。


「それでは交渉成立です」


ぼやけて見える男の目が真っ赤に光った瞬間カオリからスっと力が抜けると共に激しい機械音が病室に鳴り響いた。

すぐさま医者と看護師達と母親、おじさんおばさんが病室へやってきた。


「カオリ!」


「いやよ!なんで!まだ早いでしょー!」


母親は紗希を強く抱きしめた。

皆が涙を流しながらカオリに話しかける。

その時医者が声を上げた。


「お腹の赤ちゃんはまだ生きています。今から緊急オペをします!」


そういうとカオリを載せたベットはオペ室に向かった。



紗希は男の人を見ていた。

ぼやけてはっきりと顔は見えないが何故か

笑っているような気がした。



第1章 ~完~

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