あなたの寿命を頂けませんか?

いむ

序章。

深夜、終電がもう間もなくこの駅に入る頃1人の女子高生が線路を見つめていた。

周りにはまだチラホラ人がいる。

飲み会帰りのサラリーマン

遅くまでバイトをしていた学生

友人達とはしゃぐ若者

誰一人彼女の事なんて気にしない

誰一人彼女の存在に気づかない



彼女の名前は紗希。都内の高校に通う16歳の少女だ。



チャイムと共に昼休みに入る学校はいつもと変わらない。


「紗希弁当どこで食べるー?」

話しかけてきたのは唯一の親友ユリだ

2人は幼なじみでお互いの事を理解し合っていた。

ユリは内気で紗希以外に心を開いてなく、それは紗希も同じで小さい頃から2人はずっと一緒だった。


「紗希ってこうき君の事好きなの?」

唐突にユリが言う


「え?なんで?」


「私たちずっと一緒にいるんだよ?わかるよぉ(笑)」


「好きというか、気になりはするけど、、、でも、こうき君は人気だから」

こうきはいつもクラス中心に居た

誰とでも仲良くして、皆に平等で、そんな優しいこうきに紗希は惹かれていた。


「でも、こうき君も紗希の事好きだと思う!」


「え?」


「そんな気がする!自信ある!」

ユリは昔から感がするどい

唐突な予想が当たってたりする

そんなユリの言葉に紗希は内心喜んではいたが

「絶対ないよー、だってそんな話した事もないし、私から話しかけた事なんてないもん」


「そうかなー?でも私は紗希の事好きだと思うけどなー」

そんな話をしながら弁当を持って2人は屋上へと上がっていった。




人間は死ぬと天国と地獄に行先を決められる。

天国地獄どちらの世界でも地球と変わらないような世界がある。

天国では争いもなければ、皆が幸せで人種も差別も貧困もない。

全ての亡き者達が幸せに暮らしている。


地獄は地球にとても似ていた。

誰かが誰かを疑い、信じていたものに裏切られる。

地獄では力が全てだった。

そんな天国と地獄に行先を決めるエンマの元に地獄から1人の亡き者が現れた。

彼の名は イム。


「エンマさん?あなたを楽しませれたら天国へのチケットをくれません?」


「私を楽しませるとは?」


「僕は死ぬ前まで人をたくさん騙してきて人間の本質を知っている

あなたの知らない人間をあなたに見せる事も出来る。あなたを楽しませる事が出来ます。」


「すごい自信をしていますね。ですが何故天国に行きたいのですか?あなたには退屈だと思うんですが?」

エンマは彼をじっと見つめた。


「暇なんですよ。地獄にはバカしか居ないし、僕は地獄でそれ相当の地位を確立した。

だから正直天国に行くとかはどうでもいいんです。ただ現世で遊びたいんですよ。」

エンマの顔の目の前まで近づき、満面の笑みを浮かべこう続けた。


「エンマさんを楽しませたいんですよぉ

エンマさんいつも退屈そうに亡き者を仕分けしてるでしょ?そんなエンマの笑顔が見たいんですよぉ、だけど、、、やりがいって欲しいでしょ?だからご褒美の天国へのチケットって事です」


「何を企んでいるのかわかりませんが、そんな話を承諾すると思いますか?」


「承諾しますとも」

そういうとエンマに耳打ちした。

少し時間を置いてエンマが言った。


「わかりました。あなたの現世での活躍を楽しみ見させて頂きます。」


「もちろん!必ず楽しませて見せますからっ」

そう笑顔で言った後、後ろに振り返り不敵な笑み浮かべイムは現世への階段を降りて行った。




紗希は死ぬ気だった。

今からやって来る最終電車に全てを投げ捨てるつもりだ。

私は全てを失った。

私は生きていてはだめ。

私にはもう、この要らなくなった身体しかない。

私は今から「死ぬ」


「お嬢さんっ」

もう間もなく命を捨てようとしていた紗希の後ろから声がする。

「今から死ぬんですねぇ」

と陽気に続ける

紗希は振り返り「邪魔しないでくだ、、、」

紗希は言葉を失った。

彼女の前にいるのは顔の半分が人

もう半分は骸骨だった。

髪は肩まである綺麗な白髪、人とは思えないほど透き通った白い肌に真っ赤な瞳。

黒いスーツを着て、黒いハットを被り

背中には大きくて、全てを飲み込んでしまいそうな漆黒の翼が生えていた。

「申し遅れました。イムと言います。」

そういうと名刺を渡された。

寿命請負人そう書いてある

「今から死ぬんですよね?じゃあ、あなたの残り寿命を頂けませんかー?」

イムと名乗る者が笑顔でいった。

目の前のイムと名乗る者に呆気にとられていた紗希は、不思議な物を見てしまった恐怖と自殺を見透かされた気がして変な焦りと良く分からない感情が湧いていた。


「そんな怖い物を見るような目で見ないでくださいよぉ、ねぇダメですか?もう死ぬんでしょお?残り寿命頂けませんかー?」


「こっ怖いに決まってます!ていうか、いいから放っておいてください!邪魔しないで!」

余りの叫び声に駅にいた他の人が紗希を見つめるが紗希の目の前の化け物には気づいてはいない様子だった。

駅員さんが紗希に話しかける


「どうされましたか?大丈夫ですか?」

この状況で自殺は無理と紗希は駅員さんを睨むがその目は、駅員さんと重なって立っているイムに向けられていた。


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