第88話 追放テイマーと異世界のお姫様


「すいませんなぁ、嫌な思いをさせてしまいましたな?」

「ホントですよ、先輩。こんなに可憐な美少女を泣かせるなんて……」

「そんなそんな。今日はありがとうございました」


 私は慌てて両手を振ったあと、頭を下げた。

 学校の玄関には、ドラマでみたことあるような黄色いテープが貼られている。


 あはは……。


 入った時も思ったんだけど。

 自分の人生で、この線をくぐる日が来るなんて。

 なんだか、ちょっとビックリだよね。


 あーでも。

 向こうの世界にはこんなテープなんて、なかったかぁ。

 魔法で結界貼ればいいだけだもんね。


 魔法って、すごく便利。

 シャワーもさ、寝る前のドライヤーも簡単に解決できるし。

 微妙な調整が髪に優しいんだよねぇ。

 あと、料理の時も火力調整が簡単だし。


 ……ホント、こっちの世界でも使えればいいのに。


「まぁ、何でもいいんで、思い出しましたら連絡ください」


 小太りの刑事さんが、コートから名刺入れを取り出した。


「携帯の番号も書いといたんで。困ったことがあったら呼んでくださいや」

「うわぁぁ、ずるいっすよ、先輩。あ、これオレの名刺っす!」

「ありがとうございます」


 刑事さんたちは名刺を渡した後、びしっと背筋を伸ばして敬礼をした。


「残り四人のお友達も……必ず救いますんで……力不足でもうしわけないですな……」

「あとはさ、オレら警察にまかせてくださいよ!」

 

 取り調べの時から、お二人ともすごく優しくて。


「あの……」


 胸の奥からズキッと音がした。

 ああ、全部話してしまいたくなる。

 

『本当は全部覚えてて、私異世界に転生してて、きっと残りのクラスメイトも異世界にいます』って。


 ……信じてくれないと思うけど。

 ……でも。


「そんな顔せんでください。話したくなったら・・・・・・・・でいいですから」

「そうっすよ! こう見えてもオレらプロっすから!」

「……え?!」


「ほら、まぁ、そういうことですわ。鈴木、早く車もってこい!」

「オッケーっす、先輩!」


 車を取りに行く鈴木さんが、すれ違いざまに近づいてきた。


「こういう人なんすよ、先輩って」


 おどろいて振り向いた私に、ウィンクしてくる。


「まぁ、いいんじゃないっすか。『異世界行ってた』でも。信じるっすよ」

「あの……」

「その腰にあるの、目立つっすよ」


 ――え。


 あわてて腰に手を当てると、聖剣ちゃんがぶらさがっていた。


 うわぁぁあ、そうだった。

 一応病院に置いてきたんだけど、やっぱりいつの間にか戻ってきてるんだよね。

 さすが女神の呪いアイテム。


 制服姿にカワイイ魔女っ娘剣って……アニメのコスプレみたいなんですけど?!


「なにやってるんだ、急げ鈴木!」

「はーい、わかってるっすよ!」 

 

 鈴木さんは大きく両手を振ると、後者の裏にある駐車場に向かっていった。


「うふふ、なんだか賑やかな方々ですね……」


 出た!!

 校長モードの、おしとやかエリエル様。

 そういえば、最後に校舎のカギをかけに行っていたんだっけ。


 なんだか顔がびみょうに固まってますけど? 


「あれね……もう女神パワーであの二人を……」

「ちょっと、何考えてるんですか、めが……校長先生!」

「それはあれよ。偉大なる女神であるこの私の力で、二人の記憶を!」


 私はあわてて、エリエル様の口をふさいだ。

 腰に手をあてて満足げにうなずいてる場合じゃないですよ!


「……今、女神といいましたかな?」

「あ、なんでもないんです」


 ……ちょっと女神さま?

 ……正体明かしたらダメって言ってましたよね?



**********  

 

 私たちは玄関前で、鈴木さんの車を待っていた。


「遅えなぁ、鈴木のやつ……」

「すいません、送迎まで……」

「お嬢ちゃん、市民の安全ってやつを守るのが警察の仕事なんだわ」

 

 ――学校に入る前に見たんだけど。

 

 周囲にはたくさんの人だかりができていた。

 カメラとかマイクを持った人もいたけど、あれは多分、マスコミだよね。

 今もたくさんの声が、校門側から聞こえてくるし。


 あはは……さすがに、あの中を歩いて病院に戻るのは無理そうかなぁ。


「まぁ、あれだ。どうせあいつら、別の話題があれば飽きるだろうから」

「そうですか……」

「お、来たな」


 ちょっと高そうな車が目の前にとまった。

 来る時にも乗せてもらったんだけど、白と黒のパトカーですって感じじゃのなくて、普通の車。

 これって覆面パトカーっていうやつだよね。

  

「おまたせっす。さぁ、乗って乗って」


 ……あれ?

 ……後ろに誰か乗ってるんだけど。


「こんにちは、水沢さん」

「春ちゃん先生?!」


 なんで春ちゃん先生がいるの?

 慌てて後ろを振り向くと、エリエル様もきょとんとした顔をしている。

 校長先生の指示って感じじゃなさそう。


「水沢さん、先ほどご両親から連絡がありました。早く空港に迎えに行きましょう」

「え? お父さんとお母さん?」


 連絡した時に、すぐ帰国するって言ってはいたけど。

 今日だったんだ。


 なにかメッセージ来てたっけ……。


「メッセージ確認するピョン?」

「……水沢さん……ピョン?」

「今の声、なんっすか?」

 

 うわぁぁぁ。

 なんでこのタイミングでしゃべっちゃうかな、聖剣ちゃん!!


 あわてて腰にぶら下がっていた剣を抱え込んで、車に乗り込む。


「な、なんでもないです。あはは、嬉しくてピョンって飛び乗ろうって」

「そ、そう。よかったわね……」

「なるほどっす……」


 ほらぁ……。

 引かれてる、引かれてるんですけど……。


「それじゃ、先輩。先に空港送ってくるんで。先輩はタクシーでも捕まえてください」

「お前……。わかったよ。本部にはオレから連絡しとくわ」

「よろしくっす。それじゃあ行きますよ」

「え。ちょっとまって、女神たるこの私も乗せなさいよ!」

 

 私たちを乗せた車は、学校の外に動き出した。

 小太りの刑事さんとエリエル様を置いて……。



**********


「水沢さん、もう大丈夫よ。普通にしてても」

「シートベルトちゃんとして欲しいっす。警察の車なんで」

「はい、コートありがとうございます」


 私は、かがんでいた姿勢を戻すと、かかっていたコートを先生に返した。


「どういたしまして。すぐ追跡されたら大変ですもの」

「まぁ、どうせすぐバレるっすけどね」

「鈴木さん、次のポイントまでどれくらいなの?」


 あれ?

 なんだろうこの違和感。

 この二人……。


「……鈴木さんと春ちゃん先生って、お知り合いなんですか?」

「んー、知り合いっていうか同士かしら?」

「そうっすね。長年の夢がかなうかと思うと、もう我慢できないっすよ!」

「え?」


 なんだろう。

 何かが変だ。


 慌てて外の景色を見ると、向かってる方向が空港と違う気がする。


「鈴木さん、この道違ってませんか?」

「もうみんな集まってるって。いそぎましょう?」

「了解っす。もうすぐ中継ポイントっすよ」


 春ちゃん先生が、嬉しそうにスマホの画面を確認している。

 おかしい、絶対おかしいよこれ。


「お姫様、そんなに不安そうな顔しなくても平気よ。私たちは味方だわ」

「そうっすよ。異世界のお姫様」


 ……え?

 ……二人とも何の話をしてるの? 

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