第65話 転生テイマーと丘の上の再会


「説明してもらえません?」

「ちょっとなになに。なんで怖い顔してるの?」

「なんで、私とシャルルさんは転生の仕方がちがうんですか?」

「あー……それね……」


 女神エリエル様は、口笛を吹きながら目を逸らした。


 確かにね。

 私の好きなラノベでも、異世界に行く方法っていったら。

 

 ――召喚と転生が王道だよね。


 だけど。

 だけどさぁ。


 ……。


 ………。


 私って、どっちも経験してることになんですけど?!

 召喚されてた後に、転生してるよね?!


 この世界に来た人ってみんなそうなんだと思ってたんだけど。

 シャルルさんの話だと違うみたいだし。


 えーと、なにこれ。


「あれよあれ。勇者だから召喚みたいな感じなのよ、うん!」

「えー?」

「女神の私が言うんだから間違いないわよ! 勇者はそれだけ世界にとって大事なの!」

「ねぇ、私以外にも学校で行方不明になった人がいるみたいなんだけど、みんなこの世界にいるの?」


「それはないわね。聞いたことないわ」


 彼女は得意げに腰に手を当てて胸を張る。


「それじゃあ、別の世界にいるってこと?」

「そうなのかしら? 私にもそれ以上はわからないわね」


「そっか、じゃあこれで聞いてみればいいよね」


 私は聖剣を鞘からぬくと、『神ッター』のアイコンを押してみる。


「ちょっと待って! 今私すごくヤバい立場なの!!」


 女神様は慌てて私から聖剣をとりあげる。

 聖剣はキラキラと輝くと、再び私の手元に出現した。


 さすが呪いのアイテム……。


「そういえば、そんな機能つけたんだったわ」

「ねぇ、私が神ッターで質問したらダメなの?」

「ダメに決まってるじゃない! それ女神用のアプリなのよ!」


「じゃあなんでインストールしたんですか!」

「どうせもうすぐ使えるようになるから、良いかなって思ったのよ……」

「どういうことです?」

「あ……」


 エリエル様は、慌てて口に両手を当てた。


「と、とにかく。そのアプリは禁止よ、禁止! その代わり私が答えてあげるから!」

「……ホントに?」

「ええ。だたし、私が知ってる範囲のことだけよ」


 うーん。


「じゃあ質問。私をこの世界に連れてきたのはエリエル様?」

「それは違うわ。転生者の魂を集めるのは別の女神の仕事なのよ」

「そうなんだ」


 へー。

 女神様っていろんな仕事があるんだ。


「それにね。召喚だともっと上位の女神が選ぶはずよ。そうねぇ、例えば……」

「例えば?」


「女神長とか……」


 ――女神長?


「ねぇ、それって……」



「うはっはー。うっははー!」

「うはっはー。うっははー!」


 突然、外から大きな声が響き渡る。

 私と女神様は顔を見合わせると、そっと窓を開けて外を見渡してみた。


 丘の上にあるこの家に向かって、あやしげな集団が向かってきてる。

 魔王軍の皆さんと……えーと?


 その中心に、剣を背負った戦士と派手なピンク色のローブを着た魔法使い。


 あー……。

 帰ってきたんだ。


「やぁ、愛しのショコラ。元気そうでよかった!」

「魔王軍に捕らわれたって聞いて、慌てて帰ってきたのよ?」


 二人の手に握られていたのは、『勇者新聞』。


 そっか。

 あの新聞だと、私は魔王軍に捕らわれてるんだっけ。


 私は大きく深呼吸すると、なるべく笑顔で二人に話しかけた。


「おかえりなさい、お父さん、お母さん!」



**********

 

「いやぁ、話を聞いたらさ、この丘の屋敷に住んでるって言われてね」

「最近の若い方は親切ね~。みんなで私たちの道案内をしてくれたわ」


 丘の上にあるネコ型屋敷の応接間。

 テーブルの上には人数分のティーカップ。


 部屋には紅茶の香ばしい匂いが広がっている。


「えーと、それでね。いろいろあって、勇者パーティーを抜けちゃって……」


 私は身振り手振りで、これまでのことを説明している。


 向かいのソファーに座っているのは、私の両親。

 私の隣にはミルフィナちゃんとエリエル様。


 ふと部屋を見渡すと、ダリアちゃんとシェラさんが壁際に直立不動でたっている。

 

 ――え?

 ――なんで?


「……ダリアちゃんも、シェラさんもソファーに座ろうよ?」


 慌てて二人が首を振る。


「お姉さま、それは無理です! だって……」

「旦那様、その方たちは……」


 ん?

 その方たちって?


「まぁまぁ、可愛らしいお嬢ちゃんたちね~」

「いつも娘がお世話になってるみたいで、本当にありがとう」


「そんな、お姉さまには私がお世話になってます!」

「頭をおあげください。偉大なる竜殺しの冒険者、ダルク様、フィーナ様」

「え……竜殺し?」


 私はびっくりして、ソファーに座ってる両親と、がちがちに固まって立っている二人を交互にみかえす。


「いやねぇ、正確には殺してなんていないわよ~」

「あはは、ちょっといたずらをしていたドラゴンを倒しただけなんだけどな」


 確かに二人とも冒険者だし、ほとんど家に帰ってこないけど。


 あれ。

 そんなの有名だったの?


「お姉さま、もしかして知らないんですか?」

「旦那様?」


 二人はびっくりした表情で私を見ている。


「お二人は、突然王国に出現した巨大な赤竜を倒した英雄なんですよ!」

「はぁ~。旦那様が『勇者』なのは、ご両親が英雄だからなんですね。納得しました!」


「「勇者?!」」 

 

 今度は両親が立ち上がって、驚いた表情を見せる。


「あらあら、勇者は世界でただ一人よ?」

「勇者なら、グランデル王国の現国王になってるだろう?」


「あれは偽物ですわ!」

「ああ、アイツは偽物よ!」


 隣に座っていたミルフィナちゃんと女神エリエル様が、興奮したように同時に声を上げた。


「聖剣に選ばれたものが勇者なんだよ? ショコラが勇者なわけが……」


 お父さんが両手を広げて不思議そうな顔をしている。


「あら? 聖剣でしたら先ほどからショコラちゃんが持っていますわ」

「ほらそこにあるじゃない! 私が可愛く改造してあげたんだから!」


 二人は身を乗り出いて、ソファーに立てかけられた……ううん、勝手に出現していた聖剣を指さした。


「ち、ちがうの。これは、ただの護身用の剣で……」


 私は慌てて剣を手に取ると、部屋の奥に置いてある予備のソファーに向けて放り投げた。


 キラキラキラ。


 美しい放物線を描いて空中を舞った聖剣は、眩しい輝きを放って雪のように消えていくと……再び私の手元に出現した。


 ……あーそうだった。

 ……呪われてたんだっけ、この剣。


 え、ちょっと、なにこれ!

 聖剣は私の手元で勝手に鞘から抜けて、強い輝きを周囲に放ちだした。


「これは……まさに聖剣の輝き……まさか私の娘が……」

「……ショコラちゃん。アナタ、勇者……勇者なのね?」 

 

 あー。

 あっさりバレちゃった。


 お父さん昔から勇者に憧れてたから、私が勇者ってショックを受けそう。

 何かしゃべらないと。

 えーと。

 えーと。


 こんなの、どう説明すればいいの!

 

「あはは、そうか私たちの娘が勇者か……すごい……すごいじゃないか!」

「まぁ、なんて素敵なんでしょう! アナタ夢がかないましたね!」


 ……あれウソ。

 ……喜んでくれてるの?


「そうか……それじゃあショコラはこれから勇者として魔王を退治するんだね?」

「あらあら、お父さんもお母さんも冒険者なんだから、アナタを手伝うわよ?」

「あー……えーとね。そのことなんだけど……」


「ショコラ! 新作のアイスが出来たから急いで持ってきたよ。あれ? お客様?」


 突然部屋の扉が開いて、小箱をかかえた魔王シャルルさんが飛び込んできた。

 なんでこのタイミングで……。


「シャルルさん、ごめん。今私の両親が帰ってきてて……」

「ショコラのご両親? そ、そうか。初めまして、お義父様、お義母様」


 シャルルさんは慌てて頭を下げる。

 え。ちょっと今なんて言ったの? 


「……なんだろうな。私はキミからお義父様呼ばわりされる筋合いはないんだけど……?」

「ウチのショコラちゃんとはどういった関係なのかしらぁ?」


 ほらぁ!

 誤解されちゃったじゃない!!


「な、なんでもないの。シャルルさんとは普通のお友達で!」

「ショ、ショコラ……さんとは親しくさせてもらっています」

「ちょっと、魔王さんは少し黙ってて!」


 あ。


「魔王……?」

「申し遅れました、わ、わたくし魔王をしていますシャルル・フォン・ラトニウス・グラッフォルト三世と申します」


 魔王シャルルさんは、ロボットのようにぎこちない動きで両親にお辞儀をした。


 あはは……。



 どうしよう、これ。

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