第66話 追放テイマーと大切な転生仲間
「朝にゃんー! おきるにゃーん!」
ちいさな丘の上の朝は、猫の鳴き声で始まる。
最初は近所迷惑だからって、止めさせたんだけどねぇ。
何故か、村の人達や魔王城から続けてくれっていわれちゃったんだよね。
目覚ましにちょうどいいんだって。
あと癒される的なこともいわれてたけど……。
まぁ、確かに声はカワイイ?
「ご主人様、朝にゃー! ご飯にゃー!」
「聞こえてるってば。今準備するから待ってて」
「わかったにゃん。たのしみにゃーん!」
……うーん。これって。
……ホントに近所迷惑じゃないのかなぁ。
キッチンで朝食の準備を始めていると、周囲から木づちやノコギリの音が聞こえ始めた。
これもうすっかり、フォルト村に流れる朝の音楽って感じなんだよね。
私は大きく伸びをすると、窓から差し込む暖かな陽の光を手をかざして見つめた。
フォルト村では、最近いろんな建物が建ち始めている。
いわゆる、建築ラッシュっていう感じなんだよね。
シェラさんたちエルフの一族とか。
もともと魔王城があった大陸東側に住んでいた魔族とか。
本当にたくさんの人たちがフォルト村に移住してきたからなんだけど。
なぜか。
なぜかさぁ。
この小さな丘を囲むように建物が作られていくんだよね!!
村から少し離れたのどかな田舎の丘だったのに。
使役獣のみんなにご飯を上げながら、丘のふもとの景色をぼんやり眺める。
目の前に広がる風景は、なんだか……すっかり城下町みたい。
はぁぁ。
どんどん私の理想のスローライフから遠ざかってる気がするよぉ。
……。
………。
もう!!
ノー!
ノーだよ!
「あらあら、朝から元気ねぇ、ショコラちゃんは」
「おはよう、ショコラ。いい天気だ、魔王討伐にもってこいじゃないか!」
「あはは……。おはようございます、お父さん、お母さん」
お父さんの背中には相変わらず大きな剣。
お母さんも魔法を使うための杖が握られている。
「あのね、何度も話したけど。魔王さんは私の調教スキルでテイムしたの! だから味方なんだってば!」
なんだか、自分で言っててもちょっと意味わからないセリフなんだけど。
でも事実だし。
どう説明すればいいのよ。
「うんうん。もちろん娘の言うことは信じてるさ。ただ問題はそこじゃないんだ……」
「じゃあ、なんで討伐とか言い出すの?!」
「……あいつの……ショコラを見る目が気に食わん」
――はい?
「ちがうのよ。お父さんねぇ、シャルルさんにアナタをとられるって大騒ぎしてるの」
お母さんがクスクス笑いながら私の頭を優しくなでてくれた。
「ば、ばか。違うと言っただろう! あいつの目はアレだ。隙あらば魔界を取り戻そうとしてる目なんだ!」
シャルルさんが魔界を取り戻す?
別に奪われてないと思うんだけど。
「それで、ショコラちゃんはどうなの?」
「え? どうって?」
「うふふ。シャルルさんのことよ。お母さんは真面目そうで良い人だと思うなぁ~」
「え?」
「ちょっとまて! お父さんは絶対に認めないぞ!」
……。
ちょっと。まさか、そういうこと?
自分の頬が赤くなるのが分かる。
「ちがうから! 魔王さんは友達で仕事仲間なの!」
「あら、でもシャルルさんは、アナタに気がありそうだったわよ?」
「ええええええええ!? ないから、そういうの全然ないから!!」
私は慌てて両手を振って否定した。
「目を覚ましなさい! あの男はお前をダマそうと……うっ……!」
大声で叫ぼうとしていたお父さんは、いきなり大きく吹き飛んで倒れた。
「あらあら。娘の恋路をじゃまするなら、容赦しませんよ?」
お母さんの手に握られている大きな魔法の杖。
杖から再び風の塊が放たれると、お父さんはさらに大きく吹き飛んでいった。
「うふふ、お母さんはショコラの味方よ。安心して?」
「あ、ありがとう」
って。
恋路とか、そういのは無いんだからね!!
**********
「あれ? ショ、ショコラ。もしかして疲れてる?」
「うん……ちょっとだけ」
魔王城の朝のミーティングが終わった後。
私たちは謁見の間にぼーっと残っていた。
「オレでよかったら聞くよ? なにかあった?」
「うーん、大したことじゃないんだけどね……」
シャルルさんは、心配そうな瞳で私を見つめている。
服の上からでもわかるくらい、たくましい体格。
ぞくっとするほど色気のある美しい顔だち。
この黒髪のイケメンさんは……黙ってれば本当にカッコいいんだよね。
あれ? でも。
気づかれないように、普通にふるまってたつもりなんだけどな。
何で疲れてるってわかったんだろ?
「今日も家に両親が来てさぁ。心配してくれてるのは嬉しいんだけど……」
「ショコラのご両親が来てたのか。はっ、挨拶、挨拶しにいかなくては!」
「あはは……ややこしくなるからやめて欲しいなぁ……」
「いや、だって。将来オレのお義父さん、お義母さんになるかもしれないじゃないか!」
「うーん、なったら大変だよー?」
だって。
お父さんたぶん、本気で討伐するつもりだったんじゃないかな。
なるべく魔王さんを近づけないようにしないと。
「い、いや。そんな苦労くらいいくらでも……」
「あは。ありがと」
魔王さんとはいまではこんな風に気軽に話せるようになった。
やっぱり、同じ転生者仲間っていうのが大きいのかな。
前世のことも普通に話せるし。
――気の許せる友達って大事だよね。
「そうえば、お母さんが会議終わったら食べてって、これ持たせてくれたの」
「お弁当? ありがとう、ちょうどお腹がすいてたんだ」
「中身見たらびっくりするよ。ほら!」
ランチボックスにはいっているのは、三角形の可愛いおにぎりたち。
「うわ、この世界で初めて見たよ!」
「だと思った。ほら、ウチの両親って冒険者やってるでしょ? 出かけた先でみかけたんだって」
「へー。どの辺のにあるんだろう?」
「大陸の東の端にいくつか島があって、そこがね日本みたいな国なんだって」
シャルルさんはじーっとおにぎりを見つめている。
「せっかくだし食べて。お母さんも喜ぶから」
「ありがとう、いただくよ」
私も手に取ると、おもいきりかぶりつく。
ふっくらして美味しい。
ノルっていう植物の葉で包んでるんだけど、向こうの世界の海苔みたいにパリパリした食感が伝わってくる。
ふぅ、やっぱりおにぎりって最高だよ。
「すごく美味しそうに食べるね」
「シャルルさんこそ」
私をみて嬉しそうに微笑んでいる。
もう。
見世物じゃないんですけど。
「よし! 今度はその島国を占領してみるか……」
「ちょっと、ダメだからね? これ以上魔界を広げる予定はないから!」
「いやでも、ショコラが喜ぶならさ」
「占領しなくても食べれるからね!」
もう!
これ以上、領地をひろげてどうするのよ。
ただでさえ……この間の王国との戦いで広がったんだから……。
「おくつろぎのところ失礼します!」
突然大きな音を立てて、謁見の間の扉が開いた。
「どうふぃた、なにかったのくぁ?」
魔王さんが、おにぎりをほおばったまま、伝令に尋ねる。
「はっ。主様、魔王様にどうしても拝謁したいと、訪ねてきているものがおります」
「怪しいものは通ふぅなと言っておいたはふぅだぞ!」
「それはそうなのですが……」
頭をさげた瞬間、背中の旗が床に大きくぶつかった。
反射的にのけぞる伝令。
え? ちょっと。
なんで伝令の人は嬉しそうにガッツポーズきめてるの?
お笑いコント?
お約束なの?
「え、えーと、どんな人がきたんですか?」
私はなるべく笑いをこらえながら、伝令に話しかけた。
「勇者新聞の記者を名乗っております」
――え?
勇者新聞って。
なんで勇者お抱えみたいな記者が、敵の魔王城に乗り込んできてるの?!
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