第61話 追放テイマーと猫型ギルドハウス


 黒猫マークでおなじみの輸送ギルド。


 普段なら昼間ってあんまり人がいないんだけど、今はたくさんの配達人とギルド職員であふれかえっている。


「ねぇ、ショコラ?」

「なあに、リサ」

「アンタさぁ。この申請書……」


 ギルドのカウンターに置かれているのは、私が提出したパーティーメンバーのリスト。


「あはは、またメンバーが増えたんだよね。登録よろしく!」

「……いや、そういうことじゃなくてさぁ」

「え? なにか間違って記入してる?」

「そうじゃないわよ!」


 リサは両手でカウンターを思い切り叩いた。


「ちょっと、リサ。どうしたのよ?」

「はぁ……どこから突っ込めばいいいのかしら……」

「え?」

「まず、このメンバーリスト!!」


 彼女はカウンターのメンバーリストを押し付けてきた。


「だから、なんなのよぉ」

「あのね!」


 リサが頭を押さえながら大きな声をあげる。


「賢者様がいて、ちびっこ魔法使いがいて。で、追加メンバーが、精霊使いのシェラさん?」

「あーあと。ミルフィナちゃんと、ベリ……ベールもいるから!」

「そうね……元王女までいるのよね。って! もうほとんど勇者パーティーじゃない!!」

「そ、そうかな?」


 勇者パーティー。

 私は、ちらっと腰にくっついている聖剣に視線を向けた。


 村に皆にはナイショにしてるけど。

 よく考えたらさ、勇者って私なんだから……。

 ほとんどというか……完全に勇者パーティーだよねぇ。


「で。この豪華メンバーでやることが……なんで輸送なのよ!!」

「え? だって輸送パーティーだし、うち」

「普通はさ、魔王倒しに行ったり……って魔王は倒したことになるの、これ?」

「倒してはいないけど。うーん、仲間とか友達かな?」


「いまさらだけどさぁ……それもどうかと思うわけよ……」


 リサはカウンターに両肘を付けて頬に手をあてる。

 

「で。もう一人の追加メンバーが、エリエルっていう名前で職業が……女神?」

「うん、本人がどうしてもそれしか書きたくないって」

「確かにエリエルって女神様の名前だけどさぁ……」


「ちょっとちょっと、失礼な子ね。せっかく、天才女神エリエル様がこの世界に降臨してるっていうのに!」


 カウンターにひょこひょこ背を伸ばしてリサに訴えかける、ふわふわ金髪の女の子。

 

 可愛いぃぃ!!

 なにこのカワイイ生き物!!


「ちょっと、ショコラもちゃんと伝えなさいよ!」

「えーと。一応本物の女神なんだけど……って信じないよね?」


「まぁ、アンタがいうなら信じなくもないけどさ。女神ねぇ……どうなってるのよ、ホントに」


 リサは飛び跳ねてるエリエル様を見て、大きなため息をついた。


「ふふん。どうやら私の偉大さが伝わったようね。おもいきり崇めてもいいのよ?」

「はいはい、で。女神様も運送ギルドで働くわけね?」

「荷物を運ぶのなんて、女神の私にかかれば、ちょちょいのちょいよ!」


「ふーん。じゃあ、女神様だったらさ、なにかすごいことやって見せてよ?」

「え、女神の力って神聖なのよ? そんなに簡単に力をみせたりしないわ!」


 リサの質問に、両手を腰に手をあてて偉そうなポーズを取るエリエル様。


 ……。


 …………。


「……ねぇ、コスプレ好きな子供にしか見えなんだけど。ウチの姪っ子もこんな感じよ?」

「あはは、そう見えるよねー。うん、私も知らなかったらそう思うかなぁ」

「ホントにホントなわけ?」

「うん、まあ……」


 彼女は私に顔を近づけると、こそこそと話しかけてくる。


「ちょっと、聞こえてるわよ! いいわ。私が天才女神だっていうことを証明してあげるわよ!!」


 エリエル様は両目を閉じると、建物の床に手をあてた。

 

 ――次の瞬間。


 部屋全体がまばゆい光に包まれていく。


「なにこの光……」

「え、なにこれ?」

「なんだなんだ、なにがあった?」


 人でいっぱいのギルドハウスがざわめきだした。


 うわぁぁぁ。

 今度は何?!


 建物がきしむような音を立てて、大きく上下に揺れだした。


「うにゃーーーん! 歩けるようになったニャ。しゃべれるようになったニャ。これで無敵ニャン!」


 なにこの大きな声。

 まるで前世の校内放送みたいに、建物内全体に響いてるんだけど?!


「うわぁぁぁ」

「なんだこれ」


 床が大きく傾いて、みんな立っていられない。

 私たちは次々と、入り口から建物の外にはじきだされていく。


「うにゃーーーーん! みんな輸送ギルドをよろしくニャン!!」


 え。


 目の前にはあるのは、今さっきまでいた輸送ギルドの建物なんだけど。


 なんで。

 なんで。


 大きな足が四本はえてるのよ!!


 おまけに、屋根には大きな三角形の耳。

 奥では大きな尻尾のようなものが、ぶんぶん動いてるし。

 窓の形も変わっていて、大きな吊り上がった目に見えるし。

 入り口なんて、猫の口のように曲線を描いているし。


 ……なにこれ?


「旗をふって進もう~旗を振って進もう~、大事なにもつを届けるために~」 

 

 ギルドハウス……とういか、もうすっかり巨大な猫のような建物は、嬉しそうに歌を歌い始めた。

 中からは取り残された人たちの悲鳴が聞こえてくる。


「真心こめてどこまでも~、幸せを届けるために~、あの山こえて谷こえて~ニャン!」


 広場にいる村人たちは、みんなポカンとご機嫌な建物を見つめている。



「どう? 建物そのものを動けるようにしてあげたわ。これで大きな荷物も運べるわよね?」

「……これ、エリエル様がやったの?」

「そうよ、やっぱり私って天才よね! 褒めていいのよ?」


「今すぐ元に戻してください!!」


 なにこれ。

 ギルドハウスが荷物を運ぶとか。


 

 ……聞いたこと無いんだけど!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る