第48話 転生勇者と女神の聖剣


<<勇者目線>>


「あはは。なんだ、すごい人じゃないか!」

「それはそうじゃろ、なにしろ勇者殿のお祝いじゃからな」


 グランデル城のバルコニーから広場を見下ろす。

 たくさんの人たちがオレの王位継承をお祝いしていた。


 いやぁ、なんて素敵な風景なんだ。


「ほら、もっとにこやかに手をふらんか、わが王妃よ!」

「何度言ったらわかるんだジジイ! オレはお前の息子な!」

「なんじゃ……つれないのう」

「いやいや、なに人の手をがっしりつかんでるんだよ、離せって!」

「いいではないか。夫婦なんじゃし」


 なんで王妃にこだわるんだよ、このおっさん。

 あいにく、そんな趣味はないんだよ、オレ。


「さすがの人気でございますな。我らの新たな王に絶対の忠誠を!」


 振り向くと、大臣をはじめ城内の人間が一斉に頭をさげる。

 

「……なぁ、オレ王だよな? 王妃じゃないよな?」

「当然でございます。新たなる王よ」

「……だよな」



**********


 オレは、養子として王家に入り王位を継ぐことになった。


 まぁ、当然の展開だな。

 勇者のオレが王位につくのは、転生モノのお約束みたいなものだ。


「陛下。どうか、その聖なる力でこの国をお救いください」

「任せとけ! 勇者で国王のオレに不可能はない!」


 オレは豪華な椅子に座ると、大きな声で宣言した。

 玉座の間に、歓喜のどよめきがおこる。


 うーんいい気持ちだ。

 そうか。この時のために転生してきたんだな、オレ。

 神に選ばれた唯一の勇者のオレが悪の魔王から王国を救ってやる!

 いやぁ、燃える展開だぜ!


「新たな陛下に、お願いがございます」

「なんだ、いってみろ」


 両手をさすりなら、大臣が近づいてくる。

 こいつ、前国王にペコペコしてたやつだな。


「国民の前で、聖剣を掲げてアピールしてみては。士気も一気に高まりますぞ!」

「いや……それは……」


「それはいいアイデアですな、さすがは大臣殿!」

「魔王など恐れるに足りぬこと、見せつけましょうぞ!」

「陛下、是非お願いいたします!」


 大臣は、得意げにオレを見つめてくる。

 

 ……いや、お前良いこと何も言ってないからな!

 ……むしろ、オレ今ピンチだからな!


「い、いいか。聖剣とは魔王を倒すための聖なる武器。みせものではないのだ」

「しかし……」

「くどい! そのような邪念で剣の輝きが無くなってしまったらどうするのだ!」

「ははっ。出過ぎたまねをいたしました!!」


 大臣をはじめ、家臣たちが一斉に頭を下げる。


「聖剣は常にオレと共にある。安心してついてこい!」


 オレは鞘に入ったまま、両手で聖剣を高くかざした。



********** 


「クソっ! なんなんだこれは!」


 部屋に戻ったオレは、腰に下げていた剣をベッドに投げ飛ばした。

 オレは転生勇者なんだぞ!

 なんでこんな目にあわないといけないんだ!

 

 ――ある日聖剣が消えた。

 

 いや、正確には手元から消えたわけじゃない。

 目の前で突然輝きだすと、偽物にすり替わってしまった。


 遠目にはそっくりだが、手にとると全く違うものだとわかる。

 羽のように軽かった剣は、鉄の塊のように重い。


 豪華な装飾もよく見ると微妙に雑でゆがんでいる。

 持ち手の柄には『天才女神エリエル作』の大きな文字。

 鞘から抜くと『どう? 前のと似てるでしょ。これ秒で作ったのよ、ねぇ、すごいでしょ』と刃に彫りこまれている。



 ……。


 …………。

 

 なんだよこれ。ふざけるな!

 

 女神エリエルって、転生する前に会った神様のことだよな。

  


「勇者様……大丈夫……?」

「なんだ……シェラいたのか」

「……呼ばれたので……部屋でずっと待ってました……」

「ああ、そうだったな」


 この世界で結成した勇者パーティーも、気づけばこいつだけになったな。

 

 銀の柔らかな長い髪に手を入れる。

 緑色の美しい瞳に、オレの顔が映っている。


「勇者様……」


 オレはそのまま、彼女の唇を奪おうと顔を近づけていく。


 前世のアニメや小説でエルフはさんざんみてきたけど、シェラは本当に美しい。

 そのうえ、控えめな性格で上品さを感じる。

 最高の女だ。


 まぁ、他のやつはともかく。

 エルフのシェラ……こいつはぜったいにオレを裏切らない。


 彼女の一族は、はるか昔から聖剣を携えた勇者に仕えてきた。

 勇者が現れると、一族から最も優れた巫女を選び、勇者パーティーに送り込むんだそうだ。

 聖剣を守りその主と結ばれることを絶対の使命として。

 

 つまりさ、オレと結ばれるために生まれてきたんだよな。

 あはは、最高だぜ!


 それに。

 こいつにも魅了チャームスキルを存分に使っている。

 他の女たちのように落ちるのも……時間の問題だろ。


「待って……勇者様……お尋ねしたいことが……」

「ああ、王妃の順番のことか? 大丈夫、シェラの事も愛してるよ」

「……いえ……そうではなくて……」

「なに?」


 シェラはオレの顔を両手で押し返してくる。


「あのさぁ、なにが気にくわないんだよ、シェラは!」

「その聖剣……偽物……ですよね……」

「な!?」

「聖剣の……気配が……このお城から消えてしまいました……」


 やばい!

 さすが巫女だけのことはあるな。

 

「ち、ちがうんだよ。王になったからさ、本物の聖剣が悪用されないように、宝物庫にしまってるんだ」

「……でも、気配が……全く……」

「封印! そう封印してあるんだ!」


 ち。

 面倒なことになったな。

 

「それに……」

「それに、なんだよ。まだ何かあるのか?」


 そのまま抱きしめようとしたところで、再び、シェラに拒まれた。

 彼女の身体から、花のようないい香りが漂ってくる。

 ここまできて引き下がれるかよ!


 力づくで押し倒そうと肩に伸ばすと、彼女にするりとかわされた。


 これじゃあ、ショコラと同じパターンじゃないか。

 くそっ、まだ魅了チャームの効き目が足りないのか!


「それに……別の場所に……聖剣の気配を感じるんです……」

「別の場所?」


 ……どういうことだ。

 ……オレから聖剣を奪ったやつがそこにいるのか?


「シェラ、それは本当なんだな。オレの聖剣はどこにある!」


 彼女は、少し考えるような仕草をしたと、ゆっくりと口を開いた。



「……フォルト村……です」

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