第49話 追放テイマーと温泉旅行


「みなさま。お座席の準備はよろしいでしょうか? まもなく出発しますー!」


 私は中央の通路を歩きながら、座席表をチェックしていく。

 

 えーと。

 前から二番目が、薬局のご夫婦で。

 その後ろが、道具屋のおじさんで。


 それから、えーと……。


「ショコラちゃん、ありがとうねぇ。この人と旅行なんてどれくらいぶりかしら」

「うるせぇ、まぁそのなんだ……ありがとなぁ」

「うふふ。照れてるんですよ、この人」

「うるせぇ、うるせぇ!」


 声をかけてくれたのは、この村で一番うでのたつ大工のご夫婦。

 あんなこといってるけど、すごく仲が良くてオシドリ夫婦なんだよね。


 ……素敵だな。

 ……私もあんな風に年を重ねていけたならぁ。


 まぁ、お相手もいないんだけど。


 でも、もし。

 もしもだけど。

 出来るなら……王子と……。


 あはは、なんてね。


「どう? みんな揃ってる?」


 うわぁぁぁ。

 肩を叩かれてふりむくと、金髪の整った顔が目に前にあった。

 相変わらず、距離感がおかしいんですけど、このイケメン王子。


「う、うん。全員のったよ。あと顔が近いから!」

「わかった! それじゃあ出発しようか」


 王子は指でオッケーサインを作ると、さわやかな笑顔で御者台に向かっていく。


 ビックリしたぁ。

 おもわず両手で胸をそっと押さえる。

 まだ心臓がドキドキいってるんだけど!


 

「ショコラー。ほら、仕事終わったんでしょ。こっちおいでよ」

「おいでおいでー」

「リサ、コーディー」


 私は、親友二人が手招きしてる席まで移動する。


「ねぇ、そこ二人掛けの席なんだけど?」

「大丈夫、つめればなんとかなるって。一緒に座ろうよ」

「私が、アイドルでスリムだから平気だって!」


 長椅子には、なんとかもう一人座れそうな空間が空いている。


「もう。私別にちゃんと席あるんだけどなぁ」

「いいじゃん、いいじゃん。こっちのほう絶対楽しいって。ね?」

 

 コーディーが少し首を傾けて、上目遣いで私をみつめていくる。

 びっくりするくらい、あざとくてカワイイ!

 さすが、この村の自称アイドル様。


「アンタのそれ、天然なんだよね? 本気で引くんだけど」

「えー? リサ、それひどくない? ちょっとショコラ笑ってないで何か言ってよ!」

「んー。カワイイから許す!」

「ちょっと、ショコラはコーディーに甘いんだから」

 

 あはは、なんだか。

 前世の修学旅行ってやつみたい。

 実は行ったことないから憧れてたんだよね。


 私は二人が開けてくれた席に座ってみた。

 ちょっと狭いけど、なんとかいけそう。


 二人の甘い香りに包まれて、なんだかすごく幸せな気分。


「でも、二人がハファルルを選ぶとは思わなかったよ」

「そう? 当然の選択だと思うけど」

「ショコラがこっちにいるって聞いてたしねー」


 この馬車の集団が向かうのは、温泉地として有名なハファルル王国。


 今回準備した村人全員参加ツアーは、行き先が二か所あって。

 もうひとつはテーマパークが有名なウラヤシス王国。

 二人は絶対、そっちに行くと思ったんだけどな。


 親友ってホントに大事だよね。

 今この場で二人を抱きしめたいくらい!


「それにさぁ、ほら。アンタが行くならあのイケメン二人も来ると思ったんだよね」

「そうそう。私たちの予想通りだったね、リサ!」

「「いえーい!」」


 二人は、私をはさんでハイタッチした。

 目線の先にいるのは、御者台にいるベリル王子。


 なるほどねー……。

 この大親友め……。


「それにさ、村の若者ほとんど、こっちのツアーにきてるよ」

「あー、それも不思議だったんだよね。なんでだろ?」


 ウラヤシスは若者向けに準備したんだけどなぁ。

 リサとコーディーは、私の質問にきょとんとした表情をしたあと、大きな声で笑い出した。


「当り前じゃない! 村の若い連中、今回本気で行くみたいよ?」

「だよね、すごく気合入ってたし。私たちも頑張ろうね!」

「ねー!」


 若い連中って。

 自分たちもその仲間でしょう!!


 で。本気って、どこに行く気なのよ!?



**********


 私たちフォルト村の住人は、村人全員対象で観光地に向かっている。

 表向きは、『魔王軍に占領されちゃった、アンド、私が魔王軍のトップになったよ記念』なんだけど。


 実際には……。

 

 ううん。


 不安にさせちゃうから、これはナイショ。

 みんな旅行を楽しんでくれるといいな。


「でもさ、こんなに大きな馬車をたくさん持ってるなんて、さすが魔王軍だよね」

「あー。これね、魔王領で観光に使われてる馬車なんだって」


 巨大な馬車は、地竜とよばれている大きな四つ足の竜がひいている。

 魔王様が考案したみたいなんだけど、なんだか、観光バスみたい。


 そういえば、彼、出会った時に『転生』って言葉を言ってたような……。

 うーん。

 気のせいだよね。だって、魔王だし。


 ふと窓をみると、元近衛騎士団の一人と目が合った。

 丘の上で王子と戦った人なんだけど、若いのに騎士団長だったんだよね。


 あ、今も騎士団長だっけ。


「勇者殿! 周囲は我々、ショコラ騎士団が警備してますから、安心して旅をお楽しみください!」

「ちょっと、しーっ!」


 なに、さわやかな笑顔でとんでもないこと言ってるのよ!


「え? 勇者がきてるの?」


 二人が、きょろきょろと窓の外を見渡そうとする。


「違う違う。『夕飯なんだろう』って言ったんだよ、きっと!」

「そうなの?」

「ぷっ……夕飯とか……意味わかんない。ショコラのとこの騎士団長って面白い人なんだねー!」


 コーディーが手を叩きながら大笑いする。

 いや、そんなに面白くはないでしょ。 


 ショコラ騎士団っていうのは、先日勝手に作られた私直属の騎士団なんだけど。

 メンバーは全員、元近衛騎士なんだよね。

 騎士団長は、馬上で敬礼すると、再び隊列に戻っていった。


「やばい、彼もカッコよくない? ショコラ紹介してよ!」

「リサは気が多すぎだってば」

「アンタの周りがイケメンすぎるだけよ! ね、コーディー?」


 すぐ横ではコーディーがツボに入ったみたいで、うずくまって笑っている。


 うーん。

 楽しそうなら、それでいいかな。

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