第47話 追放テイマーと魔界の暮らし
フォルト村も含めて、魔王軍の占領してる魔王領を通称『魔界』っていうんだけど。
本当に平和でのんびりとしている。
「うーん!」
丘の草原に寝転がると、ポケットに入ってたコインを空にかざしてみた。
陽の光を浴びたコインは金色にキラキラ光る。
天空の城がデザインされた真新しい通貨なんだけど、すごくキレイ。
今度、私の顔に変えるって言われたので、全力で拒否してるとこなんだよね。
こんなに素敵な絵柄なんだから、変えたらもったいないし。
ていうか、私の通貨なんてお断りだけど!
「魔王軍かぁ……なんだか全然悪っぽくないんだよねぇ」
この世界では国ごとに通貨が違ったりしたんだけど、魔界では共通のものを使用している。
おかげで、領内の経済がすごく活発になっている。
魔王軍が占領した時に最初に行うのがこの通貨交換なんだけど、円滑に変更してもらうために、少しだけ上乗せしてるんだって。
リサもコーディーも、得したって嬉しそうに話していた。
あと、魔王ランドの招待券もついてきたんだって。
今度三人で遊びに行く予定なんだよね。
みんな今、彼氏とかいないし。
寂しくないんだから!
やっぱり友達って最高だよね!!
でも……どうせだったら、ベリル王子と行きかったなぁ。
あはは、なんてね。
……まぁ、そういう仲じゃないし。
……最近全然会えないし。
「……会いたいな」
「やぁ、ショコラ。こんなところにいたんだね」
突然、目の前に金色の美しい髪が飛び込んできた。
澄んだ青い瞳の中に、私が映りこんでいる。
あれ、幻?
それにしてはすごくリアルだし。
私の大好きなお日様みたいな匂いがする。
「誰に会いたいの?」
「……え」
「だからさ。誰に会いたいのかな、ショコラは?」
……。
…………。
もしかして本物?
うわぁぁ。よりによって本人に聞かれるなんて!
「な、なんでもないから。あと、顔近すぎかな!」
私は慌てて両手で顔をおおった。
は、恥ずかしすぎる。
「なんだ。僕にだったら嬉しかったのに」
「もう、その自信はどこからくるのよ!」
当たってるけど。
おもいきり当たってるけど。
ダメだ。恥ずかしくて顔を上げれない。
――なにか話題を変えないと、うん。
「今日は珍しく外に出てるんだ?」
「ずっと家の中で会議だと疲れちゃうからね。僕もアレスもさ」
「なにかアイデア浮かびました?」
「うーん、相手が勇者だからね、やっぱり難しいかな」
王子は、勇者様に国を追われてフォルト村に来てから、ずっと賢者アレス様のところで会議をしている。
賢者の塔で一番優秀だったアレス様なら、この問題も解決できるかもしれない。
たまに変だけどすごく頭いいもんね、アレス様って。
ちなみに、ミルフィナちゃんは我が家で暮らしてるんだよね。
通販が間に合ってホントによかった。
部屋がベッドで占領されちゃってるけど、これはまぁ、仕方ないかな。
「隣いいかな?」
「あ、うん」
ベリル王子は自然な感じで私の横に座った。
はぁ、意識してるの私だけなんだろうなぁ……これ。
い、いいけどさ、別に。
「ショコラ、その恰好ってことはさ、魔王城に行ってたの?」
「うん、毎朝の日課だから。一応、主ってことになってるし」
「ふーん。ショコラらしくて似合ってるんだけどね……でもあまり行ってほしくないなぁ」
「え、なんで?」
「それはさ……」
王子がセリフを言い終わる前に、仔馬のチョコくんが、頭をすりよせてきた。
「うわ、こら、くすぐったいったら。もう、甘えん坊なんだから」
足元に白狼のアイスちゃんが近づいてきて、丸まって横になった。
可愛いなぁ。
空を見上げると、赤い小鳥のイチゴちゃんがキレイな声で鳴いている。
「……ねぇ、どうみても普通の動物にしか見えないんだけど」
「まぁ、普通そうだよね」
「……ほんとに魔獣なの? この子達」
「ショコラは、先輩たちを使役してて何も感じない?」
「うーん」
みんなちょっと力もちかなって思ったりするけど。
それくらいなんだよね。
ナイトメアとか、雪狼とか、ましてや勇者を導くフェニックスとか。
どうみても違うと思うんだけど。
「まぁ、ショコラがそれでいいなら、良いと思うよ」
「えー、なにそれ」
「言葉通りの意味なんだけどなぁ」
なにそのさわやかな笑顔。
反則だと思うんだけど。
「そこにおられましたか、第一王妃ショコラ様!」
「反逆者の元王子から、お救いしろ!」
――突然。
私たちのいる丘に大きな声と足音が響き渡る。
あの鎧、王城に招待された時に見たことがある。
たぶんこの人たち、グランデル王国の近衛騎士だ!
「ショコラ、下がって!」
「王子、お覚悟を!」
ベリル王子は、私の前に立つと、ゆっくりと剣を抜いた。
近衛騎士は十人以上いるみたい。
いくらなんでも、無理だよ。
「待って、誤解なの! 私王妃なんかじゃないし。クーデターなんてしてないし。魔王軍も無理に侵略なんてしないから!」
「元王子に言わされているのですね」
「このように可憐な王妃に手をだすとは、悪魔め!」
「なんと健気でおいたわしい。いますぐお救いしますので!」
「ちがいますってば! ねぇ、戦う必要なんてないんです!」
ダメだ。
この人たち、全然話をきいてくれそうもない。
「大丈夫、ショコラのことは必ず守るから!」
剣のぶつかり合う音がはじまった。
いくらなんでも大丈夫なわけないよ。
せめて私も。
「さぁ、王妃様こちらに!」
剣を抜こうとした瞬間。
一人の騎士が、後ろに回りこんできて、私の手を引いた。
「え、ちょっと!」
「ショコラ!!」
「早くこの場所から逃げましょう。さぁ……」
騎士が決め顔で私に振り返った直後、
チョコくんがおもいきり蹴り飛ばした。
え。
なにチョコくん。その体格。
ものすごく大きいんですけど。
いきなり巨大化してるんですけど。
「うわぁ、なんだこの巨大な火の鳥は」
「この大きな狼は……まさか、伝説の雪狼……」
慌てて声のする方をみるとは、巨大な火の鳥と白い狼が騎士たちを威嚇している。
……えーと。
……もしかして、イチゴちゃんとアイスちゃん?
驚いた私は、抜きかけた剣を落としてしまった。
鞘から抜け落ちたそれは、まぶしい光を放ちだす。
「こ、この輝きは……勇者の聖剣……」
「なぜそれを王妃様が……」
「ショコラ……?」
近衛騎士のみなさんと、ベリル王子の動きがいきなり固まった。
そういえば、この剣……聖剣だったよね。
完全に忘れてた。
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