第41話 魔王と憧れの田舎暮らし
<<魔王目線>>
「いやぁ~、今日もいい天気だね。こんな日にはマイヒロインに挨拶にいかないとね!」
「……魔王様、口調に気を付けてくださいね?」
「うぉほん。本日は王国征服にふさわしい一日である。今日も我が主人に会いに行こうぞ!」
水の魔性メルクルはクスリと笑うと、小さく手で丸を作った。
「なんと! 魔王様をこうもたやすく支配するとは!」
「我らの主とは、いったいどのような方なのですか!」
「なにとぞ、我らも謁見にお供させてくだされ!」
いやいやいや。
君たちがいったら、怖がられるでしょ。
角が生えてたり、コウモリみたいな羽根が生えてたり、見るからに魔族なんだから。
「よいか、皆のもの。我が必ずお連れする。お前たちは良いと言うまでは決して村に降りてはならぬぞ!」
オレは大きく手を振りかざして、周囲の部下に宣言した。
「おおおお!」
「いやぁ、今から主様に会うのが楽しみですな!」
「して、魔王様。我らの主様はどのような方なのですか?」
側近の一人が真剣な表情で訪ねてくる。
「うむ。そのなんだ……」
「うふふ、それがね。可愛らしい人間の女の子なのよ」
メルクルは長い髪をかき上げると、嬉しそうに側近に微笑みかける。
「メルクル様……まことですか?」
「人間の、お、女の子ですと……」
「まさか……」
ちょっとまて!、何普通に話しちゃってるの?
支配者には威厳が大事だとか言ってるのに!
もしこれで部下が反発なんてしたら……。
「静まれ、皆のもの! 我が主人は我を調伏ほどの猛者なるぞ!」
はぁ、仕方ない。最悪、オレの力でねじ伏せるしか……。
「みなのもの……」
「さぁ、みなさん、これが我らが主様のお姿よ!」
水の魔性メルクルが、突然両手を大きく広げると、巨大な水鏡が出現した。
画像に映し出されているのは、可愛らしく微笑む桃色の少女。
……。
…………。
城内に静寂が訪れる。
ほらみろ、やっぱり大変なことになるじゃないか。
「これが魔王様よりもお強いお方なのか……」
「カワイイ……」
「これは惚れるやろ……」
「カワイイは正義って本当だったのですな……」
あれ?
なにこの予想外の反応。
宮廷音楽隊が、映し出されている女の子の動きに合わせて、一斉に音楽を奏でだす。
すごい音量!
まるで前世のどこかの学校の美爆音だ。
「主様、主様ー。ふっふー!」
「アイラブ主様ー!」
「主様、最高ー!!」
城内が異様な異様なもりあがりを見せ始めた。
オレより歓迎されてない?
ちょっと嫉妬しちゃうよ? オレ。
水鏡の映像には、マイヒロインの可愛らしい姿が映し出されている。
そう、オレの胸躍る異世界ファンタジー生活は。
――あの瞬間からはじまったんだ。
**********
旅行雑誌『大陸ウォーカー』おススメの隠れスポット、フォルト村。
目の前に広がる緑のじゅうたん、道沿いに咲く花々、そして土の匂い。
遠くからは、羊に似た動物フォルトの鳴き声が聞こえてくる。
そんなのどかな風景の中で、オレ達は出会ってしまった。
まさに運命の出会いだ。
風に揺れる薄いピンク色のやわらかそうな髪。
大きな水色の瞳。
ちょっと幼くも見える可愛らしい顔。
目が覚めるくらいの美少女が……そこにいた。
「あ、あ、あ、あの。初めまして。オレ、ま、魔王です!」
「マ、マオウ……さん?」
オレは、緊張で固まってしまい動くことができない。
「……しまった! いえ、マオウではなくて……ですね。マオウデ……そう! マオウデといいます!」
ヤバい。
ヤバいぞ、オレ。
よく考えたら前世でもこの世界でも、あまり女の子と話したことがない。
どうする、どうすれば。
目の前では、ゲームのヒロインみたいな女の子が不思議そうな表情でオレを見つめている。
こんな奇跡この先一生ないかもしれない。
何か。
何か話すんだ!
「あの。よよよよよ、よろしければ、お店でご一緒しませんか!」
「そうですね。それじゃあご一緒させていただいてもよろしいですか?」
彼女はオレの怪しげな行動に引くことなく、笑顔で返答してくれた。
うわぁぁ。
なんて幸せそうに微笑む美少女なんだろう。
……ヒロインだ。
……オレの異世界生活にやっとヒロインが登場したよ。
だいたい、おかしいと思ってたんだよね。
普通さ、異世界に転生した主人公って、可愛いヒロインに惚れられるのがお約束じゃないか。
それなのに今までのオレの生活ときたら………さ。
まぁ、つまり。これまでの話は全部プロローグだったてことだな。
ウェルカム! オレの素敵な異世界ライフ!
転生させてくれた女神様、本当にありがとう!
正直今までずっと疑ってました。
ほんと、すいません。
今度魔王城に、女神像を建てるように言っておこう。
**********
――――。
まぁ、そのあと彼女に調教されちゃったりしたけど。
これは些細な問題だよね。
二人の愛の証みたいなものだ。
オレは魔王城の下にある丘の上に建っている 小さな家の扉をノックした。
ドキドキしながら待っていると、がちゃっと音がして可愛らしい笑顔が飛び込んできた。
「おはようございます、シャルル様。今日も……いらしたんですね……」
「うん、一緒に朝ごはんを食べようと思ってね!」
「おはようございます、お兄さま!」
この金髪の小さな女の子は、オレになついてくれている。
なんだか妹みたいで、正直かなり嬉しい。
「おはよう、ダリアちゃん。今日は何を作ったのかな?」
「お姉さまと一緒に、オムレツを作ったのよ! お兄さまが好きなんじゃないかなって思って……」
「そうなんだ。ありがとう。オレもこれ持ってきたんだ」
オレはお城で作ってきたポテトサラダを差し出す。
ああ、なんで幸せな空間。
ビバ! あこがれの田舎生活!
「お兄さまの手作りですか! 嬉しい!」
「あはは……魔王が手作りの料理……どうなってるのこれ……」
マイヒロイン?
なんでそんなに遠い目をしてるんだい?
「ショコラ、誰か来たの?」
「ショコラちゃん、お料理冷めてしまいますわよ?」
家の奥から、声が聞こえる。
誰が来てるのかな。
「ごめんなさい、シャルル様。今日は来客が来てるので……」
「そうなんだ。それじゃあ仕方ないね。出直してくるよ」
気になるけど。
めっちゃ気になるけど。
……今、男の声も聞こえたよね!
「えー? お兄さまも一緒に食べようよぉー」
「ちょ、ちょっと。ダリアちゃん!」
オレは、ダリアちゃん手をひっぱられて、家の中に足を踏み入れた。
そこには。
金髪イケメンヒーローみたいな男と、紫色の髪をしたお姫様のような女の子がいた。
「ショコラ、この人は?」
金髪イケメンが不機嫌そうな表情でオレを見ている。
ゲームや小説の主人公みたいな顔立ちだな。
くそう、こんなイケメンがオレのヒロインに何の用事なんだ!
「えーとね、この人は近所のシャルルさん。冒険者なんだって」
「ちがうよ、シャルル様はぁ、なんと!」
ダリアの口を、マイヒロインが慌ててふさいだ。
なるほど。
オレから名乗って欲しいわけだな。うん、恥ずかしがり屋め。
「ふはは、愚かな人間たちよ、わが名はシャルル・フォン・ラトニウス・グラッフォルト三世、魔王である!」
マイヒロイン、ショコラは一瞬固まったあと、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
――え?
――オレなにか間違えた?
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