第42話 追放テイマーは状況を整理したい


「「魔王!?」」


 丘の上の小さな家に、王子とミルフィナちゃんの大きな声が響き渡る。


 私は、頭を抱えてうずくまっていた。


 ……。


 …………。


 ノー!

 ノーだよ!


 勇者様が国をのっとるとか。

 ウチの子達が、魔獣だとか。

 

 昨日から色んなことがあり過ぎて、頭が付いていかないんだけど!!

 

「ショコラ、本当なのか? こいつがあの魔王だって?」

「ショコラちゃん離れてください、危険ですわ!」

「その通りだ、人間よ。わかったら、わが主人より離れて立ち去るがよい!」


 ……あ。


 ……その話を口留めするの忘れてた。


 おそるおそる振り返ると、ベリル王子とミルフィナちゃんが呆然とした表情をしている。


「もしかして……」

「ショコラちゃん……まさか……」

「我がご主人様に気軽に声をかけるな、人間風情が。特にその金髪は話すの禁止だからな!」


 魔王シャルル様は、不機嫌そうに王子を指さした。  


「いやだってさ。もしかして魔王を調教したってこと?」

「本当に魔王……ですわよね?」

「ふっ、よかろう。オレとご主人様との愛の証をみせてやろうぞ!」


 魔王シャルル様は満足げにうなずくと、シャツのボタンをはずしていく。


「ちょっと、ストップ!」


 なんですぐ脱ごうとするのよ!

 私は慌てて、彼の腕を両手でつかむ。


「うあぁ、マイヒロイン! だ、大胆なんだね」

「大胆というか、なんで脱ごうとするんですか!」


 魔王様は、真っ赤な顔で口元を押さえる。

 少女漫画にこんなシーンがあった気がする。

 なんだか……カッコいい……。


「くっ。負けるわけには! 僕の調教紋を見るがいいさ!」

「わたくしも負けられません!」


 なんでそこで対抗しようとするのよ!


「もう! お願いだからやめて!!」


 私の言葉に、三人の動きがピタッと止まった。

 調教紋が強い輝きを放っている。


「これは……ショコラの感情だよな?」

「今、マイヒロインの気持ちが流れ込んで来たぞ……これが調教紋ってやつなのだな?」

「うわぁ、ショコラちゃんと感情を共有できるなんて、幸せですわぁ」


 なんなのこれ。

 私は、再び頭を抱えてうずくまった。

 

  

**********


「えーと、状況を整理します!」


 私は立ち上がると、大きな声で話しかけた。

 広い空間に私の声が響き渡る。


 ちらっと壁をみると、高そうな絵画ときれいな絨毯が飾られている。

 豪華な暖炉には魔法の火がともされていて、部屋の中はとてもあたたかい。

 

「ははは。そんなことより、どうであろう。わが城の居心地は。なんならずっと一緒に住んでもいいの……だぞ……」


 魔王シャルル様は、私の声を遮って自慢した後、何故か真っ赤な顔をしてうつむいた。

 

「うふふ。魔王様よく頑張りました。主様、いかがでしょう? このままこのお城で暮らしてみませんか?」

「そうでござるな。我々は大歓迎でござるぞ!」


 水の魔性メルクルさんと、土の魔性ドルドルトさんが嬉しそうに笑顔を向けてくる。

 まさか、ドルドルトさんまで本物だったなんて。

 コスプレ好きの、ゆかいなオジサンだと思ってたのに。


「なるほど。これでやっと理解できました」

 

 さすがアレス様!

 きっとこの会話でなにか気づいたのね。


「なりきりコスプレイヤーにみせかけて、我々を欺くとは……。この賢者アレス、一生の不覚ですよ……」

「いや、この男が何を言ってるのかわからないのだが?」

「ふふふ、魔王よ。ごまかさなくて平気ですよ」


 賢者アレス様はメガネをくいっと上にあげると、手をテーブルの上に組んで魔王をにらみつけた。


「あなた方の世界征服とはつまり、コスプレの普及だったのですね!」



 ……。


 …………。


 アレス様。

 それ本気で言ってます?


「言っていただければ、私も魔王軍に協力していましたよ!」


「アレス、アンタバカなの! シャルル様がそんなことの為に世界征服するわけないでしょ!」

「賢者アレス、さすがにそれはないんじゃないかな?」

「アレス様って意外におちゃめな方ですわね~」


 一斉に突っ込む、うちの輸送パーティーメンバー。

 ダリアちゃん、ベリル王子。それから、ミルフィナちゃん。


「わかりますよ! わが同士、魔王よ! 真っ赤なローブを着たショコラさん……本当に可愛かった……」


 アレス様は、うっとりとした表情でどこか遠くを眺めている。

 

「なぁ、マイヒロイン。こいつ本当に賢者なんだよね?」

「魔王様。口調が戻ってますよ」

「我が主よ、真にこいつは賢者であろうな?」

「あはは、たまに変なんですよ、賢者様……」


 だめだ。

 全然話が進まない。

 

「もう! いいから話を整理させてください!」


 私は、テーブルを両手で叩くとあらためて部屋にいるメンバーを見渡した。


「王国が勇者様に乗っ取られたのは間違いないんですよね?」

「ああ、グランデル王国は既に奴のものだ……」


 ベリル王子は悔しそうに拳を握りしめた。 

 

「そうね。今朝の勇者新聞にも載っていたわ」


 メルクルさんが、テーブルに新聞を広げる。

 そこに書かれていたのは、王子から聞いた内容と同じものだった。

 

『勇者様、ミルフィナ姫と電撃結婚! 新たな王となる』

『尚、第二王妃である冒険者ショコラが行方不明。目撃情報求む!』 

『ベリル王子が魔王軍と内通して謀反を計画?! 王国騎士団が目下捜索中』 


「な、な。わたくし承諾してませんわ! 浮気なんてしてませんわよ!」


 ミルフィナちゃんは席から立ち上がると、私に抱きついてきた。

 

 ……あはは。

 ……王子は反逆者になってるし、私いつの間にか第二王妃なんだけど……。


 ノー!

 私は思わずその場にしゃがみ込んだ。


「安心していいよ。すでに魔王軍がフォルト村の守備にまわってる。キミには指一本だって触れさせないから」


 見上げると、黒髪の美青年が優しい瞳で私を見つめている。

 卑怯だよ。

 ホントにすごく……カッコいい。


 ……あれ?


 今、フォルト村を魔王軍が守備してるって言ったよね?

 

「魔王様! デレデレしないでください。あと言葉遣い」

「ふははは、フォルト村は既に我が手中にある。人間の軍隊なぞ入っては来れぬぞ!」

「フォルト村を既に占領したというのか! 村人達はどうしたんだ!!」


 ベリル王子が、怒りの表情で魔王の襟元を掴んだ。


「いや、特になにもしていないぞ?」

「……え?」

「魔王領でござるから、警備のための魔王軍が駐留するでござるよ。街の安全を守るでござる」

「うふふ。あと税金の納め先が我が主様になりますわね。でも公共事業や福祉事業は平等におこなっておりますわよ?」


 ――あれ?


 魔王軍ってなんだかこう、人類を虐殺的な感じじゃないの?

 ベリル王子もぽかんとした表情をしている。


「魔物も人間も仲良く! 平和で楽しく暮らそう! これが魔王軍のキャッチコピーであるぞ!」


 魔王様の言葉に、四天王の二人が大きく拍手をする。


「そ、それでな。マイヒロイン。ここに魔王ランドのチケットが二枚あるのだ。よかったら一緒に……」

「うわぁ、魔王様! 私一緒に行きたいです!」


 ダリアちゃんが目を輝かせながら魔王様を見つめている。


「三枚、ちょうど三枚あったのだ。よければ、我が主とダリアちゃん三人で!」

「本当ですか、嬉しい!」

「ちょ、ちょっと、ダリアちゃん!?」


 なんだか魔王も魔王軍も思ってたのと違う。

 違うんだけど!!


「ふざけるな! ショコラは僕の妃になる予定なんだ。魔王の手など借りなくても平気だ!」

「そうですわ! ショコラちゃんはわたくしの嫁ですのよ!」

「何をいうか! 彼女はこの魔界の王であるぞ!」


「そんな予定はありません! みんな落ち着いてください!」


 

 憧れのスローライフってなんだっけ?

 

 少なくとも。

 今の状況とは違うと思うんだけど!? 

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