第34話 追放テイマーと黒髪の青年


 目が覚めると、砂糖菓子のような甘い匂いにつつまれていた。

 金色の頭が私の胸にうずまっている。


 ……そっか。


 昨日からダリアちゃんと一緒に暮らしてるんだよね。

 私は、眠い目をこすりながら、魔道具の時間を確認する。

 

「おはようございます、お姉さま。もう朝なの?」

「おはよう、ダリアちゃん。でもまだ早いから、寝てても平気だよ?」

「ううん、ちゃんとお手伝いするから」


 彼女は目を半分だけ開いたような状態で、ベッドから起き上がる。


「ありがと。そしたら、ここの食器をテーブルにならべてもらってもいいかな?」

「まかせて、お姉さま!」


 うふふ。なんだか可愛いなぁ。

 本当の妹みたい。


 私はキッチンに立つと、使役獣たちのご飯を準備する。

 今日はサツマイモとお肉を使った特製料理。

 ダリアちゃんが並べてくれたお皿に、どんどん盛り付けていく。


「お姉さま、これすごく美味しそうな匂い~!」

「ダリアちゃん、それ人間用じゃないからね」

「もう、わかってるから!」


 顔を赤くして頬を膨らませる。

 まぁ……だよね。

 どこかの王子様は美味しそうに食べたけど……。


「……お姉さま?」

「あー、ごめんね。それじゃあそのお皿運んでもらってもいいかな?」

「まかせて!」

 

 ダリアちゃんは真剣な表情でお皿を持ってくる。

 さてと。

 私もお皿を片手に持って家の扉をあけた。

 

「さぁ、ご飯だよ!」


 扉を開けると、一列に並んだカワイイ動物たちが並んでいた。


「ダリアちゃんも、あげてみたい?」 

「う、うん。いいの?」


 料理を運んできたダリアちゃんに声をかけた。

 あれ? ダリアちゃんの顔がこわばってる気がするんだけど。


「……お姉さまは良く平気だね?」

「平気って?」

「だって、この子たち最強の使役獣だよ?」


 私はご飯を嬉しそうに待つ三頭……一頭と一匹と一羽をじっと見つめた。


 ……。


 …………?


「いやだなぁ、ダリアちゃんってば。普通の子達だよ?」

「……お姉さま本気でいってるの? だってこの子って」


 何かを言おうとしたダリアちゃんに、動物たちが取り囲んだ。


 黒馬のチョコちゃんが、頬を舐めている。

 白狼のアイスちゃんは、足元にじゃれつく。

 赤い鳥イチゴちゃんは、彼女の頭の上に飛び乗った。


「うわぁ。危ないし、くすぐったいから。お皿持ってるし!」

「ちょっと、みんなどうしたの?!」


「わかったわよ。言わないわよ! 言わないから!」


 彼女の言葉に満足したように、動物たちは再び一列に並びなおした。

 

「ごめん、ダリアちゃん。普段はいい子なんだけど……」

「……ううん、変わってないね。お姉様たち……」


 この子達も、久しぶりにダリアちゃんに会えてうれしいみたい。

 なんだか懐かしいなぁ。 


「それじゃあ、ダリアちゃん。この後一緒にお出かけしよっか?」

「おでかけ?」

「うん。ずっと村で暮らすなら、いろいろ買わないと、でしょ?」

「うわぁ。姉さま、ありがとう!」


 小さな村だから、あんまり色々は売ってないんだけどね。

 さて、どうしようかな。 



********** 

 

「で。なんでウチにくるのよ?」

「なんでって。親友だよね、私たち!」


 おなじみ黒ネコマークの運送ギルド。

 私はカウンターにいる受付嬢のリサに話しかける。

 

「まぁ、いいけどさぁ。で、欲しいのはなんだっけ?」

「んー、ダリアちゃんの洋服と、もうちょっと大きいベッドかな?」

「オッケーよ。ちょっと待ってね」

「ありがとう、リサ! 愛してる!」


 リサはカウンターから大きな本を取り出した。

 運送ギルドの職員には、いくつか特典があるんだけど、これもその一つ。


「こっちが、家具のカタログで、こっちが子供服のカタログね」

「ありがとー! ほら、ダリアちゃん。好きな洋服選んでいいよ」

「ありがとうござます、リサさん!」

「いいのいいの、お金払うのはどうせショコラだから」


 このカタログは、前世でいうところの通信販売みたいなもの。

 色んな街の職人さんの商品が登録されいていて、注文があると運送ギルドが送ってくれる。

 まぁ、ホントは職員限定のサービスなんだけどね。


「そうえばさ、今日すっごいイケメンみかけたのよ!」

「イケメン? ベールが来てたの?」

「違う違う、黒髪でね、もうちょっとがっちりした感じなんだど」

「ふーん?」


 私はカタログをめくりながら、リサの話を聞いていた。


「大きな剣を背負ってたのよね。たぶん冒険者かなぁ」

「ふーん、この村に冒険者なんて来るかなぁ?」

「何言ってるのよ! アンタも賢者様もダリアちゃんも冒険者じゃない」

「元よ。今は配達人なんだから」


 黒髪のイケメンねぇ。

 顔を上げると、リサの瞳がハートになっている。

   

「ねぇ、質問だけどさ。ベールとその黒髪さん、どっちが好みなの?」

「どっちもよ!!」


 リサは、興奮した様子でカウンターの机を大きく叩いた。


 ……ふーん?


「そうえばさ、最近ベールさん全然こないけど、どうしたの?」

「なんだか忙しいみたいなんだよね」


 そうなんだよね。

 ……会いたい……のにな。

 彼の金色の髪と優しい瞳が頭に浮かぶ。

 

 あれ? なんでそんな風におもうんだろう。


「……お姉さま、お姉さま!」

「あ、うん、ゴメン。どうしたの?」

「あのね、これ全部欲しい! 私、お金ならたくさんあるし全然余裕よ!」


 ダリアちゃんがページをめくるのをやめて、嬉しそうにカタログを抱きかかえた。 


「はぁ、さすがちびっこ魔法使い……お金持ちなのねぇ」

「あはは、ダリアちゃん……無駄遣いはやめようね……」


 そうだった。

 ダリアちゃんって、勇者パーティーでたくさん活躍してお金もってるんだった。


 でも、そんなにたくさんの洋服。

 絶対ウチに入らきらないから!

 


********** 

 

「それじゃあ、少し早いけど、お昼でも食べようか?」

「わーい! お昼~お昼~!」


 運送ギルドで一通り必要なものを注文したあと、私たちは近くのレストランに向かっていた。

 まぁ、ここしかお店ないんだけどね。


 いやぁ、ホントにリサがいてくれてよかった。

 持つべきものは親友だよね。


「ダリアちゃん、走ったらあぶないよ!」

「平気平気ーっ!」


 彼女は私に振り向くと、大きく手を振る。


 次の瞬間。

 レストランを出てきた人影と、ダリアちゃんがぶつかりそうになった。


「おっと!」

「わっ!」


 倒れそうになったダリアちゃんを、影の人物が抱きかかえる。


「ダリアちゃん!!」

「ごめんね、大丈夫?」


 黒髪がさらりと揺れる。

 がっちりとした体に大きな鎧。

 背中には大剣。

 

 細長の黒い瞳……まるで日本人みたいな……イケメンさんだぁ。


「よかった。ほら、降りれるかな?」


 ダリアちゃんは、頬を真っ赤にして首を縦にふる。


「あ、ありがとう……ございます……」

「どういたしまして」


 黒髪のイケメンさんは、ダリアちゃんをおろすと、優しく微笑んだ。

 

「すいません、ありがとうございました」


 私も慌てて、彼に頭をさげた。


「いえいえ。いいんですよ……え?」

「はい?」


 彼は、私の顔を見ると、凍り付いたように固まった。

 

 ――え。なになに?

 ――私なにかおかしな恰好してる?


「あ、あ、あ、あの。初めまして。オレ、ま、魔王です!」

「マ、マオウ……さん?」


 彼は耳まで真っ赤にして私を見つめている。


「……しまった! いえ、マオウではなくて……ですね。マオウデ……そう! マオウデといいます!」

「マオウデさんですね。初めまして、私ショコラといいます」

「ヒロインだ……オレの暗黒異世界生活に……ついにヒロインが登場したぞ……」

「あのー?」


 マオウデさんは、拳を握りしめて空を見上げている。

 なんだろう。

 すごくイケメンさんなのに、なんだか残念な気がする。


「お、お姉さま。私にも紹介してください」


 私の後ろに隠れたダリアちゃんが、恥ずかしそうに袖をひっぱってくる。

 紹介っていわれても、私も初対面なんだけど。


「えーと、ダリアちゃん。こちらマオウデさん」

「はじめまして。ダリアです!」


 うわぁ、ダリアちゃんの目がキラキラ輝いている。

 

「ダリアちゃんよろしくね。で、あ、あの。よよよよよ、よろしければ、お店でご一緒しませんか!」


 マオウデさんは、若干うわずったこえで私に話しかけてきた。


「あの。でも、今出てきたんですよね?」

「い、いや、ちょうど何故かおなかがすいてきまして! いやぁ、偶然だなぁ」

「お姉さま、是非ご一緒させてもらいましょう!」


 ダリアちゃんはぎゅっと私の手を握ってきた。

 もう、仕方ないなぁ。


「そうですね。それじゃあご一緒させていただいてもよろしいですか?」


 イケメンさんは、真っ赤な顔のまま、瞳を大きくさせて飛び上がった。

 

「ひゃっほー! ヒロインと初デートだぜ!」

「そんな、お兄さま。私をヒロインだなんて……」

「ちょっと、恥ずかしいですよ、マオウデさん!」


 ノー!

 ノーだよ!


 もう!

 ダリアちゃんいなかったら、絶対置いて逃げてるからね!

 

 ……なんだか少し変わった人。

 ……冒険者、なのかな?

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