第33話 王子様と魔王軍


<<ベリル王子目線>>


 グランデル王国の王都ハイビス。

 街の中心には、世界で最も美しいといわれる、魅力的なお城が建っている。

 白い城の美しい造形。

 裏手には街を流れる美しい川。

 その水とお城の組み合わせが大人気で、世界中から観光客が訪れている。


 一見平和そうな風景の城内では、今まさに迫りくる魔王軍への対策会議が開かれていた。

 

「申し上げます! 既に南の国境付近を越えて魔王軍が大量に押し寄せています!」

「国境警備の騎士団はどうした!」

「それが、連絡が取れません!」

「……なんと!」


 対策会議に動揺が走る。

 まさかこんなに早く……南の砦が落ちたのか?

  

「陛下……南の国境を次の砦まで下げましょう」

「そうじゃな……。しかたない、いったん国境をさげるのだ!」

「ははっ!」

「合わせて待機していた近衛軍第二部隊を南へ向かわせよ!」

「陛下、それでは、城の守りが!」

「かまわん!」


 父上は王座から立ち上がると、伝令に命令をくだす。


 ……王国最大の危機。

 ……魔王軍襲来。


 王国がずっと恐れていたことが、今現実に起ころうとしている。

  

「して、勇者どのから、なにか連絡はあったか?」

「それが……」


 伝令の一人が苦しそうにいいよどむ。

 僕はぎゅっと拳を握りしめた。

 悔しいけど……。

 今魔王対抗できるのは、聖剣に選ばれた勇者とその仲間たちくらいだ。

 

「申し上げます! たった今、戦士ベルガルトが到着されました!」

「おおお!」

「よかったですな」

「勇者パーティーさえくれば、王国は安泰ですぞ!」


 重い空気が漂っていた応接間に、大きな斧を背負った戦士が入ってきた。

 父上は安心したように、どっしりと玉座に腰をおろしす。


「よくきたな、戦士ベルガルドよ!」

「はっ! 王国のピンチと聞き、急ぎ駆けつけました!」

「うむ。して、勇者殿やほかのメンバーはどうされた?」

「それがですな、勇者はここにはきません……」


 戦士ベルガルドの言葉に、どよめきがおこった。


「どういうことだ……勇者がこれないとは……」

「まさか、臆したのか……」

「魔王に唯一対抗できる聖剣の持ち主なのだぞ……」


 父上を見ると、玉座から滑り落ちおちそうになっている。

 僕は言葉を失った父の代わりに、ベルガルドに声をかけた。

 

「戦士ベルガルド、報告ありがとう。勇者はどうしてこれないのかな?」

「はっ、ベリル王子。アイツは……臆病ものゆえ……お腹が痛いと……」


 ――あいつ!


 ショコラに魅了のスキルをつかったようだし。

 王国の危機には駆けつけないし。

 ……ホントに聖剣に選ばれた勇者なのか!

 

「おそれながら、旅の途中で、森の王国から脱出した兵士より伝言と映像を託されました」

「先日陥落した王国の伝言と映像か……何かヒントになるかもしれないね。ここで流すことは可能かな?」

「はっ、さっそく準備致します」


 ベルガルトは、魔道具を取り出し城の壁に映像を映し出す。


 そこには、魔王軍によって攻め込まれていく国の様子が記録されいていた。



**********


『くぅ、ここで食い止めるぞ。皆のもの、王国への忠義を見せるのは今まぞ!』

『はっ! 剣聖クロウ様!』


「おおお!」

「クロウ様ではないか!」

「そうだ、森の国にはあの方がおられたな!」


 映像を見ていた城内でざわめきがおきる。


 画面に映っているのは、森の英雄、剣聖クロウ。

 勇者に匹敵すると言われる剣技の持ち主で、人類の希望の一人だ。


 そうだよ。

 あの剣聖クロウがいて、なんで魔王軍に簡単に負けたのか、ずっと疑問だったんだ。


『この一大事に、貴族共と、近衛軍はどこにいるというのだ!』

『クロウ様。おそれながら、城内で誰が王のお側で守るかもめており、一歩も外に出ていないようです』

『こんな時まで、権力争いなのか……くそ……』


 剣聖クロウは、砦の壁を悔しそうに叩きつけている。


『国の一大事なのだぞ。民をなんだと思っているのだ』

『まぁ、いつものことじゃないですか、大将』

『我々だけでも、森の国の勇士をみせつけてやりましょうぞ!』


 映像には、そこでいったん途切れる。

 再び画面が明るくなると、魔物と巨大なゴーレムの大軍。

 そして、立ち向かうクロウ達が映し出された。

 

『貴様が剣聖クロウでござるか。拙者、魔王軍四天王ドルドルト。いざ尋常に勝負!』

『ふっ、最後に魔王軍四天王と戦えるとは、悪くない人生だった。いざ!』


 剣聖と巨大な甲冑を着た大男がぶつかりあう。

 見れば見るほど。

 城塞都市クルストルの酒場であった愉快なおっちゃんと、そっくりだ。


「クロウ様頑張れ!」

「負けるな、剣聖!」


 剣聖への応援が場内にわきおこる。

 突然映像はそこで切れる。


「どうなったんだ、剣聖と四天王との戦いは!」

「剣聖が勝ったにきまってるだろ! 勇者に匹敵するお方だぞ!」

「あんな、ござるとか言ってるやつに負けるわけがない!」


 ……いや、ござるは今関係ないだろ。


 再び魔道具が映像を照らし出した。

 その風景に、城内が沈黙する。


『いくぞ! この国に巣くうゴミどもを叩きだして、魔王様に献上するのだ!』

『おー!』


 魔王軍と共に森の国の城に攻め込んでいるのは……剣聖クロウとその配下の騎士達だ。

  

『魔王軍、ふっふー!』

『魔王軍、ふぅふぅ! ふっふー!』

『魔王様あいしてるぜーっ!』


 彼らはまるで踊るように剣を振るいながら、次々と森の国の兵士たちを倒していく。


「どういうことだ、これは?!」

「洗脳……なのか?」

「剣聖相手にそんなことが可能なのか……」


『頼もしいでござるな、さぁ、魔王様に捧げるでござるよ。クロウ殿、ふっふー!』

『おうともよ! ドルドルト殿、ふっふー!』


 二人は拳と拳をぶつけ合うと、大きな体を揺らしながら踊り始める。 

 

 僕も、城内の家臣たちも……その光景に目を疑う。

 ただ一つ分かったことは……。


 映像に映る、ノリノリで踊っている四天王ドルドルトの動き、あの踊り、喋り方。

 やっぱり……あの酒場にいた愉快なおっさんじゃないか!!


『さぁ、みんな一緒に!』

『わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍! ふっふー!』

『わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍! ふっふー!』


 でたらめに高い士気の前に、城の城壁が次々に突破されていく。


「……なんですかなこれは」

「……お笑いかくし芸大会の映像が混ざっているのでは?」

「……あはは……森の国の生き残りも、人が悪いですなぁ」


 映像が再び切り替わり、魔王軍が森の国の中央通りを行進している。


『魔王軍、解放してくれてありがとー!』

『これで、ハファルルに温泉旅行にいけるな!』

『ああ、魔王ランドも楽しみだしな!』

  

 沿道にはたくさんの民衆が笑顔で出迎えていた。

 彼らは、鍋のふたや木の棒を掲げて嬉しそうに手を振っている。

 まさかとはおもうけどさ。

 民衆も城内で森の国の軍隊と戦っていたのか?


『わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍! ふっふー!』

 

 街のいたるところに、魔王軍を歓迎する横断幕が広がっている。


 映像はそこで途切れた。



**********


「なんだったのだ、今のは?」

「魔王軍の宣伝映像ではないのか?」


 王都ハイビスの城内がざわめきだす。


「戦士ベルガルト、これは本物……なんだよね?」

「もちろんです。森の国の生き残りが生死をかけて残してくれた映像ですぞ!」


 彼の瞳を見れば、それが嘘でないことはすぐにわかった。

 なんなんだ、あの得体のしれない魔王軍というのは?


「ベルガルト、生き残りの兵士に託された伝言を聞いてもいいかな?」

「ははっ。彼はこの映像を私に渡すと、このように言っておりました」


 彼は真剣な表情で訴えた。


「オレこの怪我が治ったら魔王ランドに遊びに行くんだ……と」

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