第31話 追放テイマーと田舎の暮らし


 フォルト村の中央広場に建っている、黒猫マークの運送ギルド。

 昼前はギルド職員以外あまりいないみたいで、建物内はかなり静かに感じる。

 考えてみたら、輸送隊ってみんな朝早く出発するもんね。


「で。なんなのその恰好?」

「あはは、コスプレ……なんだけどさ……」

「ふーん、まぁアンタに似合ってるけどね。まさか、『天才ちびっ子魔法使いダリア』のコスプレ?」

「もう、ちがうわよ」


 私は、空いているカウンターで受付嬢のリサと話していた。


「またまた。結構人気あるみたいよ、ダリアのコスって。ウチの姪っ子も欲しいっていってたんだよね」

「ねぇ! リサの姪っ子って……まだ五歳だったよね!」


 ちょっと、そんなに子供に見えるってこと?

 私は、親友の頬をぎゅっとひっぱった。

 

「ひょっほぉ。じょうだんふゃってばぁ」

「もう、これでもちゃんと成人してるんだからね!」

「ふぇいじん……」

 

 親友は私の胸に視線を落とす。


「ちょっと! なんでそこで胸を見るのよ!」

「いやぁ、確かに成人だわ、うんうん」

「もう、リサ!!」

「あんなに小さかったショコラが、すっかり大きくなって……」

「……それなんだかエロ親父っぽいからやめた方がいいよ……」

  

 私は胸を両手で抑えると、大きなため息をついた。


 この世界では、十五才になると神の祝福を受けて成人する。

 祝福っていっても、神殿にいってお祈りして終了、みたいな感じなんだけどね。


 私もリサも、去年一緒に成人の祈りを済ませている。

 そうそう! 神殿に神様の像が飾られてたんだけど。

 あれって……転生した時に会った女神さまにそっくりだったんだよね。

 

 私以外にも、たくさんあの場所にいた気がするんだけど、この世界で転生者に会ったことはまだないんだけど。

 みんなどこにいったんだろう?

 

 ……もしかして違う世界とか?


「……で、今日は何の用事なの? そのロリっ子コスを見せつけにきたわけ?」

「もう。そんなわけないでしょ。この書類を持ってきたのよ」

「なにこれ、パーティー申請書?」

「うん。そう」


 私は、新しい申請書をカウンターに置いた。


「ははーん? さては、はやくも脱退者がでたのね!」


 リサはカウンターに肘をつきながら、いたずらっぽく笑っている。

 

「違うわよ。ほらココちゃんと見てよね! 逆に一名追加なの!」

「ふーん?」


 彼女は、申請書を手に取ると、中身を確認しはじめた。


「ダリアさんねぇ……え? 待って、ダリアってもしかして?」

「うん、たぶんそのまさかなんだけどさぁ。ちょっと待ってね」


 私は振り返ると、ギルドの入り口に向かって声をかけた。


「もう入ってきても大丈夫だよ。おいでー!」


 扉の影から、恐る恐る長い金髪の小さな女の子が入ってきた。

 手には魔法の杖がぎゅっと握られている。


「……お姉さま……もう終わったの?」

「ううん、今手続き中だよ。リサ、この子はダリアちゃん」


 私は近づいてきたダリアちゃんを抱きしめた。


「きゃー! 可愛いわね。初めましてダリアちゃん。お姉さんはギルドの受付をしてるリサよ」

「……何コイツ。馴れ馴れしいわね」

「……え?」

「はぁ、一度言って分からないの? 馴れ馴れしくしないでよね! アンタお姉さまのなんなのよ?」


「ごめんね、この子人見知りなのよ」

「……人見知り……ねぇ……?」


 金色の髪を私に押し付けたまま、顔をあげようとしない。


「あのね、ダリアちゃん。リサは私の幼なじみなのよ」   

「……そうなんですか?」

「うん。小さい頃からの親友なんだ」


 ダリアちゃんは顔を上げて、カウンターにいるリサをじっと見つめる。

 あらためて私の瞳を見ると、私から手をはなして、可愛らしくお辞儀をした。   


「お姉さまのお友達なんですね。初めまして、魔法使いのダリアです」

「あはは、変わった子なのね。よろしく、ダリアちゃん」

「こちらこそです。うふ、最初からお姉さまのお友達っていってくれればよかったのに」


 ダリアちゃんは嬉しそうにその場で一回転した。

 金色の髪と赤いローブがふわりと広がった。


「見て見て、お姉さまとお揃いの真っ赤なローブなのよ!」

「それでさ、ずっとこの格好なのよ」

「なるほどねー、アンタも大変だわ」


 ダリアちゃん変わってないなぁ。


 ふと、周りを見ると。

 いつのまにかカウンターの周囲に職員さんの人だかりができはじめている。


「……魔法使いのダリアちゃんだよね」

「……あの天才ちびっこ魔法使いの?」

「……本物だ……何でこんな村に……」


「とりあえずさ、二階にあがろうか? 騒ぎになりそうだからね」


 リサが顔をひきつらせながら、階段を指さした。


「そ、そうだね」

「……ねぇ、賢者に魔法使いって……アンタのパーティー、世界でも救うつもりなの?」

「あはは……」

「あのね、私とお姉さまがいれば、魔王なんてあっというまに倒せるよ!」


 リサが横目でじとっと私をみつめてきた。


 ちがうから!

 ちがうからね!


 私が目指してるのは、田舎でのスローライフだから! 



**********


<<魔王視点>>


「それでは、ここから先は我一人が向かう。皆は国境付近で待機するように」


 今日のオレは、人間の冒険者風の恰好に変身している。

 こういう姿だと、ファンタジー小説みたいでテンション上がるなぁ。

 

「うぉぉ、何故ですか魔王様! どこまでも一緒にいるって約束したじゃないですか!」

「俺たちは死ぬまで一緒ですぜ!」

「ご一緒させてください、魔王様!」


 部下たちがオレにしがみついてきた。

 待て待て、そんな約束してないからね?

 

「こほん、これは決定ぞ! 我が帰ってくるまで決して侵攻しないように。わかったな!」


「ははっ、我ら魔王様の帰りをいつまでもお待ちしております!」

「魔王様愛してますー!」

「フーレーフレー! 魔王様!」


 さてと。

 オレは、旅行雑誌『大陸ウォーカー』を開いた。


 小高い丘の緑と美しい草原の景色。

 ふーん。

 

 フォルト村か……楽しみだな。

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