第30話 追放テイマーは魔法使いになりたい


 あたたかい光が、カーテン越しに伝わってくる。

 陽の光がなんだか、くすぐったい。


 外から、動物たちの大きな鳴き声が聞こえている。

 なんだか今日はすごく元気だなぁ。

 眠い目をこすって、魔道具で出来た時計を確認する。


 あれ……まずい。

 うわぁ、これ寝過ごしてるよね?


「おはよう。ごめんね、今すぐ準備するから待ってて!」


 私は窓を開けると、外で整列して待っている使役獣たちに声をかける。


 んー、今日は何を作ろうかな。

 ベッドから起き上がると、キッチンに向かいながら今日の朝ご飯を考える。 

 

 カボチャが残ってたはずだから、それとお肉を混ぜて、秘伝のオイルをかけてと。

 フライパンから美味しそうな匂いが流れてくる。

 うんうん、良い感じに焼けたかな。

 あとは卵を落として出来上がり!


「おまたせー。アツアツだから気をつけて食べてね」

 

 三匹……ううん。一頭と一匹と一羽が嬉しそうに声を上げた。


 赤いまんまるドラゴンは……今日も来ていないかぁ……。

 私は、美味しそうに食べている使役獣たちの横に座ると、大きなため息をついた。


 ちょっと前まで毎日来てたのになぁ。


 ……まぁ、王子様だもんね。

 ……こんな田舎に頻繁にこれるわけないよね。



 ――あれ?

 

 待って、落ち着いて私。なんで落ち込む必要があるのよ。

 元々スローライフに憧れて田舎に帰ってきたんだし、全然問題ないじゃない。

 むしろ大歓迎!


 ……のはず、なんだけどな。


 なんで。

 なんでこんなに……落ち着かないんだろう。


 胸の奥でトクンと音がした気がした。



**********

  

 私たちが、城塞都市『クルストル』から帰ってきて、もう二週間が経っていた。

 村は相変わらずゆっくりと時間が流れている。


 うーん。

 私は大きな伸びをすると、ベッドにごろんと横になった。

 今日は仕事もないし、朝食を食べたら寝ちゃおかな。


 ……どうせ、ベリル王子もこないだろうし。


 枕を抱えて大きく寝がえりをうつと、壁にかかっている赤いローブが目に入った。


「魔王軍宮廷魔術師のローブ、だっけ?」


 白いセーラーの襟、胸に大きなリボン、スカート部分にはたくさんのフリル。

 やっぱり……甘ロリワンピだよねぇ。


「王子様もコスプレしてたっていってたけど……楽しいのかな?」


 私は起き上がると、ローブを手に取ってみた。

 つまり、これを着たら魔王軍のコスってことになるよね。


 ……。


 …………。


 誰もいないし、ちょっとだけなら。

 

 私はローブに着替えると、髪を少しだけサイドをアップにし、ハーフツインテールでまとめてみた。

 確か、似た色のリボンを持ってたはず。

 うん、これこれ。よし完璧!


「われこそは、魔王宮廷魔術師! 逆らうものは全て魔法で倒しますよ!」


 鏡の前で、片手を前にかざしてポーズを取ってみる。

 うん。

 なんだか自分じゃないみたいで楽しいかな。


 よし、じゃあ。次は魔法を詠唱してるポーズ!


「深淵の魔術よ、今ここに炎の魔法を出現させん!!」

 

 私は大きく両手をかかげると、大きな声を出した。

 詠唱は適当だけど、なんだか楽しい!!

 黒髪のお姉さんも、宿屋の大男さんも、こんな気持ちだったのかな?



「いやぁ、可愛いですね。吟遊歌姫の練習ですか?」


 突然、後ろから賢者アレス様の声がした。

 

 ……え?

 ……なんで?


 おそるおそる後ろを振り返ると、窓から嬉しそうに顔をだすアレス様と目が合った。


「ア、アレス様!」

「なんだかカワイイ声が聞こえたから。その恰好も似合ってて素敵ですよ」


 うわぁぁ、そうだった!

 家の窓開けっぱなしだったんだ!


 頭に血が集結していくのが分かる。

 私は、両頬をおさえてその場にしゃがみ込んだ。


 ノーだよ!

 ノーだよ、私!


「あはは、そんなショコラさんをずっと眺めていたい気もするんだけどね」

「そんな気はしないでください!」


「ウチに、お客様が来てるんですよ」

「……お客様ですか?」

「ええ。ショコラさんに会いたがってましたので、お呼びしようとしたのですが」

「私の知っている人です?」

「……ええ、とっても」


 アレス様はすごく嬉しそうに笑っている。


 んー、誰だろ?

 私が頬を押さえたまま立ち上がった瞬間、窓から何かが飛び込んできた。


「ショコラお姉さま! やっと会えた!」


 金色の長い髪、真っ赤なローブ。

 小さな女の子が私にしがみついていた。

 砂糖菓子のような甘い香りがひろがってくる。


「……ダリアちゃん?」

「お姉さま、ずっとずっとお会いしたかったです!」


 青い大きな瞳に涙をいっぱいためて、私を見上げてくる。

 勇者パーティーで一緒に冒険をしてた天才魔法使い、ダリアちゃんだ。

 

「えええ? ダリアちゃん、どうしてここに?」

「お姉さまのいないパーティーなんて耐えられませんでした」

「……もしかして、勇者パーティー抜けてきたの?」

「ハイ!」


 ダリアちゃんは、涙を指でこすると可愛らしく微笑みかけてきた。

 カワイイ!

 ちょっと、今ここに天使がいるんだけど。 


「本当にダリアは、昔からショコラさんが大好きですねぇ」

「ちょっとアレス、少し黙ってなさいよ! 二人の愛の再会なのよ!」

「うん、でもダリアちゃん。元気そうでよかった!」

「ハイ! お姉さまの前ではいつだって元気です!」


 ダリアちゃんは、私に抱きついたまま会話を続ける。

 なんだかこの感じ……懐かしいなぁ。



 あれでも。


 勇者様のパーティーって、『賢者』も『魔法使い』も抜けたってことだよね。


 ……大丈夫なのかな?

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