第5話 追放テイマーはお仕事をする


 私の故郷フォルト村。

 ここは、王国の外れにあるのどかな田舎の村。

 羊に似た動物『フォルト』を飼育していて、おもな産業は織物。


 村の名前も、フォルトがたくさんいるから付けられたんだって。


 フォルトの織物は、王国内ですごく人気が高い商品みたいで。

 おかげで。

 小さな村なのに、中央の広場にはギルドの建物がいくつも建っている。

  

 商人ギルドはお金のマークの建物。

 運送ギルドは黒猫のマークの建物。

 冒険者ギルドは……って、さすがにこの村にはないんだけどね。付近にあまり魔物がいないから。


 すごくわかりやすいけど。

 なんだか、ゲームの世界みたい。


 私は、黒猫のマークがかかった扉を開けた。


「いらっしゃいませー!」


 元気な女の子の声が、建物の中に響き渡る。


「あら、ショコラだったのね」

「おはよう、リサ。今日もおしゃれでカワイイね!」

「ありがとう、ショコラもカワイイよ!」


 受付に座っている黒髪の少女は、私の幼馴染のリサ。

 村に帰って困ってた私に、この仕事を奨めてくれたのも彼女だ。


「最近、アナタ指名の荷物多いのよね。奥にまとめといたわよー」

「ありがとうー! リサ、愛してる!」


 私は受付にいたリサに抱きついた。


「はいはい、愛してるのは、私じゃなくてお金でしょ!」

「あはは……リサの事も愛してるから大丈夫!」

「わかったから、今日も仕事よろしくね」

「オッケー任せて!」


 荷物を確認しに行こうとしたら、突然後ろから誰かに抱きしめられた。

  

「な、なに?」


 振り向くと、真っ赤な顔をしたリサのアップがあった。


「うぁぁ! どうしたの、リサ!」

「ちょっと……今、入り口に入ってきたイケメン、誰よ?」

「イケメン?」


「なぁ、ショコラ。そこの荷物を運べばいいのかな?」


 うわぁぁぁ。

 なんでギルドの中に入ってきてるのよ、ベリル王子! 

 慌てて、彼のいる扉の近くに駆け寄る。


「私、待っててくださいって、ちゃんと言いましたよね!」

「うん、言ってたね」

「でしたら、なんで入ってきてるんですか!」


「ねぇ、ショコラ。知り合いなんでしょ? 紹介してよ」


 紹介っていわれても。

 あのね、実はこの国の王子様で、私がうっかりテイムしちゃいました。

 びっくりだよね……なんていえないんだけど!?


 ……どうしよう。


「ショコラの知り合いなんですね。初めまして、彼女の従兄です!」


 王子はリサに向かって、さわやかな笑顔で微笑んだ。

  

 はい?

 従兄?


 ちょっと!

 なんで私が王子と従兄なのよ!


「しーっ! そのほうがショコラにとって楽なんじゃないかな?」


 ベリル王子が私の口をふさいで、耳元でそっとささやいた。

 花のような香りに体が包まれる。


 そうだけど。

 そうだけどさぁ。


 ……だから、顔が近いんだってばぁ!


「あはは、そうなの。私の従兄でベールっていうの」


「そうなんですかぁ、すごく仲良しでうらやましいですー。あ、私、ショコラの親友のリサっていいまーす」


 ちょっとそこの親友!

 なにその口調。

 

「あのぉ。よろしければ、手の空いているギルド職員に、外までお荷物運ばせますよぉ」

「ありがとう、でも自分達で運べるから。いこうか、ショコラ」

「あはは、そうですね、ベールさん」


 私はひきつった笑顔のまま、ギルドの奥にある倉庫へ向かった。



**********


「さて、ご主人様。これを外に運び出せばいいんだな?」

「そうですけど、その呼び方はやめてくださいね?」 


 私たちは倉庫の中で、担当する荷物の前で、品物とリストをチェックしていた。


 運送ギルドのお仕事って大きく分けて二通りあって。

 ひとつは、一定期間契約して同じ村や街のコースを運ぶタイプ。

 もうひとつは、輸送する人が日程とコースをギルドの掲示板に載せて募集するタイプ。


 私は、後者のタイプだ。


「ふぅ、チェック終了。それじゃあ、気合入れて運びますか。王子は見ててくださいね」

「言っただろ、僕にも運ばせてよ!」

「でも……」

「大丈夫だって、こう見えても力持ちなんだよ。なにせ竜に変身できるくらいだからね!」


 王子は、両腕を高く持ち上げて、翼のようなポーズをとった。


 なにそれ?

 竜と変身できるのと何の関係もないじゃん。


 おもわず、笑みがこぼれる。


「うん、やっと笑ってくれたね。その方がずっといいよ」


 ――この人は。

 ――なんて優しい瞳で、私の事を見つめるんだろう。


「……あの、丁寧に運んでくださいね。倉庫から先は、全部運送者の責任なの。だから……」

「ああ、まかせてくれ!」

「それと……」


「うん?」

「……ありがと」


 私の言葉を聞いたベリル王子は、一瞬びっくりしたような顔をした後。

 頬を赤らめて嬉しそうに笑った。



**********

  

「そういえばさ、僕まだ名づけをしてもらってないんだよね」


 動物たちの待つ建物の外まで荷物を運ぶ途中に、王子が不思議なことを言い出した。


「名づけって。王子はもう名前ありますよね?」

「敬語禁止! もっと普通に話してよ。従兄なんだからさ」

「それは、さっきリサに言った言い訳ですよね!」

「ほら、今後もあるんだし、こまるでしょ?」


 今後もって。

 次からも手伝ってくれるつもりなのかな。


「王子には、別の仕事があるじゃないですか? これは私の仕事だから」

「だから、敬語禁止だってば。バレたらお互い大変なことになると思わない?」


 ぐっ。

 確かに、王子様を誤ってテイムした上に、荷物を運ばせてますとか。

 バレたら大事な気がする。


「ほら、普通に話しかけてみてよ、ショコラ?」


 なんでそんなに、嬉しそうな顔をしてるんですか!?

 まるで、ご飯をねだる前のあの子達みたい。


「はぁ、もう。わかったわよ、ベール!」 


 ――次の瞬間。

 

 王子のお腹から、強い光があふれ出す。

 なにこの模様……もしかして、テイムするときの魔法陣?


「あの、王子様?」


 王子様は嬉しそうに瞳を輝かせている。

 

「そうか、素晴らしい名づけをありがとう、ショコラ」

「……え?」


「今日から、僕は君の従兄、ベールだ!」


 ……うそ。  

 ……今のって、調教師テイマー の名づけになるの?


 ……。


 …………。


 えええええええええ!?

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