第6話 追放テイマーは荷物を届ける
フォルト村の隣には、交易が盛んな大きな街がある。
まぁ、隣っていっても。
前世の街の感覚とは全然違って、歩いて半日くらいかかるんだけど。
街へ続く大きな道を歩いているのは。
私とベリル王子。
それから。
黒い仔馬の、チョコくん。
白い狼の子供の、アイスちゃん。
大きな赤い鳥の、イチゴちゃん。
チョコくんとアイスちゃんは、背中に大きな荷物を載せている。
「ずいぶんな量の荷物だよね。僕も運ぼうか?」
「そ、そんな。王子様に運んでもらうなんて!」
「今は王子様じゃなくて、従兄のベール。自分で名づけたんでしょ?」
「もう。わかりました……わかったけどぉ」
王子様は私の顔をみて、嬉しそうに笑う。
こうしてみると、どう見たって人間なのに……。
――なんで名づけなんて出来たんだろう?
「僕もさ、ドラゴンになれば、もっと荷物を運べると思うよ?」
それって、あの小さくて丸いドラゴンだよね?
荷物なんて載せたら、動けなくなるとおもうんだけどな。
「あはは、ありがと。この子達、勇者パーティーにいた時にはもっと重い荷物運んでたから平気だよ?」
道中やダンジョンで魔物を倒して手に入れたアイテムとか、宝箱から出てきたアイテムって。
……実はすごく重かったりするんだよね。
ゲームだと重量関係なくバッグにいれてたりするけど……たまに『鎧』とか『武器』とか手に入れる時もあったりして。
入らないよ!
入るわけないよね!
完全に物理法則無視してるもん、あれ!
なので。
冒険の帰り道って。
行く時より、この子達の荷物が重くなるんだよね。
ダンジョンの荷物に比べたら、これくらいの交易品なんて全然平気!
王子は少しだけ不思議そうな顔をして私を眺めた後。
耳元でこっそりとささやいた。
「……あのさ、普通の動物も、これくらい運べるとおもってないよね?」
「……え?」
ウチの子たちも、みんな普通の動物なんだけど。
どういう意味だろう?
「……いや、良いんだ。忘れて?」
「う、うん?」
王子は、私の表情を見て少し考える仕草をした後、にっこりと微笑んだ。
……なんだろう。
……ヘンなの。
「あーそれとさ、ショコラが持ってるその旗はなんなの?」
うわぁ、うわぁ。
ここまで普通に歩いてきたのに、今それ言うかな。
言っちゃうかなぁ。
おもわず、顔が赤くなる。
「こ、これは。ちゃんと正式に、運送ギルドのお仕事中ですってわかるように必ず持って歩くんです」
「ふーん、そうなんだ。動物の先輩たちの上にかかってるカバーも同じ意味?」
「そうなの! これがあると盗賊から襲われなくなるから」
手に持っているのは、黄色地にお金のシルエットの入った、遠くからでも目立つ旗。
使役獣の子達には、同じマークのカバーが、荷物の上から括り付けられている。
――これ遠くからでもすっごく目立つの。
前世で言ったら。
そう! 小学校の集団登校がイメージ的に一番近いと思う。
「ちょっと恥ずかしいけど、おかげで一度も襲われたことないんだから!」
「襲われないって、魔物にも?」
「え? こんな田舎に魔物なんてでないわよ?」
「いくらなんでも、そんなはずは……」
突然。
赤い鳥のイチゴちゃんが空中を旋回すると、道の先まで飛んでいった。
「もう、また。落ち着きないんだから!」
「……あの鳥、もしかして」
「イチゴちゃんって、たまにね、あんな風に道の先とか森の中に飛んでいくのよ」
しばらくすると。
イチゴちゃんは何もなかったように合流してきた。
なんだかすこしだけ、焦げ臭い気がする。
「もう! どこか焚火のあるところを通ってきたでしょ! ホントにイチゴちゃんは遊び好きなんだからぁ」
「……いや、たぶんさ。遊びにいったんじゃないと思う……ぐわぁ」
ベリル王子が何かを話そうとしたところを、黒馬のチョコくんと白狼のアイスちゃんがじゃれついてきた。
王子はたまらず、地面に押し倒される。
「ちょっと、わかったわかったから。これ以上言わないからさ!」
「あはは、ベール。そんなにすぐなつかれるなんて、
「うぁ……それは楽しそうだけど。助けてくれると嬉しいかな?」
いつのまに、こんなに仲良くなったのかなぁ?
動物にじゃれつかれてる王子様。
なんだか、少しだけ可愛い……かも。
**********
「どうもありがとな、ショコラちゃん。それとハンサムな兄ちゃんも!」
「こちらこそ。ありがとうございましたー!」
目的の交易街『バラットル』についた私は、一度交易街のギルド倉庫に荷物を降ろした。
ここのギルドの職員さんにも、少しずつ顔を覚えてもらえてるみたい。
「これで、仕事は終わりかな?」
「ううん、ここからはね、個人配達を希望した人に、荷物を届けるの」
大体は、ギルド倉庫に運んだら終わりなんだけど。
中にはちゃんと指定した人に渡すように申し込む人がいる。
誕生日プレゼントとか。
あとすごく高い貴重品とかかな?
これって、完全に前世の宅急便だよね。
「えーと、このあたりのはずなんだけど……」
「ふーん。ちょっと見せてみて」
ベリル王子は、私は私の横から地図をのぞき込む。
すぐ目の前で金色の髪がゆれて、優しい匂いが流れてくる。
「あ、あの。たぶん、こっちであってると思うので!」
私は慌てて、地図を筒状に丸める。
びっくりしたぁ。
なんだか胸がどきどきするんだけど。
どうしたんだろう、この気持ち。
いきなり近くに来たから、驚いただけ……だよね?
「うーん。これさ、上から探した方が早そうだよね」
「……え?」
私が少しぼーっとしていると。
王子の体が輝きだして、だんだん丸く小さくなっていく。
「よし! それじゃあ探してくるから待ってて」
赤くて丸いドラゴンになった王子は、小さな羽をパタパタと動かすと、空に向かって飛んでいった。
――うわぁ、王子様?
――人に見られたらどうするんですか!?
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