第七節 休日の過ごし方


 午後は暇だった。昼ご飯を食べた後、僕達は午睡した。何時間くらい寝ただろうか……

僕が起きると彼女は気持ち良さそうに膝の上で寝ていた。寝顔も可愛くて髪を撫でてやった。まるで猫みたいだった。起きるかなと思ったけど起きなかった。


にしても、さっきの好きって意外だったな。恋愛対象としてだろうか。久しぶりだった。元カノともあの頃は人生一度あるかないかの幸福感を味わえた。なのにあんな事になるなんて。その頃は思いもしなかった。


 ようやく、彼女が起きた。


「おはよう」


「朝?」


「ううん、午後3時だよ。僕達寝ちゃったみたい」


起きてくれて良かった。午後は暇だ。暇で何もしない時間というのは人生において必要かもしれない。だけど僕は、物足りない。全てが無駄に思えて、何かで埋めたくなる。何でもいい、歩くだけでも運動するだけでも歌、歌ってるだけでもいい。とにかく息をするだけの時間が長くなると息苦しくなってくるのだ。


「坊主めくりでもしない?」


「坊主めくり?」


意外にも地味すぎてびっくりした。カードゲームが好きなのか、此葉は。


 そして、坊主めくりで遊んだ。順番にめくっていく。此葉はすごく強かった。2回やったが、2回とも此葉が勝った。正直、勝ちたかった。


「次は何しよっか」


「ゲームとかは無いの? DSとかプレステとか」


「うちには無いかな」


「じゃあ、スマホのゲームやるかな」そう言って僕はスマホをリュックから取り出した。


そして遊び始めた。颯くんは本当に一人ぼっちで家から追い出されちゃったのかな……何年間リュックとトランクケース持ち歩いてるんだろう。そう私は思った。

本当に謎だった。トランクケースに大量に入った服。何着あるんだろうと思ったが、軽く10着は越えるだろう。もしかしたらモデルさんだったとか服を売ったりする人なのかもしれない。職業は何をしているのだろう。気になってしまう。颯くんという人そのものにミステリアスな魅力を感じ、好きになってしまった。もっと颯くんのことが知りたい。


「あー負けちゃった」


嘆く彼。どうやら負けて悔しいらしい。私との勝負にも負けて、スマホのゲームでも負けるとは。人間相手なのだろうか、それとも機械で設定された敵に負けたのだろうか。分からない。一人で遊んで寂しくないのかな。要らぬお節介かもしれない。


「私とババ抜きしない? 負けて悔しいなら、私と勝負して勝てるまで対戦してあげるよ」


ババ抜きは心理勝負だ。心理的に謎が多く素性を知られないようにしてる颯のほうが有利では。


「じゃあ、お願いします」


「分かった。トランプ持ってくるね」


そう告げて彼女は奥の部屋へと消えていった。


 この幸せがあと何年持つのだろう。考えるだけで寒気がした。一線を超えてはいけない。そんなの、分かってる。さっきのハグは見逃してくれるよね。君が僕のことを好きだと言うから。告白されてたのは知ってた。これは浮気に入るのかな。彼女が? それとも僕が?


彼女がトランプを持って戻ってきた。


「じゃ、始めよっか」


そう言うと、彼女は上手い手捌さばきでトランプを交ぜ始めた。


私だってこういうのは慣れてるからね。お兄ちゃんや弟達と遊んできたもん。良い所見せたい。良い所見せられたかな。


二人で何度も勝負してきた。僕は負けてばかりいた。

でも、そんな時チャンスが巡ってきた。

彼女の持ってる手札のハートの7を引けば僕の勝ちだ。


彼女はポーカーフェイスになっていた。本当に分からない。


だけど、迷ってるばかりじゃ良くない。引かなきゃ。


そして引いたカードはハートの7だった。やったー! 勝った。ようやく勝てた。彼女も喜んでいる。負けたのに。清々しい。惑わせられなかったというより、心を読んでもらえて嬉しいというのが本心のようだ。


「勝てて良かったね。おめでとう」


「ありがとう」


 そう言って私は夜食の準備へと取りかかった。もう遊んでいたら夜に近い夕方だ。


僕がキッチンに足を踏み入れると、「しゃがんで」と言われた。


言われた通り、しゃがむと目の前に丸ごとのレタスを置かれた。


「何、これ?」


「颯くんって全然誘ってくれないし、草食系だなって思うから。私のこと、好きなはずなのに距離を感じるんだよね……」


確かにそれはそうだ。僕は此葉とは一定の距離を保ってる。正体をバレてはいけないし、どこまで近づけばいいのか分からないから。それにもう警察沙汰にはなりたくない。草食系は否定できない。元からそうなのだろう。


「レタス食べるよ。ごめんね。此葉の言う通りだよ。それより面白いね」


思わず、笑ってしまった。


結局夜は、レタスのサラダになった。


夜食を食べている時に、

「明日、デートに行かない?」と私が誘い、彼女に僕は誘われた。


「いいけど、えっ!」


2人でどこか出かけるのか。現実味を帯びてなくて、驚きが隠せなかった。


「折角の休日だしさ」


「いいけど」


どこに行こうか、悩む。2人の思いは同じだった。春のデートスポットと言えばお花見、川でボートに乗る、食べ歩き、喫茶店(猫カフェ)、図書館、遊園地、水族館など沢山ある。


「場所、どこにしよっか」


「喫茶店とかお花見とか遊園地とか図書館とか。どうかな」


「喫茶店と遊園地は苦い思い出があるんだよね」


「苦い思い出って? 言いたくないなら言わなくていいよ」


「付き合ってた彼氏がさぁ、浮気したんだよね。その時一週間しか続かない恋愛だったんだけど、その一週間で行ったデート場所が喫茶店と遊園地だったんだ」


「そうだったんだ。なんかごめんね」


誰にだって苦い思い出くらい一つや二つくらいある。浮気だって世の中至るところでされてる。彼女にとっては嫌だっただろう。浮気がバレて、たった一週間で別れたのかは分からない。だけど触れてはいけない内情だ。


「じゃあ、お花見と図書館でどう?」


「図書館は買って読んでる本があるんだよね。だから無理かな」


そう、今まさに私は仕事で忙しい中 合間に読んでいる本がある。だから難しい。


「でもお花見だけじゃつまらないよね」


「そうだよね。なら、動物園か水族館か博物館は?」


「水族館行きたい! でも1日で周れるかな……」


水族館を1日で全部周るのは無理かもしれない。だけど日帰りでも行けるし、問題ないと思う。


「不安な気持ちも分かるけど、きっと大丈夫だよ。近くにあるし」


「じゃあ、決定ね」


こうして、明日のデートプランは立てられたのだった。


交代交代でお風呂に入り、あっという間に寝る時間がやってきた。


(明日のデート、楽しみだなぁ)そう思って、眠りに就いた。此葉は先輩に断るって約束してくれたし。これで安心かな。 

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