Day26 寄り添う

「こんにちはー」

 たまの休日、友人の顔を見にふらりと骨董店へ立ち寄ったジャックは、やけに静かな店内に小首を傾げた。

 鈴を転がすような声で出迎えてくれる可愛い看板娘も、ハタキを振り回す友人の姿も見当たらず、店内はかつて「いつ来ても開店休業中」と揶揄されていた頃のようにひっそりと静まりかえっている。

「誰もいないのかな?」

 それにしては、入口の札は『営業中』になっていたし、鍵も開いていた。なんなら窓も開いている。留守だとしたらあまりにも不用心だ。

「――やあ、いらっしゃい」

 唐突に響いてきた声にひゃっと翼を震わせて、そおっと声の方を見る。

「なんだ、垂れ耳のおじさん。いるなら返事してよ」

「ごめんごめん」

 店の片隅に置かれた長椅子に腰掛けて本を読んでいるのは、誰であろう骨董店主のユージーン。その両隣に、店主にもたれかかって眠る二人の姿があった。

 あまりにも幸せそうに眠りこける二人に、思わず吹き出しそうになって、慌てて口を押さえる。

「二人が起きちゃうから静かにね」

 しー、と口元に指を立ててみせる店主に、こくこくと頷いて、ジャックはそおっと声をひそめた。

「おじさんが起きてて、二人が寝てるなんて珍しいね」

「オルト君、このところ忙しいみたいだからね。いつの間にか寝てて、起こすと悪いなと思ってそのままにしてたら――」

 オルトに毛布を掛けに来た看板娘までが反対側に陣取って眠り始めてしまい、そのままかれこれ一時間以上経っているという。

「まるで、大樹に寄り添って眠る小鳥と妖精さんみたいだね」

 そこが世界一安全だと知っているからこそ、警戒心の強い小鳥も、嵐を恐れる妖精も、安心して眠ることが出来るのだ。

「それじゃ、僕はこれで。オルトとリリルちゃんによろしく」

「用があってきたんじゃないのかい?」

「顔を見に来ただけだからいいんだ。それに――」

 こんなに幸せそうな眠りを妨げたりしたら、末代まで祟られそうだ。

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