Day17 錯覚

 天気のよい休日。薄いコートだけ羽織って外に出れば、どこからともなく舞い降りてくる薄紅色の花片はなびら

 近所に桜はないはずだから、きっと気まぐれな春風に乗ってやって来たのだろう。

 出所が知りたくなって、懸命に花片を辿ってみたところ、町外れの丘まで来てしまった。

 小高い丘の上には、朽ちかけたやしろと満開の桜。

 まるでここだけ時間が止まっているような、そんな錯覚に陥るほどの、美しすぎる光景。

 はらはらと舞う花片だけが、止まった時を彩っている。

 スマホを取り出しかけて、すぐにやめた。

 この美しさは、きっと映像には残せない。

 せめて心に刻みつけようと、じっと目を凝らす。

 桜は、まるで春を言祝ぐかのように、ひたすらに舞い続けていた。


 しばらくして、丘の上に公園が整備されたことを知った。

 社は取り壊され、桜の木だけが残されたそうだ。


 時は流れる。世界は変わっていく。

 それでも、変わらぬものが、きっとあるから。

 だから来年もまた、桜を見に行こう。

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