Day18 微笑み

 不思議な絵画を手に入れた。

 題名は『淑女の微笑み』。しかし描かれた淑女は紅唇を固く閉じ、悲しげにこちらを見つめて来る。

 これのどこが『微笑み』なのだろうか――という疑問は、数日後に氷解した。

「すみません、手違いで別の画廊に届けてしまいまして」

 配送屋が運んできたのは、『淑女の微笑み』と同時に買い付けた、同じ作家の絵画。

 『日だまりに猫』と名付けられた絵画を向かい側に飾った途端、頬が緩み、目元が和らぐ。

「なるほど。貴女の猫だったんだね」

 題名に相応しく、蕩けるような微笑みを浮かべる淑女と、幸せそうに丸くなる猫。

 分売不可のためなかなか買い手が決まらず、『淑女』は日がな一日、まどろむ猫を見つめて暮らしている。

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