Day16 無月

 『彼女』と出会ったのはそう、月のない夜のことだった。


 待ちに待った中秋の名月も、分厚い雲に覆われては愛でようがない。

「これは無理だなあ」

 せめて雰囲気だけでもと、軒先に出しておいた縁台を片付けようと外に出て――そして出会ったのだ。

 艶やかな黒い毛並みに金色の瞳。しなやかな長い尻尾の先だけが、リズムを刻むようにピコピコと揺れている。

「おや、お客さんかい」

 この辺りは地域猫が多いから、きっとそのうちの一匹だろう。

「ニャ」

 こちらを認めて短く鳴いたのは「お邪魔してるよ」という意味だろうか。片付けようとしているのを察したのか、縁台から下りようとするのを慌てて止める。

「気に入ったならこのまま置いておくよ。存分に使うといい」

「ニャオ」

 分かった、とでも言いたげに、再びすとんと腰を下ろし、しゅるっと丸くなる猫。

「……隣に座ってもいいかな?」

「ニャン」

 どうやらお許しを得られたようなので、縁台の端に腰掛けて、気ままにくつろぐ猫をじっと見つめる。

「ニャア?」

 何を見てるんだ、とばかりに見上げてくる瞳は、まるで満月のよう。


 ――ああ、たとえ空に月がなくとも。

 地上の『月』を愛でることだって、立派な『お月見』と言えるだろう。

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