Day29 白昼夢

 はらはらと舞い降りる薄紅色の花びらに、在りし日の思い出が重なる。


 土手の桜並木が綺麗だからと、買い物帰りに寄り道をして。

 春の嵐に髪を乱されながら、舞い踊る桜吹雪にはしゃぐ彼女。

 川面を流れる花筏を見つめる横顔が随分と大人びていることに、改めて気づかされた。

 出会って五年。気づけば私も彼女も、すっかり大人になってしまって。

 昔のように、無邪気に笑い合うような間柄ではなくなってしまったけれども。

 もし――もし叶うことならば。

 この穏やかな時間が、ずっと続いて欲しい。そう願っていた。


 はたと目を瞬かせ、桜並木を見つめる。

 ああ――もう彼女はいない。いないのだ。

 そうと分かっているのに、彼女の姿を探してしまう。

 椿が散り、桜が咲く。時は否応なしに流れていくのに、桜は今年も美しく咲き誇る。

 それならば――時が戻ったように、何でもなかったように。今にも彼女が木陰からひょいと顔を覗かせるのではないかと、儚い期待を抱いてしまうのだ。

 桜が人を惑わすというならば、ああ――どうか。

 泡沫の夢でもいい。彼女の笑顔を、もう一度見せておくれ。

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