Day14 うつろい

 数多の世界を生み出し、そして壊してきた。

 創造神や破壊神と呼ばれたこともあったけれど、私はただの創造者で、そして他よりちょっとだけ長生きな、ただの人間だ。

 諸事情で人のことわりから外れてしまったから、もはや世界と関わることは許されない。

 だからこそ私は、ここ『最果ての塔』で隠居生活を送っているわけだ。

 

 窓越しに覗き見る世界は、目まぐるしく変化していく。

 関わることは出来ないから、まるで映像作品を早回しで見ている気分だ。

 そんな日々を送る私だからこそ、心の底から思うのだ。

 この世は儚い。永遠なんてものはなく、すべては移ろい、変わっていく。

「だからこそ尊いのさ」

 なんて『神の視点』で嘯いてみるけれど、すべてが自分を置いて過ぎ去っていくのは、何とも寂しいものだ。

『寂しい、なんて感情を持つくらいには、まだ世界に未練があるわけだ』

 魔法の鏡越しに辛辣な言葉を投げかけてくる知人は、私よりも長く生きているくせに、未だ『移ろいゆく世界』を謳歌し続けているのだから、たいしたものだ。

「ただの感傷さ。でも……君は寂しくはないのかい? ひとりぼっちのユージーンユージーン・アル・ファルド

 世界樹と共に生きる古代種。その存在はほとんど知られていない。人々は彼のことを、ただの長命な森人族だと思っているだろう。

 同族は神話の彼方に消え、過去の遺業は昔話となり、親しい者はすべて先に逝く。長命種の宿命とはいえ、その生き様は過酷で、そして残酷だ。

『みんな世界の一部だ』

 すべてを超越した瞳で、彼は静かに笑う。

『命は循環する。別れても、またいつか、どこかで出会える。それは喜びであって、悲しみではないよ』

 でも――やっぱり、ちょっと寂しいね。

 ほとんど声にならない囁きは、鏡越しでもはっきりと聞こえた。

「そうか。私も君も、寂しがり屋さんだな」

 わざと茶化すように言ってやると、ムッとした声が返ってくる。

『同じ括りにされるのは困るな』

「長い時を持て余して、だらだら生きているところは同じだろ?」

 世界の果てから眺める者と、世界の片隅で見守る者。

 すべてが正反対な私達は、それでも――どこか似ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る