第8話

 荒野の渇いた風が、気休めになるほどに

団長?は、困っていた。冷や汗が止まらぬ

のだ。無貌の面に、選択性の通気があって

心から感謝している自分に、面食らう。







 一昨日の勤務明けの、予期せぬうたた寝

に視た夢が、腑に落ちた今。



 どう、対処すべきか。



 本来、迷うべきでもないが迷っていた。


 おれは、国を、皇を取るべきか、神託を

取るべきか、を。



 あの、やんごとなき風体の爺様。

 正しく、至高神ヅェウヅイィだったか。



 あれは、あかん。

 気を抜いたら、塩の柱にされそうなほど

の脅威であった。一見、慈愛に満ちた懇篤

の微笑みの裏にある海千山千の、のっぴき

ならぬ狡猾残忍さに気づいたからには……

うなづくことしか、許されなかった。



 本来、神とは……

畏ろしいモノなのだ。その期待を、裏切る

人なぞ、虫けら以下としか見なさぬほど。




「これから少し先のこと、お主の前にの、

 儂の神紋を掲げるモノが在る」



 あの神は、確かにそう言った。



「そのモノが現れたなら、

 味方せよ」



 さらりと、そう語る好々爺な雰囲気の裏

には、意に介さねば容赦なく潰す意思が、

ありありとみえる。こちらを虫けらとすら

思ってもいまい。



 正しく、神だった。

 おれを、屈服させるために神威もこの上

なく、ダダ漏れにしていたのだろう。




「吾が、神紋を掲げるモノをうたがうな。

 吾が神紋は、唯一無二。そのモノのみが

 掲げる。そのモノにただ従い、そのモノ

 の望みを助くのが、これより先その方が

 生きる道であると知れ」



 …………。



「全ては、その方の望みが叶う道と………

 通じよう。



 なりたいのだろう?最強??

 なれるぞ?最強に。

 大陸最強では……すまぬ。

 五大大陸、最強に」




 その、したり顔の無駄に逆なでする笑顔

を止めろ。その笑顔は人に見せるな。


(例  某最強格闘漫画で息子に見せず、

 構図で読者に見せた偉大なる父の笑顔w

 のそれ、である。    わかば註)






 おれの望み。



 大陸最強の騎士。

 祖父が目指し、親父が戦で図らずも戦死

し叶えられず、俺が継いだ夢。他人には、

バカだと思われるだろうから、誰一人と、

語ったことは無い、おれたち三代の悲願。



 少なくとも、おれは、したたかに酔った

拍子にすら、言ってはいない。



 まさに、神のみぞ知るであろう悲願。



 それへの道を、拓く。

 まさに、今、目の前の御神紋を掲げる、

魔女が?



 三年前。

 七カ国同盟軍で、滅亡に追い込まれた、

ゲディス帝国、最狂最悪の特殊部隊にして

人体実験の末、数少ない完成品として珍重

された、遺伝子改造強化人間兵器。



 通称 魔女。


(通説では、男でも魔女と呼び慣わすのが

 です♬︎♬︎地球の世界でw

              わかば註)






 一部隊で、大国をも傾ける禁断の果実。



 おぞましい。



 狂気の技術と、人間性なぞ欠けらも無い

非人道的な実験の果て、人工的に造られた

一流の魔導師三十人分の才能と魔力と一流

の騎士三十人分の身体能力を持つ化物。



 無限とすら思える魔力。平均的に常人の

一百倍の膂力と脚力。魔導の才は、大賢者

をも超え、独自の法則の魔法をも、自在に

使いこなす。



 神、地獄の魔王に、もっとも近い存在と

恐れられし存在。



 人でしな、左道の限りを尽くされて、

産み落とされた、人類の忌み子。


 ゲディス帝国の負なる遺産。




 もっともゲディス帝国にあった負の遺産

はこれだけでなかったのだが。一般的には

ゲディスにおいて、もっともおぞましく、

恐れられしものは、非人道的ともいえる、

鬼畜な威力の一般兵装だった。

それは、まあ、いいだろう。魔女なんぞ、

一般公開できるはずもない。


 しかし、初めて目にした魔女。

 どこか、おかしい。なにか違うのだ。

 最初に目にした魔女。これは、想像通り

の極悪非道の魔女だ。これはいい。想像の

範囲内だ。資料の通りの紛うことなき魔女

そのものだ。殲滅に値する。




 が!しかし。

 今、そこで、おれが神から神託を受けた

御神紋を掲げている方!?



 おかしい!!

 絶対に、何か違うのだ。



 今、おれは…………。

 いや!おれたちは、ナニを前にしている

のだろうか?




 この魔女?はあろうことかゴローなどと

世にも麗しい名を口にし、いや、なぜか、

まずは頭を下げ詫びを入れた上に、止めに

入ってきた。今どき、下級市民ですらも、

簡単に頭は下げぬのに。



 最初の魔女と、我々騎士団の争いを。



 しかも、絶世の美女のくせに、高慢でも

怜悧でも、ニヒルでもなく、可愛らしくて

どことなく愛嬌があり、世にもうつくしい。



 なんなのだ!?



 しかも、ありありと、事も無げに御神紋

を、この世に掲げもした。




 天空、うしはく至高神にして、神々の太君たいくん

ある、ヅェウヅイィの御神紋は、大神殿の

最高位の神官ですらも、出すだけで、寿命

が十年ちぢむ。それほどのものだ。そこら

の小娘が、軽はずみに出そうとすることも

はばかられる。



 マジで、武装神官に、ごっついフレイル

で手足をうちすえられたあげく、撲殺され

かねない。出す素振りをみせた時点で。



 魅了とか精神耐性の低かった騎士どもが、聖女認定してたが、そんなレベルではない。下手すると魔女より底知れぬ化物かも……

しれん。



 どうしたら良いのか!?



 嗚呼!!

 神よ!!



 これから、どう収拾をつければいい!?




 



























 





 








 

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