第4話「遅すぎた失恋」

 東京の大学を卒業し、実家に戻って新米農家として日々を過ごして数年。

 ある日ポストを開けると、招待状が届いていた。

 見てすぐにそれが結婚式の招待状であることが分かった。

 そして裏面の差出人欄には、はっきりと『菊池亮介』と書いてあった。

 

 菊池先輩の結婚式の後。俺は飲み会を断って、1人で帰宅することにした。

 もう学生時代のような無茶な飲み方をすることはないとはいえ、念のため。

 またあんな失態を犯して、新郎新婦に迷惑をかけるわけにはいかない。ましてや、新郎におんぶなんてされたら、たまったもんじゃない。お嫁さんに悪すぎる。

先輩のお嫁さんは、とても素敵な人だった。

 飛び抜けて美人というわけではないが、朗らかで、優しそうで、話してみると芯の強い印象も受ける。

 あれなら旅館の仕事もしっかりこなしてくれることだろう。そういえばどことなく、いつか会った女将さん…つまり菊池先輩の母親に雰囲気が似ている気がする。

 大学時代からの付き合いというが、先輩は随分良い人を嫁に貰ったものだ。

「次は~」

 電車のアナウンスが実家の最寄り駅を告げる。

 ふらふらと立ち上がり、電車を降りた。

 市の中心部と違って、田んぼと畑と果樹園くらいしかない風景は、やっぱりまだひどく淋しく見える。

 酔いを醒ますために、街灯の少ない暗い道を歩いて行く。

 その帰り道は、どこかあの日先輩に背負われて帰った飯坂温泉を思い起こさせる。

 全然違う真っ暗な道なのに。

 今日の式は素晴らしいものだった。

家族も、友人も、そして本人達も、誰もが幸せそうで、非の打ちどころのない式だった。

 なのに、どうして俺は苦しいのだろう。

 確かに俺は高校時代、先輩のことが好きだった。彼女ができたって聞いた時は、モヤモヤした。

 しかし、それはもう昔の話だ。

 先輩は結婚したし、俺だっていつかはするだろう。これでも大学ではそれなりにモテていたのだ。

 だから何も悲しむ必要はない。ないのに、星1つない空を見上げると、頬に冷たいものが流れるのを感じる。

 なんてこった。

 俺は泣いているらしい。

 どうして泣いているのかなんて、きっと高校生のガキにも分かる。

 

 結局俺は、自分が思っていたよりもずっと、菊池先輩のことが好きだった。

 ただ、それだけの話だ。

 

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遅すぎた失恋 御園詩歌 @mymr0701

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