第37話 マークのお出かけ -その1 思いがけない休息ー

オージーは個人主義。 一番大事なのは個人の人格。

もともとは 個人の良心的な考えや行動があってのことだけど

今は 他人のことを考えずに自分勝手な行動をする人が多い。


タニアが初めて訪ねて来た時に 自分の娘のことをサラッと話したのには

びっくりしたが これも個人主義だからだろう。

自分は自分、 成人した娘は娘。


この日 私はシフトに入っていたが 後輩のジュリーが 代わってほしいと言った。

「お父さんが 刑務所から出てくるの。 幼い女の子に性的暴行を加えて入ってたんだ。 やっと 出てくるので 家族みんなで会いに行くことにした」と 理由を言った。 


ここでも また びっくり! わざわざ 父親が刑務所に入ったいきさつを言わなくても ちょっと用事ができて…ぐらいで十分なのに あっけらかんと言う。

親は親。 ジュリーはジュリー。 この犯罪には何の関係もない。 

パラダイムシフトがまた 起きる。


そういうわけで いつも出かける時間になっても 私は家にいた。

「早く行かないと 遅れるよ」と 珍しく早起きしたマークが言う。

「昨日 言ったでしょ。 ジュリーがシフトを代わってほしいって言ったから 代わってあげたって」

「え? 聞いてないよ」


夕飯の時 伝えたのに聞いていなかったんだ。

「どこかに ランチ食べに行く?」と 聞いたら 「今日は 気分がのらない」と言う。

「じゃあ 家で ゆっくりするわ」 と言って 洗濯を始めた。


ランチを食べ終わって 早めに瞑想をしようと思ったとき

「ちょっと 散歩に行ってくる」と マークが言った。

「気分が良くないんじゃないの? 一人で行けるの?」と聞いたら

「ずっと 家に閉じこもっていると ますます外に行けなくなるから

ちょっと 一人で頑張ってみる」 と言う。


珍しいこともあるもんだ。 どこに行くにも 私が 一緒でないと出かけないのに。

「じゃあ 気を付けて。 私は今から メディテーションするわ」と 送り出した。


瞑想を終えた後 ちょっと ウトウトしてしまった。 

マークがいない一人の時間。 何かもっとすることがあるはずなのに

気が緩んだのか 寝てしまっていた。


マークが出ていってから 1時間が経っている。 

どこまで 行ったのだろう? 車がないから ビーチまで行って 歩いているのか? と思いながら 夕飯を 何にしようかと考えていた。


ゆっくり ドラマを見ることにした。 マークが横にいると 

「どうして 彼は怒鳴っているんだ」

「この建物のドアが赤いのはどうして?」

「今 食べているものは何?」 と いちいち質問してきてウザイ。

今なら 邪魔されることなく ドラマが見られる。


何日ぶりだろう? 

一人で ゆっくりと 何も邪魔されず くくつろげるなんて…


気がつくと 3時間経っても マークが帰ってこない。 

「どこに 行ったんだろう?」 さすがに ちょっと心配になってきた。

電話をしたのに 出ない。 事故にでもあったのか?


どこに行ったのかもわからないので 探しようもないし 待つしかない と思ったとき 帰ってきた。

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