第38話 マークのお出かけ ーその2 裏切りー
私の心配をよそに 「ハロー エリー」と 何でもない様子で マークが玄関のドアを開けた。
「どこに行ってたの。 心配したよ。 3時間も一人でいなくなるから」
と私が聞くと 「オージーの女性とお茶してた」 と 答える。
「何? どういうこと?」
「出かけるときに 言っただろ。 オージーの女性に会いに行くって」
「聞いてないよ。 ただ 散歩に行くって言っただけだよ」
「ただ 話をしただけ。 エリーが いつもヨーコと日本語で話しているから
誰かと ちゃんとした英語で話したくなったんだ」
「だからって 女の人と会う必要はないでしょ。 いったいどこで知り合ったのよ」
「RSVP」とマークが答えた。
キャシーが登録していた 出会い系サイトだ。
「登録したの? なんのために!」
「だから 誰かと話がしたかっただけだって」
「でも 男性は登録料払わないといけないんでしょ。 勝手に そんなことに 二人のお金を使ったの?」
「後で 返しておくよ」
共同口座のお金を 勝手に使って 後で どうやって返すつもりなのか? マークが個人の口座を持っているとは思えない。
「ほんとに ただ 話をしただけ。 すごく太った女の人で ミュージシャンだと言ってた」
「そんなに 太った人が好みなの?」
「彼女しか 会いたいって 言ってこなかったんだ」
すごく腹が立っていたが その太った女性以外に 相手にされなかったとわかると
ちょっとだけ 「ざまあみろ」と スッキリした。
「また 会うの?」
「いや、 もう会わない。 とっても楽しく話をしたけど もう一回 会いたいなんて思わない。 僕は エリーを愛しているんだから」
どんな風に考えたら そんな勝手な理屈が出てくるんだろう?
「愛している」と言えば 何でも許されると思っているのか?
マークのしたことは 私に対する裏切りだし ひどく私を傷つけたと言ってやりたかったが こんなわけのわからない理屈を言う人に 何を言っても無駄だと思った。
私が 「傷ついた」と言っても 「どうして? 僕は エリーを 心の底から愛しているのに…」とか 言うに決まっている。
最近 どうも 会話が噛み合わないと 感じることが多い。
だから 「今度 誰か女性と会うときは 私と別れてからにしてね」 とだけ言った。
誰もがみんな 「どこまで 自分勝手なんだろう」と 思うに違いない。
私とヨーコさんが日本語で話しているから 自分も誰かと英語で話したくなったという。 私もヨーコさんも マークとは もちろん 英語で話している。
それなのに 「ちゃんとした英語で話をしたかった」が正当な理由だと思っているのだろうか?
だいたい ちゃんとした英語って なに?って思う。
私が 日本人だと知って結婚したはずだし、 知り合った頃は 「エリーとは オージーの女性よりも話が合う」とか 言ってたくせに…
今頃になって 私の英語が気に入らないって 酷い侮辱だとさえ思った。
偶然 ジュリーがシフトを代わってと言ったから マークが出かけたのが わかったけど 仕事に行っていたら 女性と会いに行ったなんて 知らずにいた。
もう マークのことを「信じられない」という気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます