第35話 ヨーコ・オノ -その1-
あなたは気づいていないけれど あなたの中の子供がいつもおねだりしてる。
「僕を愛して」 「僕を見て」 「僕にかまって」と。
決して満たされることなく もっと もっとと…。
キャシーが出ていってしまったので 新しいシェアメイトを探さなければならなかった。 今 住んでいるユニットは 初めのうちは賃貸していたが オーナーが売りに出したときに 頭金を工面して買った。 ローンで払う金額と 家賃で払う金額は ほとんど変わらなかったから。
マークの広場恐怖症を考えると 引っ越すのは無理だという理由もあった。
地元のシェアメイト募集のサイトに記事を載せた。
キャシーは とてもいい人だったが オージーとのシェアで いろいろとトラブルが起きた話をよく耳にするので 今度は日本人の女性がいいと思った。
記事をアップするとすぐに 部屋を見たいという連絡が来た。
その女性は 小野 洋子さんという名前だった。
本人に会う前に マークは 「ヨーコ・オノ? ジョン・レノンの奥さんと 同じ名前?」と 名前だけで興奮していた。
ヨーコさんは 部屋を気に入ってくれて すぐに 引っ越してくると言った。
彼女は どうしてもオーストラリアで看護師になりたくて 今 学校に通っている。
週に 何度かバイトもしているらしい。
彼女が来た日に 歓迎のディナーを作った。
ギリシャ風マリネードの丸ごとチキンと ジャガイモ 人参 ブロッコリーをオーブンで焼いた。 クスクスサラダをご飯代わりにして ズッキーニとパプリカのマリネも作った。 デザートにブルーベリーソースをのせたレアチーズケーキ。
「こんなに おいしいご飯をおうちで食べられるって マークは幸せですね」と
ヨーコさんが言うと マークは 「僕は 毎日レストランの料理を食べているんだ」と 自慢げに言った。
「私も夕食に参加させてもらってもいいですか? 学校の課題をしたり バイトにも行くので 毎日ではないですけど。 前もってわかっているときにお願いします。 外で ちょっとしたものを食べても 20ドルはするので 1食15ドル払います」と 申し出てくれたが 材料費が高くつくときはその分負担してもらうけれど 普通の食事なら10ドルでいいと言った。
ヨーコさんの前のオーナーは 日本人で 物事をはっきりと言う人ではなかった。 何かと 親切にいろいろとしてくれたらしいが それに対するヨーコさんの態度が気に入らないと 不機嫌になったりするので とても気を使ったらしい。
そういうわけで あらかじめはっきりと決めておいたほうが 気分的に楽だと言うので ルームシェアの料金と 電気代のほかに 食事代として 1食10ドルもらうことにした。
私も 物事をはっきりと言う性格なので ヨーコさんとはすぐに仲良くなった。
二人で話すときは 当然 日本語になる。
マークが 会話に入ってくると 英語で話すが ちょっとした受け答えが日本語になってしまう。
するとマークは 「Speak English」と必ず言う。
「ああ、 そうなんだ」 「えー ホントなの」 「嫌な感じね」 というような話の本筋には全然影響しないことでも 日本語を話されると 面白くないらしい。
オーストラリアには いろいろな国の人がいて 同じ国から来た人同士は もちろん母国語で話している。 私が 韓国人の友達のグループと食事に行った時も
私が参加している話題は英語で話しているけれども 自分たちの間で起きた面白いことは韓国語で話していた。 そして 一段落ついたところで 誰かが英語で 今の話題について説明してくれた。 どの国のグループでも 同じことが起きている。
だから 私がヨーコさんと 日本語で話しても全然 かまわないものだと思っていた。 けれども マークは 二人が日本語で話していると機嫌が悪い。
「うるさくて テレビが聞こえない」と文句を言ったり 「エリー 紅茶入れて」と話を遮ったりする。
マークは 私がドラマを見ていても 大声で誰かと電話で話をしたり 食事中にヨーコさんが英語で話しかけても 聞いていないこともある。
「マーク、 ヨーコさんが話しかけてるよ」と私が言うと 「いつも 日本語で話しているから 気がつかなかった」と とっても失礼な返事をする。
看護師になりたいというだけあって ヨーコさんは マークの不安症を理解し
マークのわがままにも目をつむってくれた。
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