第34話 作話 -その2 スチームクリーナーー
「ハロー、エリー。式はどうだった?」
私を出迎えに来て、抱きしめながらマークが聞いた。
「とってもいいお式だったよ」
「誰が来てたの?」
「二人の子供たちとお孫さんたちも来てたよ。
女の子たちはおそろいのドレスを着て
とってもかわいかった。あとは二人の友達。
ケンとゴードンも来てたよ。」
「ケンとゴードンも?僕も行きたかった」
マークは私と一緒に出掛けられなかったときは
誰がどんなことを言ったかとか
どんなことをしたかとか、色々と聞いてくる。
だから、このあともっと結婚式について
いろいろと聞いてくるのかと思っていたら
「さっきテレビで見たんだけど…」と、突然話題が変わった。
「スチームクリーナーが今、安くなってる」
どうやら、私が帰る少し前にテレビショッピングで
スチームクリーナーを紹介していて
その話のほうに興味がいってるみたいだった。
「やっぱり、スチームクリーナーはいいよ。
カーペットの汚れも落ちるし油汚れもスッキリする。
何よりホコリがたたないのがいい。」
「スチームクリーナーは重いし、時間がかかるし
何よりも蒸気でやけどすることがあるから
危ないよって前にも言ったよね」
何か月か前に、どうしても買いたいというのを止めたのだ。
マークは「お試し期間があってその間使ってみて
嫌なら返品できる」と言ったが、どうせまた
返品の送料は払わないといけないに決まっている。
その時は何とか説得して納得させた。
けれども、どうしても諦められなかったのだろう。
翌日、ごみ箱を出しに行ったときに
隣のメアリーと会って
スチームクリーナーが欲しいのに
エリーにダメと言われたという話をしたらしい。
すると、メアリーは「私 持ってるよ。
カーペットに何かこぼしたときに使うと
ホントにきれいになる」と言った。
それで「ぜひ使ってみたい」とメアリーに頼んだらしい。
「メアリーが貸してくれた」とすごくうれしそうにマークは言った。
「ヘッドのカバーをきれいに洗って返せばいいって」
今、売っているスチームクリーナーは
キャニスターの部分にタンクがあるものが多いけれど
借りてきたクリーナーは
ヘッドの部分に水を入れるものだった。
「これだとホコリは立たないし、除菌もできる」と
早速、掃除を始めようとした。
「気を付けないと蒸気でやけどするよ」と私が言うと
「わかってる。子供じゃないんだから」と言ってヘッドに水を入れた。
リビングのカーペットにゆっくりとスチームをあてる。
何かをこぼしたわけではないので
特別きれいになったようには見えなかった。
それでも、マークは「ほら見て!スッキリしてきたよ」 と満足そうに言った。
思ったより早くヘッドの水がなくなってしまい、
また、キャップを開けて水を足した。
しばらく待っていたが蒸気が出てこない。
待ちくたびれたマークは、キャップを開けて指を突っ込んだ。
「熱い!」と叫ぶ。
「なんで指なんて突っ込むのよ。
蒸気を出すんだから熱いに決まってるでしょ」と私が言うと
「なかなか蒸気が出ないので、
水のままなのか確かめようと思ったんだ」
と泣きそうな顔で言った。
「早く冷やして」と私は言って
カップに水と氷を入れて渡した。
あれほど言ったのに、なんて馬鹿なことをするんだろう?
よりによって指を突っ込むなんて!
指をやけどしたので「もう、スチームクリーナーはいらない」
と言って、掃除をやめてしまった。
「ヘッドのカバーは洗うからあとで返しに行ってね」と
すねているマークに言った。
今日、またスチームクリーナーを欲しいと言うなんて
この事件を忘れてしまっているのだろうか?
指をやけどして、しばらく「痛い、痛い」と文句を言っていたのに…。
マークは精神を安定させるために、何種類かの薬を飲んでいる。
最近の物忘れや作り話は、薬の副作用なんだろうか?
前に医者に聞いたときには、どんな薬にも副作用はあるとしか
答えてくれなかった。
次に直美先生のセッションで、聞いてみようと思った。
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