第23話 換気扇
ベッドルームにはシャワーとトイレが
付いている。
シャワーを浴びると湯気が部屋に
こもるので窓を開ける。
するとマークが
「窓を閉めて換気扇を回せ!」
と言う。
夏でも冬でも。
夏はクーラー、冬はヒーターを
つけているとしても
ほんの2,3分窓を開ければ
湯気は消える。
換気扇では時間がかかる。
マークの怒鳴り声を聞いたとき
カチンときた。
「また、わけのわからないことを
言ってる」
窓を開けたほうが
換気は早く終わる。
絶対に私のほうが正しいと
思っているので、無視して窓を
開けたままにしておいた。
「窓を閉めて換気扇を回せって
言っただろう」
また怒鳴る。
知らん顔をして服を着替えていた。
すると、いきなり私の両肩をつかんで
身動きが取れないようにして
「窓を閉めろ!」と言う。
目がすわっている。
異常だ。 恐怖を感じる。
「痛いから離して」と言うと
手が離れた。
窓を閉めに行って換気扇を回す。
こんなふうに 理不尽なことで
怒鳴られるのが一番腹が立つ。
「左右対称スキャン」のほかに
もう一つ「体内感覚の観察」という
課題を与えられていた。
悲しみや怒りといった感情を
経験しているときに
それに伴う体内の感覚を見つけ
注意をはらう。
そしてその感覚がどんなものかを
4つの特徴
(質量/温度/動き/結合度)で表す。
説明されたがなんだか
よくわからなかった。
感覚を見つけて
さらに分析するのか?
重い感じか軽い感じかはわかる。
熱い感じか冷たい感じかもわかる。
動き?
その感覚が速く動いているのか
ゆっくりとどまるように
感じるのか?
結合度?もっとわからない。
固さという表現をされたけれども…。
今の出来事で感じたことを
忘れないうちに記録してみた。
最初に怒鳴られたときに「怒り」を
感じた。
頭の右上の部分に反応があった。
固い小さなものでなぐられたみたいな
感じだ。ドンと速い感じで来て
そこで止まったみたい。
その時、熱い感じがした。
次にマークが私の肩をつかんだときは
「恐怖」を感じた。
みぞおちあたりにズンと何か
重いものがへばりついた
感じがした。それは冷たい感じで
固くはないがねっとりしていて
ぴったりとみぞおちにひっついて
いる感じだった。
こういう「感覚」をグラフに
記録する。
換気扇を回さなかっただけで
あんなに怒鳴るなんて
気が狂ってる。
肩をつかんだ時の
あの顔は異常だった。
観察記録をつけていなかったら
こんな思いが頭の中を
ぐるぐる回って
また「へびさん」が
登場していただろう。
記録をつけたら
感覚を見つけた部分を、もう一度
30秒ほどスキャンして
重さや温度がどう変化したかも
記録するように言われていた。
頭の右上の感覚に集中する。
重さや温度はまだ、かすかに
感じられたが
動きはなくなっていた。
みぞおちの感覚も
結合度が弱くなった感じがした。
こんなふうに
「感覚」を探っていたら
いつものようにぐるぐると同じことを
考える状態にはなっていなかった。
グチグチとマークの言ったこと
したことを繰り返して
思い出しては
腹を立てていたのだが。
同じ「思考」を繰り返すという
エサを与え続けて
一つの「反応」に対する神経回路を
強化するという悪い習慣から
少し脱出できた気がした。
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