第24話 両極暴露

この日の夕食に揚げ出し豆腐を


作った。少しだしを甘めにして


コリアンダーがとショウガを


たっぷりとトッピングする。


マーク好みだ。


もちろん


私の分はコリアンダーなし。





「あっ!これ僕の好きなやつだ。


なんだった?」


これで何度目だろう。


何度聞いても料理の名を覚えない。


「揚げ出し豆腐」


「あげって、どういう意味?」


「deep fried」


「いつも?」





また、始まった。


同じ質問を何度もする。


初めの2,3回は丁寧に


答えていたけど、こう何回も


同じことを質問されると


ほんとにイライラしてくる。


覚える気もないくせに


聞かなくていいだろう


という思いでいっぱいになる。





マインドフルネスの練習は


「断続的スイープ」に入っていた。


左右対称に頭のてっぺんから


つま先まで流れるように


スキャンする練習だ。





そして、もう一つの課題が


「両極暴露」。


自分が嫌で避けたいと思う場面を


思い出してリストを作る。


そして


一番いやなものから5つ選ぶ。





今の私の一番嫌なことは


マークが同じ質問を


何度もすることだ。


ほんとにウザイ。


瞑想の後で5分間、この状況で


起きる最悪なことを考えて


その時の体の感覚に注意する。


1分瞑想して、また5分間


今度は一番いいと思う状況を考えて


その時の体の感覚に注意する。





マークが「あげ」と言う意味が


「いつもdeep friedを


意味するの?」と聞いたとき


最悪な場合は;





「また、同じことを聞くんだから。


何度も言ったでしょ。


この場合は揚げるってことだけど、


あげるって、違う意味もあるって。


どうせ、覚えないんだからいちいち


聞かなくていいじゃない!」


と私が面倒くさそうに言うと


「別に名前ぐらい教えてくれても


いいだろ。日本語は難しいんだから


すぐには覚えられないよ」





「覚える気もないくせに


いちいち聞かないでって言ってるの。


日本料理店に行っても、オーダーは


私に任せっきりで自分では何も


オーダーしないじゃない。エリーの


頼むものは何でもおいしいから、


とか言ってるけど、ほんとは


料理の名前なんて何にも


覚えていないんでしょ。」


「ああ、もうたくさんだ!


食べる気なくした。」と言って


マークがベッドルームに


行ってしまう。





この時、頭の右上に何か重いものが


ある感じがしてべったりと


ひっついたみたいだった。


そして右胸の上、胸骨側を


硬いものでドンドンと


叩かれるような感じがした。





逆に一番いいと思う状況は;





「あげるって言葉は同じ音でも


漢字で書くと違っていて


いろいろな意味があるよ。


英語でもtooとtwoは同じ音だけど


綴りが違って意味も違うでしょ。


だから まず これが 揚げ出し豆腐


というものだとわかればいいよ」


「この『あげ』はdeep friedかぁ。


ほかの『あげ』は何?」


「手を挙げるとか、物を持ち上げる


とかあるけどね」


「日本語って難しいね」


「簡単な挨拶とか


好きな料理の名前だけ


覚えればいいんじゃない?」


「これはFried Tofuだよね。」


「まあ、ちょっと違うけど


揚げ出し豆腐って覚えにくい?」


「Age¢£%#&□△◆■!?」(笑)


「メニューを見てわかればいいよ。


家では『僕の好きな豆腐』にすれば?


冷めないうちに食べようね」





この時は、頭の右上さっきよりも


少し下のあたりが引っ張られるような


感じがした。それから左胸の上側に


何か這うような感覚があった。





こんなふうにマークが同じ質問を


してきたときの両極端の対応を考えて


それに対する感覚を探る練習を4日。


そして5日目に、実際にマークが


同じ質問をしてきたときに


自分の感覚に反応しないで


中立姿勢を保てるように練習する。





リストアップして選んだ状況5つに


対して同じことを行う。


選んだことに対して、最悪な状況は


簡単に想像できたが一番いい状況を


考えるのはなかなか難しかった。


心のどこかで「ありえない」と


思っていたからだろうか。





少しずつ練習していくうちに


何かが起きた時に


自分の体の中に現れる


「感覚」に気づくようになっていた。





繰り返し言われることは


「嫌な感覚を避けようとせず、


快い感覚に執着しないで


中立的に感覚をとらえること」。





どこにゴールがあるのか


まだ、わからなかったが


やり遂げようと思っていた。












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