第22話 トランス状態
「あれ体が…」と思っている
うちに前後に大きく揺れだした。
瞑想を始めて
2週間ぐらい経った頃から
手や足がじんじんしびれるようになり
30分の瞑想の後
立つことができなくて
しばらく椅子に座っていた。
この日も手足がジンジンしてきたと
思ったら、体が勝手に揺れ始めた。
腰から上半身を折るみたいな格好で
前に倒れ、そして後ろに
引き戻される。
背もたれに当たる前に
また前に倒れる。
何が起きているのか
わからなかった。
CDからは一つの反応に
執着することなく
次々と体の場所を移して
反応を見ましょうと
ガイダンスが流れているが
この反応を無視できない。
結局、前後に動くままにしておいて
タイマーのアラーム音とともに
動きを意志で止めた。
面白かった。
なぜ、体があんなふうに
動くんだろう?
瞑想といえば、ヨガのチャクラを
想像していた。
体の7か所のチャクラが
活性したのだろうか?
「マーク。 今メディテーション
してたら、体がすごく揺れて
びっくりしたわ」
瞑想後、10分ほど休んでいたが
まだ興奮は冷めていなかった。
「へー、僕にはそんなこと
起きたことないよ。
わざと揺らしたんじゃないの?」
「勝手に動いたんだってば。
なぜだと思う?」
「僕にはわからないよ。今度の
セッションでネイオミに聞けば?」
なんだか気のない返事が
返ってきた。
マークは瞑想するときにいつも
ベッドにあおむけになって
目を閉じる。
「首と背筋をまっすぐ伸ばして
メディテーションしないといけない
って教わったよ」と私が言ったら
「リラックスするためなら
どんな姿勢でもいいと言われた」と
マークは言い返す。
そしてリラックスして、大抵
寝てしまっていた。
マークの治療はリラックスすることを
手段にしているみたいだ。
根本的に姿勢が違うんだから
話しても仕方がなかった。
次の日、なんだかワクワクしながら
瞑想に入った。
あー、だんだん体が揺れてくる。
大きく揺れてくる。
体が前に倒れる。
すると、手のひらを上にして
ひじ掛けに置いていた両腕が
上がり始めた。
この姿勢、アラーの神に祈りを
ささげるときのものだ。
イスラム教徒の祈りはこうやって
始まったのか?
マインドフルネスの目的とは
全然違うところにいるのだが
この体験は無視できない。
「もっと、もっと」と
思ってしまった。
きっとこれが
トランス状態とかいうものだ。
このままいったら
曼荼羅が見えるんじゃないか?
そんなことまで考えていた。
マークの言うとおり
次のセッションで
直美先生に聞こうと思っていた。
私は
何かすごいものに目覚めたのか
聞いてみたいと思った。
瞑想するたびに、体が揺れて
両腕が上がる現象は続いた。
私はすっかりこの体験を
楽しんでいた。
3回目のセッションで
やや興奮気味に自分の体験を述べた。
先生は、いつものように黙って
私を見つめて耳を傾けていた。
私が話し終わると「それは脳の違う
部分を使っています」と一言。
「えー!違うの?」と思ったが
口にはしなかった。
「マインドフルネスの目的は
ありのままの現実を
受け止めることです。
嫌悪をやわらげて
安堵感を得るものでは
ありません」と説明を加えて
なぜ、体が揺れるのかには
何も触れられなかった。
次の練習は「左右対称スキャン」。
全神経を体の両側に同時に集中させ、
頭のてっぺんからつま先まで
全身を移動しながら、部分ごとに
左右同時にスキャンする。
この練習をまた2週間して
次のセッションを予約するように
言われた。
「瞑想のとき、一つの感覚を
深追いしてはいけませんよ」と
もう一度念を押すように言われた。
どうして体が揺れたのか?
知りたかったのに
何も触れられなかった。
マインドフルネスの治療から
はずれているので
言う必要はないことなのか?
チャクラとかエネルギーとかと
関連付けるのはスピリチュアル系の
ことなのか?
気になって
ネットで調べたけれども
体の揺れに関する答えは
見つけられなかった。
(最近わかったことだが
大きく体が揺れるのは
トランス状態に入っている可能性が
高いが集まったエネルギーの
大きさに対し、体がキャパオーバーに
なって受け止めきれていない
状態らしい。
「揺れに任せるのはよろしくない」と
いうこと)
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