第21話 潔癖症
食事の前に石鹸で手を洗い、
デザートを食べる前に石鹸で手を洗い、
そして食後にまた、
石鹸で手を洗う。
一日に何度も石鹸で手を洗うので、
石鹸はいつも濡れていて、
シンクは石鹸カスで曇ってしまう。
タオルはいつも湿っているので
しょっちゅう取り替える。
でも、タオルがかかっている壁は
じっとりしてカビが生えそうだ。
これが食事の時の
マークの行動パターン。
「どうしてデザートのときに
また石鹸で手を洗うんだろう?
食べ終わるまで待てばいいのに」と
いつも思っていたが、一度
「デザート食べてから洗ったら
いいのに」と言って、
ひどく怒られたので何も
言えなくなった。
マインドフルネスの次の訓練は
「ボディスキャン」。
頭のてっぺんから順番に
「感覚」を探っていく練習。
体の一部分に集中して
「何か感じるか」を
じっと観察する。
このときにその感覚に対して、
不快だとか心地いいとかの判断を
せず、ただ感じることが大切。
少しずつ「感覚」を意識できるように
なっていた。
マークの潔癖症といえる手洗いの
行動に対して、何も言わなかったが
その行為を見るときの自分の感覚に
気づく。
胸のあたりに何か重いものが
浮かぶ。すごい不快感。
マークが何度も手を洗うことに
対して「異常だ」と判断し、
それが不快感として私の体に
現れている。
たとえほんの一回
デザートの前の手洗いだけでも
やめてくれると、私が「異常だ」と
思う回数も減るので、その分
私の不快感がなくなる。
「デザートを食べてから
手を洗えばいいのに」と
自分の正当性を伝えたい。
これが私の反応。
考えてみると
マークが何回手を洗おうが
私には何の影響もないはず。
まあ、シンクをまめに掃除するとか
しょっちゅうタオルを替えるとかの
余分な仕事は増えるけど、
たいしたことではない。
でも、そこに「異常だ」という
私の判断が入ることで
不快感が生まれる。
タオルを替えたり、
シンクを掃除することが
重労働のように思えてしまう。
何とかこの嫌悪感を
取り除きたくなる。
と、ここまで感覚と反応は
理解できてきた。
でも、私の正当性をマークに伝えて
スッキリさせても、結局
彼が怒鳴ったので、次から何も
言えなくなった。
問題の解決にはなっていない。
そこで私は学習する。
正当性を前面に持ち出して
強い口調で言うとマークは怒る。
彼がデザートの前に手を洗いに
行こうとすると「ソープちゃんも
幸せね。マークが何回も会いに来て
くれて」と、皮肉を込めて言う
作戦をとる。
マークが何も言い返せないのを
見て、ちょっとスッキリする。
こうやって考えると、
不快感を取り除こうとする行為を
繰り返すのって、事態を悪くして
いるみたいだ。だからと言って
自分の感情を殺して、ひたすら
我慢していたら、そのうちどこかで
爆発してしまう。
どうしたら問題解決になるのか、
結論が欲しくなる。
「ボディスキャン」の目的は
偏った判断の傾向を減らし、物事に
過剰に反応しないようにすること。
反応は体内の感覚に対して
起こるので、それを意識することに
集中する。
ただ感覚を「体験する」。
これを2週間することが今の課題。
なんだか本当に
修行をしているような気持ちになる。
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