第20話 反応壁

 2回目のセッションの日が来た。

夕べ瞑想をしようとしているのに、

マークが「一緒にワインを飲もう」と

しつこく誘うのを断って喧嘩に

なった。


本気で取り組もうと、毎日30分の

瞑想を2回、頑張ってしているのに、

どうしていつも邪魔をするのかと

腹を立ててしまった。


 スッキリしない気持ちで直美先生の

オフィスに行った。


「1週間、練習してみて

どうでしたか?」と聞かれた。


「初めの2日ぐらいは、集中力に

欠けて、何度も『思考』が現れたり、

夜は寝てしまったりしましたが、

3日目ぐらいから周囲の音が

気にならなくなってきました」

と答えた。


「瞑想をするにあたって、何か

難しいと思うことはありましたか?」


「マークに邪魔をされます」

と答えた。


「どんなふうに邪魔をされるの

ですか」


「瞑想をするからと、言ってるのに

大声で歌ったり、気に入らないことが

あったら、私に怒鳴ったり。

夕べもワインを一緒に飲もうと

しつこく言ってきました」


 先生は私をじっと見つめて

ただうなずいていた。


「マインドフルネスの目的は

脳が情報をどのように

とらえているかを知って、

その情報のとらえ方を

どう変えるかというところに

あります」


「同じ出来事でも人によって

評価は違います。

同じ雨という状況でも

『雨だ。嫌だなバーベキュー

パーティーができない』

と思う人がいれば、

『雨だ。これで作物に十分な水を

与えられる。ありがたい』と

思う人もいます。


この評価の違いは、感覚として

人の体に表れます」


「今日は『反応壁』について

考えてみましょう」と言って、

一枚の紙を渡された。


先生と話しながら図にそって

私の行動や気持ちを考えた。


夕食後

マークがワインを飲もうと言った。


瞑想をするので今日は飲まないと

断った。それでもしつこく

「飲もうよ。一緒に飲みたいんだ」

と誘ってくる。


せっかく瞑想を習慣づけようと

努力しているのに邪魔をする。


しかもワイン飲んで酔ってくると

必ず「こっちにおいでよ」と

私を誘う。

今日は相手をしたくない気分だ。


「ワインを飲もう」という提案に

対して、私の評価はすこぶる

悪かった。


 しつこい誘いを聞いているとき

頭の右上にカチンとくるものを

感じた。

何か固いものが当たった感じ。


そして右目が引っ張り上げられる

感じがした。


嫌な感じだった。

いつもいつも

まとわりついてくるマークが、

本当にうっとうしかった。


そこで、つい大声を出してしまう。

「飲まないって言ってるでしょ。

何度も誘わないで!」


ちょっと頭の嫌な感覚が

消えたみたいだ。


 人の反応パターンはこんなふうに

何度も同じ体験を繰り返して

癖になる。


イライラしたときに、煙草を吸って

少しリラックスした気分になると


それで問題が解決するわけでは

ないのに、煙草を吸わずには

いられなくなるということだ。


 自分の感覚に敏感になるという

意味が少しわかった気がした。


物事に対して、自分の中に何かの

感覚が起きる。

脳は相手の言葉に

反応するのではなく、

自分の感覚に反応しているんだ。


そして、その反応に対して

脳が過去の経験から

「いいこと」か「悪いこと」かの

判断をする。


「いいこと」なら、

もっともっとと要求し、

「悪いこと」なら

その感覚を取り除こうとする。


次にマークが同じようなことを

したら、冷静に自分の反応を

みてみよう。


ちょっとスッキリした気分で

2回目のセッションは終わった。












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