第6話 蜜月(Honeymoon)
ハネムーン。
日本語では新婚旅行を意味するけど、
英語では
結婚直後の幸せな期間という意味もある。
付き合いだしてから
アッという間に結婚してしまったので
ハネムーンの計画は立てていなかった。
マークの故郷のメルボルンに行こうか?
という話も出ている。
マークは高所恐怖症で飛行機には乗れない。
旅行は車で行くところに限られる。
ゴールドコーストからメルボルンなら
2、3日で行けるらしい。
もう少し落ち着いてから考えようと、
二人の意見は一致していた。
新婚生活は幸せいっぱいだったので
別にどこに行かなくても構わなかった。
私がキッチンで料理をしているとき、
たいていマークはノートパソコンを
ダイニングテーブルに持ってきて
コンピューターで何かしていた。
「Ellie」と呼びかける。
「何?」と答えると
「I love you.」 と言って微笑んだ。
こんなことが、1時間の間に2,3回。
私も「I love you」と必ず返事をしていた。
マークがソファに座って本を読んだり
テレビを見たりしているときに、
私が後ろを通ると、
マークは必ず手を肩越しに差し出してきた。
私はその手を握り返す。
それが
愛を確かめ合う儀式みたいになっていた。
毎日の食事はまるでパーティタイムだった。
マークがテーブルセッティングを担当。
ランチョンマットを敷いて、
紙ナプキンを丁寧に置いて、
ナイフとフォークを置く。
ゆっくりと、まるで
VIPをサーブするウェイターのように。
料理が好きな私は盛り付けにも気を配った。
「毎日がレストランみたいだ」
「こんなにおいしいサンドイッチ
食べたことない」
「日本食ってほんとにヘルシーで
素材の味を生かしてるんだ」
などと絶賛しながら、
本当においしそうに食べてくれた。
「後かたづけは僕がする」と言って
食器をシンクに運んで、
大きな音で音楽をかけて洗い物をしていた。
二人でよく日本のドラマを見た。
日本人が経営するレンタルビデオ屋で
日本のドラマを借りてきた。
マークは、日本語が全然わからない。
それでも、日本の風景や
文化が珍しいらしく、一緒に見たいと言った。
「僕は飛行機に乗れないから、
日本には行けないし」
というのも理由の一つだったのだろう。
ドラマを見てもセリフがわからないので、
ワンシーンごとに止める。
するとマークが、今の場面で
何を言っていたのかを推測して語る。
そして、私が説明する。
こんなふうにドラマを見ていると、
1本見るのにすごく時間がかかってしまうけど、
違う見方ができるので、それはそれで
すごく楽しかった。
休日にはお気に入りのレストランで
テイクアウトを買って、
ビーチでサンセットを見ながら
ディナーを食べた。
二人とも
あまりにぎやかなレストランは
好きでなかったので、波の音をBGMに
見つめ合いながら食事を楽しんだ。
「Ellie, I love you.」
「Ellie, きれいだね」
「Ellie, こっちにおいでよ」
マークの愛に溺れるような日々だった。
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