第5話 2億円のヨットで結婚式
ゴールドコーストのマークの唯一の友達は、
ケンとゴードンという
ゲイのカップルだった。
カップルといっても一緒に住んでいるだけで
肉体的な関係はないらしい。
この二人はヨットで暮らしていた。
二人でお金を貯めては
そのヨットでどこかに旅に出かける
という生活をしているそうだ。
プロポーズの日から
私はマークの家で過ごした。
シェアメイトのオリビアにはもうとっくに
出ていくつもりだと言ってあった。
「きっと、すぐに出ていくと思っていたわ。
あんなにベタベタしていたんだから」
とオリビアは笑っていた。
マークは気に入らなくても
私まで嫌いになったわけではないらしい。
結婚式について、いろいろと話し合った。
マークは無神論者なので教会ではなく
ヨットで結婚式をしたいと言った。
ケンとゴードンのヨットを
使わせてくれるように頼むつもりらしい。
教会のバージンロードも魅力的だったけれど
ヨットの結婚式も悪くないかも…
と思い賛成した。
それでケンとゴードンのヨットを
見に行くことになった。
思ったよりも大きなヨットだった。
マークが先にデッキに入って手を差しだして
私を引っ張り上げてくれた。
想像と違ってびっくりした。
ヨットで生活しているので、
デッキは物であふれかえり、
足の踏み場もなかった。
こんなところで
どうやって結婚式をするつもりなんだろう?
ヨットの中はキッチンも小さな冷蔵庫もあり
独立して2つのベッドがあった。
リビング兼ダイニングは、
ベンチシートになっていて
ちょっと窮屈な感じ。
唯一足が伸ばせるのはベッドの上だけだけど、
それも腰から下の部分は
膝を立てるのがやっとという
スペースしかなかった。
彼らは2年に一度、
海外のヨットレースに出ることを
楽しみにしていた。
身軽に動けるために家も持たず
ヨットで生活しているのだ。
大海原に出かける日があるから
こんな狭いところでも暮らしていけるのだろう。
私には理解できなかったけれども。
ヨットの中を案内してもらった後、
狭いラウンジでコーヒーをごちそうになった。
二人は嬉しそうに、どこかのヨットレースに
出た時の話をしてくれた。
ホテルに来るゲイのカップルもそうだけど、
二人とも礼儀正しくて感じがよかったので、
この日は結婚式について
具体的に話すのやめておいた。
いきなり
「どうやったら ここで式が挙げられるの?」
と聞いて変な雰囲気になっても嫌だったから。
バレンタインデーの結婚式まで、
あと10日となったとき、
「ケンとゴードンが
ゴージャスなヨットの持ち主に頼んでくれたよ。
僕たちの結婚式をそこで挙げるんだ。
明日見に行こう。」
とマークが興奮して言った。
翌日、ヨットハーバーに行くと
ケンとゴードンが迎えてくれた。
二人の案内でそのヨットを見に行った。
オーナーが、今、
売りに出しているところだけど
1日ぐらい使ってもいいと
許可してくれたらしい。
やっぱりあのヨットを片づけるのは
無理だと思ったんだ。
希望の売値は2億円。
さすがにゴージャスだった。
デッキも広いしスッキリとしている。
ドレスを探したり、飾りの花をアレンジしたり、
あっという間に式の日が来た。
結婚執行者(Wedding Celebrant)と
ホテルのオーナー夫婦、ケンとゴードン、
私の友達3人の参列者で小さな結婚式を挙げた。
マークはいつになく緊張していたけれど
二人で考えた誓いの言葉を
どうにか間違えずに言えた。
私の友達はなんだか感激して
涙ぐんでくれていたし
なかなかいい式だったと思う。
ただ一つがっかりしたことを除けば…。
私はてっきり、そのヨットで
そのあたりを一周するのかと思っていたら、
ヨットは停泊したままだった。
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