第17話「力と力」
そろそろ本格的に動く必要がある。
「演説?」
「あぁ。国民全員に向けて決意表明をする。それだけでも心は動くさ」
ジャネット・エミーナはそう説いた。自分たちの考えと真実を
話さなければならない。だがそれを国は恐らく阻止しようと、妨害しようと
動くに違いない。向こうが武力行使するのなら、こちらも迎え撃つしかない。
「エレオノール、ユーフェミア、ベディヴィア、レオンハートは離れた場所で。
リアとアイビスは私の近くで頼んでも良い?」
全員が頷いた。数の利は足りないが力は十分なはずだ。だが、演説を聞く国民に
被害があれば演説の効果は薄れてしまう。やはりもう少し戦力が必要だ。
そこに良い情報が舞い込んできた。少数部隊を連れて来た男はフードを脱ぎ
顔を見せた。酷く醜い顔だ。右目の周りは火傷で肌が爛れており
顔左半分には縦に縫い目がある。首や手首にも縫い目がある。きっとそれらが
無ければ整った顔立ちなのだろう。
「アストレア団長!?」
レイア・アストレアは微笑を浮かべた。三騎士を取りまとめる彼は団員達から
慕われていた。その顔の傷は思いのほか新しい傷だ。
ユーフェミアが顔を歪ませた。彼を見てレイアは口を開く。
「そう怖い顔をするな」
「しかし…!」
「俺は騎士だ。守るために戦うんだ、この程度の怪我で被害者面をする気は無い。
恵まれていない者たちに恨まれてしまうではないか」
貧困街では彼は英雄だ。傷だらけの英雄はレイチェルの前で片膝をつき頭を下げる。
それは騎士として忠誠を誓う姿勢だ。
「王国騎士団団長レイア・アストレア、命を以て貴方様に従うことをここに
誓います」
「…うん、これからよろしくね。レイア」
王国騎士団の戦力を手に入れたレイチェルは再び演説について考える。
「来月に、王都で演説をしよう。それまでは暫く待機、各々心を休ませよう」
アイシャの言葉で一時解散となった。
外はもう冬。真っ白な雪で辺りは覆われていた。子どもたちは元気に雪遊びを
している。子どもたちが一生懸命に転がして大きくなった大玉の上に、その他の
子どもたちが作った大玉が置かれた。一人から受け取った部品をリアが
張り付けた。そしてバケツを被せれば…。
「ふぅ、完成しましたね」
「お、お、大きい~~~!!!!」
子どもたちだけなら、これだけの雪だるまは作れなかっただろう。彼らは身の丈を
超える愛らしい雪だるまを見上げた。
ひと時の間は彼らにもゆっくりしてもらわなければ。
この雪が解ける春ごろになり、本格的にレイチェルたちは動き出す。
ここの事は心配いらないだろう。他のメンバーに守りを固めて貰っている。
王都に乗り込み、王城へ侵入した。
「な、なんだ貴様ら―ふぐぉっ!!」
「ぶべっ!!」
二人の警備員は同じく二人組のパンチを食らって地面に倒れた。彼らに成り代わって
双子が守りを固める。候補者である三人は国民たちの前に立った。下で群れを成す
人々がざわつく中、レイチェルの演説で全員が静まり返る。
「皆さん、もう季節は春。本来ならば既に私たちのうち誰かが王となって祝賀祭が
開かれていたでしょう」
レイチェルの声は辺りに反響し、広まっていく。視界の端でベディヴィアが槍を
振るうのが見えた。
「この話は国民が知らなければならない!まず言う事はただ一つ、我々は善良な
人間として!現在の議員たちの悪事を赦してはいけない!!彼らの権力に我々は
屈してはならない!!」
レイチェルが拳を握り力強い言葉を放つ。ユーフェミアの磨き上げられた美しい
剣閃は遠くからでも見える。
「議員たちは国を騒がせていたハーヴェストと手を組んでいた!それを知った私は
確かに反抗した。だけどこれは赦されていいのか!?悪党と手を結んでいい顔を
していた議員とそれを暴くために反対をしようとした、否、行動を起こした
私たち!どちらが先導者として相応しいか、この国で生まれ育っているのなら
否!誰だって分かるはずだ!!」
声が上がり、エレオノールが剣を振るうのが見えた。
「このまま王が決まらなければ、ここで見過ごせばきっと議員たちは私を
殺すでしょう。だって唯一真実を知っていて、今こうやってここに居るのだから!
だけど皆も知っているでしょう。私とサラ、ジャネットは王国を導く王候補、
国にとっては大切な存在でしょう。そんな存在を殺すことが貴方たちは
赦すことが出来るのか!!!?」
歓声と共に後ろで鈍い音が聞こえた。
「権力を恐れるな!!今こそ立ち上がれ、平和を求める心に炎を灯せ!!私たちは
議員に、国という権力に絶対に屈しはしない!!!」
今までにないほどの歓声が上がり、国民たちは彼女たちに国の未来を託した。
国で好き勝手している真の悪党が彼女たちによって倒されることを願って。
それを好まない者は大勢だ。
演説を終えてレイチェルたちは城を出ようとした。しかしそれを阻む者がいた。
筋骨隆々の大男は仁王立ちで待ち構えていた。
名前をガンベルト・グールニールという。王国一の怪力を持つ鬼神の異名を
持つ男はニヤリと笑みを浮かべた。
「このまま逃がすかよ。ここで遊んでいけ。鍵はここにあるからな」
大きな手に握られているのは小さな鍵だ。
「さてと、どっちにする?俺はどっちでもいいけど」
「なら今回もリアに譲る」
「おう」
「私も手伝うよ。何処かで、多分…」
「えぇ」
リアは軽くストレッチして大男と対峙する。体格差はあれどリアだって怪力だ。
執事服の上着とベストを脱ぎ捨てる。
「ほぅ、確かに多少本気でやっても壊れなそうだな。見れば分かる、幾人も
俺に挑んできた腕自慢がいたが上辺というか表面だけの筋肉しかない奴ばかり
だった」
ガンベルトも構えた。
「耐えてくれよ?若造!」
「そう簡単に死ねるかよ、クソジジイ!」
二人が同時に拳を突き出した。どちらも最初の攻撃を避けて打ち合いになる。
勢いは凄まじい。空気が震える威力で放たれる拳は互いを掠っていく。
リアが一度距離を取り軽いジャブで牽制する。まだまだ余裕はありそうだ。
だがリアの体が宙を浮き、地面に叩きつけられた。巨体は縮地をして距離を詰め
タックルをしていた。その体を退かして立ち上がることが出来ないのだ。
(重い!動かそうにも、力が上手く入らねえ…!)
レイチェルが小さく悲鳴を上げた。上から振り落とされるパンチは顔面に
浴びることになる。鼻骨が折れ、鼻血が出る。力を振り絞り、ほんの少しだけ
巨体が浮いた。両足に力を入れブリッジするように立ち上がったリアは
フラフラと距離を取る。
「かっかっか!俺を浮かすとは驚いたぞ若造」
避けられない攻撃ではない。突き出された右フックに合わせてリアは首を捻り
片脚を振り上げて頸椎を狙った蹴りを放つ。その蹴りは躱されるもリアは次の
攻撃に移った。上半身を上げたところで回転しながら振り上げていた足を地面に
もう片方の足で後頭部を蹴った。巨体がふらつき、上からかかと落としを
食らわせて地面に沈めてやった。だがその男はその巨体に似合ったタフネスを
持っていた。
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