第三章「Tit For Tat」
第15話「タルタロス牢獄、脱獄」
タルタロス牢獄に侵入し、最深部に囚われている男を仲間にする。
その考えが決まり情報を集める。国の事だ、そういうのは騎士たちやアイシャたちの
ほうが詳しい。
囚われている男の名前はレオンハート、王国反逆の罪ということで投獄されている。
どうやら彼はレイチェルと関係があるらしい。
「君は王族の生まれだからね。色々関係が出来るのさ」
「なるほど。でも、どうやって入るの?脱獄の手伝いとかって」
「あぁ、誰かに罪人として入ってもらうしかないな」
アイシャの考えしかないようだ。
しかし次は誰が侵入するかが問題になる。
「俺が行こうか」
名乗り出たのはアイビスだった。
「俺の名前はまだそう広く知られていない。それにそう言った場所には恐らく
一番慣れているだろうし」
「ならばそうしようか。看守に顔見知りがいる。彼に伝えておく」
話がある程度まとまった後、他の面子がどうするのか考えることになった。
レイチェルやリア、ベディヴィアの3人が主になるのだが。
「リアにはアイビスと共に牢獄に入ってもらう。念のために戦力を入れておきたい。
ベディヴィアとレイチェルは外で待機だ。中で何かあったら動いてもらう」
中で何か大きく事が動いているのかはレイチェルの眼があれば分かる。
そのため彼女には外で待機してもらうことにする。彼女の警護も忘れられない。
ベディヴィアに彼女の身辺警護を任せることにしたのだと語る。
となれば行動を起こすのみ。
一週間後、アイビスとリアは牢獄にやってきた。囚人服を着た双子の姿を主に
女の囚人たちが目で追っていく。容姿端麗の青年囚人は珍しいらしい。
囚人たちの集団から離れた場所で二人は立っていた。その双子のもとに看守が
やってきた。彼がアイシャの顔見知り、そして今回の助っ人カフカ・ロレンスだ。
「運がいいことに俺は副看守長でね。最深部まで行くことが出来る」
「やはり見回りできるのは限られた看守だけなのか」
「極悪人ってことだからな。迂闊に下っ端をいれられっかよ。それより、だ。
本当にレイチェル・フローラはいるんだろうな?」
レオンハートはレイチェル・フローラに興味を持っている。彼女がいないと
なったら脱獄する気を失ってしまうかもしれない。
「大丈夫ですよ。レイチェル様は外で待っている。ここで何かあれば彼女も
ここに来ます」
「そうか。ならいいんだ」
ここに監視カメラ等は無い。それだけ警備が手薄とも取れるがそうではない。
警備がそれだけ固いのだ。看守がとにかく腕自慢なのだ。先ほど会話をした
カフカもまたそれなりに鍛えられた人間。ここで看守になるには厳しい訓練を
耐えなければならない。そして知識も必要だ。
「これからの事を考えると少し気が滅入るな」
アイビスが呟いた。先の事、仮にレオンハートを仲間に付けたとしてそのあとは
どうするんだろうか。レイチェルはどうする気だろうか。
「俺たちよりも気が滅入っているのはレイチェル様だ」
リアは言った。確かに自分たちを引っ張っていく先導者の役割を担うレイチェルが
一番気が滅入っている、緊張しているだろう。肉体的な疲れが無くても
精神的な疲れがあるかもしれない。
「…そうだな」
夜が明けてからレオンハートを脱獄させる。彼を牢屋から出した後はどうにでも
なれ。
―出会いは、何時だったか。
リアという名前は引き取られてから付けられた名前だ。生まれてすぐに捨てられた
俺たちは名前も無く、気が付いた時から狭い牢獄の中で過ごしていた。力だけが
全ての場所で生きていたのだから。
銀髪の女が来たのはそうだ、やっと力を付けられたときだ。100人程度、自分の力で
殺した時だ。
その女が俺を買った理由は
「娘は引っ込み思案で友だちが作れなくて。だから同い年ぐらいの子が欲しいなぁ」
だそうだ。その家で食べるものは全て美味しかった。だけど自分では力を制御
できないから誰かの手を握ったり何かを触ることは極力避けていた。
「手、握って欲しい」
ボロボロで血塗れの手を握ろうとしてくるのを振り切ることが出来なかった。
仮眠から目を覚まし、二人は動き出す。
地下へは既にカフカが手を回していたのか人はいない。看守一人いない。
最深部の入り口で待っていたのはカフカだった。彼は何も言わずに鍵を開け
3人は中に入った。
「ここか」
「あぁ。オイ、レオンハート。昨日言ってた奴らだ」
檻が開き、カフカは手枷と足枷を外してやった。黒髪に紫紺の眼をした長身の男が
レオンハートだ。仏頂面の男は二人を見た。
「ここまで来るとはな」
「俺たちの主人が決めた方針だからな。俺たちは逆らえねえよ」
牢獄を出る。
檻から出たレオンハートは息を吐いた。
「久しぶりの外だな」
「早く出よう。そのあとにゆっくり外の空気を吸えばいい」
「そうだったな」
後は出るだけだがそう簡単に出させてはくれない。カフカであっても騙し切れない
相手がいた。看守長フォルス・ヴェルデ。罪人に対し冷徹に接する男は既に武器を
手に彼らの前に立ちはだかっていた。
「大罪人を外に出すつもりか、それがどういう意味なのか分かっているのか。
カフカ、お前には失望した」
「看守長、俺たちの方が悪人だと思わないか?」
カフカの言葉をフォルスは遮らなかった。それなりに信用をしている人間の言葉は
しっかりと耳を傾ける。そのうえで判断する。
「レオンハートは本当に大罪人なのか、て事だよ。議員共だろ、腐った国だろ?
本来ここにいるのは王がいないことをいいことに好き勝手しまくるクソジジイ共だ」
仮にも議員をクソジジイ呼ばわりするカフカ。
「いずれ彼らの罪が公になり、彼の罪が濡れ衣だと知らされる。執行猶予、という
事にしてくれると嬉しいんだが」
しかしその提案を呑んではくれなかった。
『全罪人に告ぐ。脱獄犯が現れた。黒髪に紫紺の眼をした男は双子の男と共に
行動をしている。彼らを捕まえた者は特例として免罪してやる』
地下にまで聞こえるほど大きな歓声に全員が戸惑う。
「もし、もしもここから脱獄できたのなら俺はそれ以上追いかけることは無い。
罪がないのは事実だ。本来この地下に投獄されるのは全議員たちだ」
これが彼が与えた試練と言ったところだろう。フォルスは彼らに背を向けて
地下から出ていく。
「地下からの抜け道は無いのか」
「ない。出るには地上に行くしかない」
カフカが断言した。最初からこうなることはレイチェルが予測していた。外でも
レイチェルが異変を感じているに違いないだろう。だからこそ外に出る決意を
する。
「外に出ればレイチェルたちがいるはずだ。外に行くぞ」
リア、アイビス、レオンハート、カフカは階段を駆け上がり外に出る。そこからは
混戦だ。囚人たちが我先にと襲ってくる。可能な限り一撃で相手を沈めていく。
数が多く消耗が激しい。だが別の場所から声が上がる。雄叫びではなく悲鳴。リアと
アイビスは何処から何が飛んでくるのか察しがついた。カフカとレオンハートの
手を引き、さがらせる。目の前を光の槍が駆け抜けた。
「良かった、お互い無事らしいですね」
「そうだな。こっちも無事にレオンハートを開放できた。ここから逃げるだけだ」
ベディヴィアのマントの下から顔を出し、体を出すレイチェルは笑顔を見せた。
「みんな無事で良かった!」
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