第13話「濡れ衣の大罪人」

ベディヴィアの猛攻をフリューゲルは弾き、受け流す。

一筋縄ではいかない。この程度で終わるのならば団長など出来るはずがない。


「力が入ってないな」


片腕故、両腕と比べ力はどうしても減ってしまう。ベディヴィアは剣の間合いに

入ってしまった。このままだと確実に剣は心臓を貫く。フリューゲルは突然

彼から距離を取る。肌寒い、鋭い冷気が辺りを包んでいた。


「なっ、脚が!!?」

「どうしてここに…フリオニールさん」

「準備が整ったから来ただけだ」


ベディヴィアとフリオニールはフリューゲルを見据える。


「な、何故だ…何故、何故だ!!何故、古龍がここに居る!?」

「王族との約束を守りに来た」

「は?王族…?」

「レイチェル・フローラは王族の血を引く。つまりはあれだ、お前は王族を

殺したって事だな。それよりいいのか?」


我に返り剣を構え直した時、すでに目前に槍が迫っていた。

槍を手放し、ベディヴィアは一呼吸する。


「ベディヴィア~!!」

「レイチェル様」


レイチェルたちが遅れて駆け付けた。フリオニールはレイチェルに声を掛けた。


「目を治す手立てが見つかった」


全員が喜んだ。レイチェルも笑顔になった。フリオニールが取り出したのは小さな

小瓶。赤い液体の入った小瓶だ。


「これは竜の血、俺とフェリクスとベルグリアス三人の血だ。これを目に入れる」

「目薬みたいな?」

「そうだ。すぐに効果は出るさ」


レイチェルが上を見上げる。目隠しが外され蒼眼に一滴、二滴、赤い液体が入る。

効果はすぐに表れた。眩しくなってレイチェルが目を伏せる。


「見えるようになったみたいだな。色は…変わってしまったが」


左目は淡い緑色に変色しているが視覚などには異常はない。

フリオニールと別れてから本格的に反対運動を起こすことを決意する。

が、こちらには戦力がもう少し必要だ。その戦力を探さなければ。


「そういえば、王族がいなくなってすぐにある話を聞いたのですが」

「あーあの話か」


三人の騎士たちが記憶を呼び起こす。

議員たちへの反逆罪で牢獄最深部に捕まっている男がいるとか。

だが一部では、否、今回の事があってから実はその男は先にこの悪事を

知っていたのではないかという噂が上がっている。

もしそれが本当ならば協力してくれるかもしれない。

だがここを迂闊に離れるのもどうかと思った。レイチェルたちがその牢獄に行き、

他数人はここの警備を担当することになった。

タルタロス牢獄、全方位を海で囲われた脱出不可能とされている監獄。

国でも有名な凶悪犯が囚われている。その最深部にその男はいる。


-タルタロス牢獄-

「なぁ聞いたか」


一人の看守が仲間に声を掛けた。


「次期王候補者のレイチェル・フローラが、国の議員の悪事を暴いて反逆罪で

権利剥奪だってさ」

「知ってるよ。それを聞いて他の候補者も自分から抜けたらしい」

「あぁ、これからどうなるんだろうな」


その看守たちがいるのは最深部。厳重に警備された牢屋にいる男は静かに

会話を聞いていた。外では国が揺れているようだ。だからといって極悪人である

自分には関係のないことだが一つ解せないのは最初に聞こえた人物の名前だ。


「懐かしいな…フローラという名を持つとは」


今まで脱獄など考えもしなかったが脱獄するのもいいかもしれないと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る