第12話「反抗同盟」

「なんてことをしているんだ貴様ら!!」


ローベン・ベッフェロウは傭兵団を率いてやってきた。顔を真っ赤にした中年の

男はガニ股で歩いてくる。


「イザベラ、お前を神官の座から降ろす!!そしてレイチェル・フローラもだ!!貴様に

この国の王の候補者を名乗る資格は無い!!!」


二人は何も言わない。沈黙を是と判断したローベンはすぐに手を回した。

彼は見覚えのない3人の男に目を向ける。


「なんだ、お前たちは。異国のスパイか?」

「そういう風に見えるのか、だがなぁ…俺たちは国にも結構重要な立場だぜ?」


ベルグリアスの言葉をローベンは鼻で笑って吹き飛ばした。


「こんな若造がか?全く、面白い冗談だ」

「いいのかのぉ…そんなこと、言って。儂らは竜だぞよ、若造」


フェリクスは笑みを浮かべた。ギザギザとした鋭い歯が見える。それでも

ローベンは笑うのだから、大した者だ。本当の愚か者がどっちなのか分かっていないようだ。


「確か今は議員が国を率いているんだったか。だとしたら馬鹿馬鹿しい、

お前らに王を名乗る資格も、議員を名乗る資格もない」


フリオニールがはっきりと言い放った。彼らは城を半ば強制的に追い出された。

そのあと、王都は大きく揺れる。レイチェル・フローラの脱却。

取り外されて地面に落ちた彼女の絵を一人の女が拾った。

もう一人の次期王候補、ジャネット・エミーナ。そして彼女の騎士、

イリヤ・ハートフィール。


「レイチェルが、結果を見る前に落選…だと?」


ジャネットは信じられなかった。これはおかしい。これについて、先刻議員たちに

よる説明があった。真実を見極めることが出来る彼女は薄々彼らが何かを隠している

事は察しがついていた。

議員たちはレイチェルを反逆の罪を犯したとして資格を剥奪した。

それに納得いっていないのは大勢いる。だが彼らはそれを面には出さなかった。


「あ、ジャネット!どこに行くのよ」

「決まっているだろう。レイチェルの屋敷だ、本人に本当の事を聞かなければ

ならない」


同じように動き出していたのはサラ・フォードとユーフェミア・グランツ、そして

エレオノール・グラン・フェルナンデスの3人だ。


「全員同じことを考えているようね」

「えぇ、レイチェル様が反逆をしたとは思えない。悪意を持っているとは

思えません」


エレオノールが言った。


「としたらやはり…国か?」

「そうだろうな。ベディヴィアとも少し話をした。やはり国絡みらしい」


他言無用ということでエレオノールとユーフェミアはベディヴィアから話を

聞いていた。国が裏で何かをしていると言う事を。

屋敷に到着したのはどちらも同時だった。


「これはこれは、揃って同じ場所に来るなんて…目的は同じか」

「そうね。真剣勝負なのだから、対等に扱われなきゃ燃えないでしょう?」

「ふっ、そうだな」


5人が揃ってレイチェルの屋敷を訪れた。レイチェルたちも待ち構えていた。

レイチェルに関しては両目を布で覆い隠した姿で待っていたのだ。

彼女の話を聞いて、それぞれがその先を予測する。


「レイチェルは、どうしたいの?」


サラは問いかけた。


「国の偉い人たちが悪いことをしているのを知って、どうしたいと

思ったの?」

「私は…このまま過ごしちゃいけないと思ってる。ここに居る全陣営で同盟を結ぼう

お互いに良い条件だと思わない?議員の悪事を暴けば、さらに退治すれば

互いに利益は得られる」


レイチェルは至って冷静。何も見えない目には意志が宿っているだろうということは

感じられる。


「いいだろう。私は協力する。サラ、君は」

「勿論、協力するわ。これで共犯者ね」


全員が頷いた。それぞれ現在の国を動かす議員たちに反抗すると決意したとき

外からの悲鳴を聞き、全員が動いた。

先に動いていたのはベディヴィアだった。彼の槍は相手に向けて鋭い突きを放つ。

そして身の丈ほどの槍を薙ぎ払う。


「―ぐっ!!?」


誰かが放った投げナイフが背中に刺さり顔を歪める。

数十、下手したら100単位の集団がここを訪れ襲う理由は何となく察しが付く。

彼らは恐らく国の議員たちと繋がっている。徹底的にレイチェルを落とすつもりだ。


「ベディヴィア様、もう!もうおやめください!!」

「早く屋敷のほうへ走れ!そう長くは持たないんだ!!」


村人たちは騎士の指示に仕方なく従う。力のない私たちがここにいては彼の

邪魔になることが分かっているからだ。

白銀の槍は回転し、ナイフを弾く。一歩前に出て横に薙ぎ払い、そして突きを放つ。


「やはり腕が落ちたなベディヴィア」


黒い鎧をまとった男は槍に対して剣を使って攻撃を弾いた。ベディヴィアは一度

距離を取り、顔を上げる。現王国騎士団団長フリューゲル・イングラム。

彼は黒い剣を手にここを訪れた。


「貴方まで繋がっていたか」

「これでもお前の腕は買ってたんだぞ?隻腕でよく戦ってくれた。まぁその腕を

落とした要因は俺だがな」


力なく揺れる袖。先の戦いで彼は腕を失った。そこからどれだけ鍛錬を

積んだだろうか。どのぐらい年月をかけて力を付けたのか、分からなくなる

ぐらいだフリューゲルは残念そうな顔をする。


「ある実験が行われた末にあの戦争が起こった。体に悪魔を取り込むって

実験だったらしい。そうすればもっと強い兵隊が作れるのでは、てな。失敗し、

戦争が起こる。その最前線で戦ってるお前を見て俺は思ったんだよ

―お前を使ってみようってな!」


そもそも悪魔を召喚することがきつく禁じられている。露見して戦争が

起こった。その戦いで最前線に立ったベディヴィアに彼は目を付けていたのだ。

腕を切り落としたのは異形の怪物だったはずだ。


「あれは俺が飼い慣らしたんだよ。てっきり取り込んでるものだと思ったんだがなぁ

今回も失敗か…やはり1000単位の魂が必要だったってことだな」

「人の命を道具と勘違いしているようですね。騎士団長が聞いて呆れる」

「あーそういえば、その中にはエレノアって人間もいたなぁ」


エレノアはレイチェルの母の名前。

悪魔召喚の儀、その時に小さな赤子の身代わりになった女がいたと。

女は銀髪が特徴的だったと。

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