第11話「三匹の古龍」
約束の一週間後、再び王城にやってきた。イザベルの案内で中に入り、碑石を
見に行く。竜と手を繋いでからずっと国には予言の碑石があった。そして
いつの間にか、その予言が絶対であると考えるようになっていた。
その碑石は竜の遺骸と魔力を含んでいるとされ、竜の墓石とも呼ばれている。
王族の人間はその碑石の字をハッキリと解読することが出来るとも
言われているのだ。
「少数派の学者たちは王族の先祖は竜から力を授けられたから碑石が読めるのだと
考えております」
「確か大半は王族には素質があるから読める、という漠然とした推測が
広まっているのですよね?」
「はい、リアさんは物知りですね」
イザベルが微笑んだ。リアも微笑を浮かべ、イザベラが少し顔を赤らめた。リアは
自他ともに認める美男子だ。王都に住む女性たちは密かにレイチェルの従者である
リアと隻腕の騎士ベディヴィアをレイチェル陣営の双璧と呼んでいる。
まだアイビスの存在は広く知られてはいない。
「何をしている!イザベラ!!」
「ローベンさん…!」
ローベン・ベッフェロウ、議員の一人だ。中年の男は鼻息を荒くして歩いてくる。
そして怒鳴るのだ、何故彼女をここに連れてきているのかと。
「レイチェル様に素晴らしい王城の内装を見せるためです!」
「嘘を吐くんじゃあない!!」
「あぅ~…」
イザベラは嘘が吐けない性分らしい。そこでサッとサポートに入ったのは
騎士であるベディヴィアだ。彼が嘘の言葉を並べる。
「申し訳ありませんローベン殿。先にあった開会式にて、レイチェル様は自身の
大切なアクセサリーを落としてしまったのです。それをイザベラさんが拾っていた
ため受け取りに来ました」
「む、そうだったのか。最初からそう言えば良いものを」
ローベンはそう言って通り過ぎる。全員が胸を撫でおろした。
「有難うございますベディヴィアさん。さぁ、急ぎましょう」
イザベラたちは歩調を速め、廊下を抜けた。後は階段を下るだけだ。
レイチェルに関しては流石に階段を下るのは危険なためリアが抱えて
共に下ることになった。俗にいう、お姫様抱っこと呼ばれる抱き方だ。
「何をしている!!」
「う、嘘…!どうしてそんな…」
イザベラは動揺した。兵士たちが階段を上ってくる。しかも彼らは国の人間では
無い。傭兵だ。
「可笑しい…だって、この人たちは国にいる傭兵ではない!」
「その通りだ」
兵士たちを退けたのは剣聖エレオノールだ。彼は剣を納め、振り返る。
「彼らは国の人間じゃない。どうやら王族がいなくなったことで国の権力も
どす黒くなっていたようだ」
「エレオノール!」
「やぁベディヴィア。それとお久しぶりですレイチェル様」
エレオノールはレイチェルを見た。彼女は小さく頷いた。階段を下り、最下層に
来た。鎖を断ち切り、中に入ると大きな碑石が佇んでいた。
初めて見た予言の碑石、神々しいものではない。だが圧倒される歴史を
持っている。今まで国の歴史を刻んできた。
「ほぅ、これが碑石か?」
複数人の男たちは姿を現した。微かに冷気を放つ者、微かに熱を発する者…。
彼らを見たイザベラは彼らに駆け寄り頭を下げた。彼らが以前より彼女と
言葉を交わしていた人々。彼らは今日、仮面を脱いでいて素顔を見せていた。
一人がレイチェルに近づき彼女の襟首を掴んで持ち上げた。隠された
レイチェルの眼を彼はジッと見つめた。
「なんだァ?目ェ潰れてんのか」
「何っ!?」
全員が反応した。ある集団は顔を伏せ、ある集団は慌てふためいた。レイチェルを
投げ捨て青い髪の男はイザベラの胸倉を掴んだ。
「オイ、どういうことだ!何故、目が潰れている!先天的ではないだろ!!」
「ち、ちょっと待って。誰だか分からないけど、イザベラさんは悪くないよ!」
足元に気を使っているのかゆっくりとした歩調でレイチェルは歩み寄る。
「彼女の言う通りだな。その辺にしておかんか、ベルグリアス」
爺口調の男は苛立つ男、ベルグリアスを宥めた。彼もまた不満そうだが落ち着いた。
「これが予言の碑石か。人間の中ではそうされているらしいな」
「人間の中では、て…貴方たちは人間ではないのですか?」
リアの質問に彼らが揃って頷いた。人では無い種族は人間と変わらない容姿をして
彼らの前に姿を現し、同じように碑石を見つめていたのだ。
冷気を放つ男は口を開く。
「俺たちは竜だ。数は少ないが、複数いる竜の中でも比較的古い時代より
存在していた。そのため人間達は俺たちを古龍と呼ぶ。因みに俺は
フリオニール、漣氷竜フリオニールだ。そして水凶竜ベルグリアス。彼を
宥めたのは炎武竜フェリクス」
爺口調のフェリクス、ぶっきらぼうなベルグリアス、そして温厚なフリオニール。
確かにこの3人の名前はこの国の歴史にもはっきりと残されている。
彼らは密かに国を訪れていたというのだ。この碑石は古龍によって
この国に託されたと言われている。具体的にどの竜が、とは書かれていなかった。
「ふん、そんじょそこらの人間にこれが読めるわけが無いだろう。竜の古代文字だ、
読めるのは王族だけ。ここには先の事件の事は書かれていない」
「それとキャサリン・オットーという名前もだ。嘘っぱちさ、誰が嘘を
吐き始めたのかは分からないけどね」
ベルグリアスとフリオニールが言った。動揺している中、アイシャが口を開いた。
「もし…もしもだ。もしも、国がハーヴェストと繋がりを持っていたとしたら…」
アイシャの考えは笑い飛ばすことが出来ないほど真実味がある推測だった。
・レイチェルの容姿…銀髪青眼は王族と同じ
・レイチェルの眼…色々なものが視える目
・レイチェルへの襲撃…過去2度、ハーヴェストより襲撃
「アイシャ様は議員たちがハーヴェストと繋がりを持ち、レイチェル様を殺そうと
していると考えているのですね」
「あぁ。といっても私の推測さ。本当に繋がりがあるのか、分からない。
証拠もない」
「だけどレイチェル様の生まれは…」
リアが口を滑らせた。アイシャが笑う。
「良いさ。王族で間違いない。表向きでは王族は病で全員死んだとされいてる。だが
唯一、それを避け切った人間がいる。レイチェルの父ザックだ。彼は一般の女性と
結婚することで王族と言う事を隠すことが出来た」
王族の名をクラウソラス、エレノア・クラウソラスは男性の家に嫁入りすることで
姓をフローラにすることが出来たのだ。親の特徴は子に遺伝する。母親の血を
濃く継いでいるのがレイチェルだと言う事だ。彼女が王族の人間であることは
竜たちが確信している。
「まずは儂らと王族との関係を簡潔に説明しておこう」
フェリクスは話し出した。初代クラウソラス王は大戦を収めるためにあれこれ
手を回し試行錯誤していた。だが戦争は終わらない。そこに竜たちがやってきた。
手を結ぼう、さすれば戦も収まるだろうと告げられた。平和の印に竜たちは
人間達を導くための碑石と、王族にだけ祝福の眼を与えた。人によって力を変化
させるが先を見据える力が隠されていた。
「じゃあ、私の眼は元々貴方たちの…?」
「何を悲しんでおるのだ、レイチェル。それはお前さんの眼だろう?それ以上も
以下も無い」
フェリクスの大きな手はレイチェルの頭をくしゃくしゃと撫でまわした。
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