第5話「翡翠色の大罪人」
中に入って行かれてはマズイと動こうとしたエスメラルダを二人の騎士が
逃がすはずがなかった。彼は心の中で舌打ちする。
やはり強い、見下しているわけでは無い。短時間でこの戦い。
少し力を入れるべきか。久しぶりにここまで追い詰められた。
電気が弾け、エスメラルダの顔が露わになる。不気味な色の眼だった。
赤と紫の異様な目だった。
「30%を出すのは何十年ぶり、否、数百年ぶりかな?」
「…冗談じゃない」
ユーフェミアの心の声が口から洩れた。エスメラルダの体にあった幾つもの
傷が全て消えていた。
「フローラって姓…何処かで聞いたことがあると思ったら、あの時の」
何か意味深な言葉を彼は呟いた。
―ナニヲシテイル?
低い声はレイチェルにも聞こえた。恐怖心を煽るような声を発したのはこの場に
いる何者かでは無かった。エスメラルダもまた額から汗が噴き出していた。
彼の体を鋭利な何かが貫いた。即座に彼の体が炎に包まれた。
―オマエハナニヲシテイル。オマエノヨウなヤツはイラナイ。
「へ…へへっ…そう、かよ。ここに来て…引っかかったか」
「だ、誰!?」
黒い腕がレイチェルのほうへ伸びた。彼女の白い頬をそっと撫でる。
「こちらへ来い。お前と俺以外はいらない」
「…それは出来ない。私の居場所はここ。ここ以外は無い」
彼女はキッパリと断った。黒い影が消えた。何者なのか、分からない。今、この
状況も分からない。何が起きて、誰が敵なのか分からなくなってしまった。
大木に背を預けたエスメラルダにユーフェミアは剣の切っ先を向けた。彼の首筋に
剣をあてがう。
「殺すか?確かに…今なら楽に殺せるな」
「そういう意味だ」
「俺は組織を追放された。お前たち騎士はハーヴェストを滅ぼしたいだろう?」
情報を全て教える、と言ったのだ。それを簡単に信用しても良い物かと
ユーフェミアが頭を抱えているときに口を挟んだのはレイチェルだった。
彼女に何が見えているのかは分からない。サラがユーフェミアの背中に手を
あてた。
「捕虜にでもすれば良いんじゃないかな?」
「俺はそれでも構わない。本来、殺されて当然だからね。生かされているだけ
幸運だと思うさ」
エスメラルダは自身が犯した重罪を分かっている。今、殺されても彼は決して
文句は言わないだろう。どれだけ罵倒されても、それをよしとするに違いない。
心の底からの悪人ではないとレイチェルは考えて彼に歩み寄った。
「色々、聞きたいことがある。何故私たちを襲撃したのかっていうのが一つ。
もう一つはあなた自身について」
レイチェルは彼をまっすぐ見つめていた。
「何故ここを襲ったのか、ここにお前がいると知ったからさ。お前を狙う理由は
大雑把な推測が出来ているはずだ」
様々なものが視える目、それを持つレイチェルを狙って屋敷を襲撃した。だが
レイチェル自身、イマイチその凄さが分からない。ピント来ていない彼女に
エスメラルダは話をする。
「もし、その目が持ち主によって性質を変えるとしたら?人によっては未来が
見えるかもしれない」
「そんなこと…」
レイチェルは否定しようとしても言葉が出なかった。そのもしもの話は誰もが
否定できる話ではない。それを知っているからだ。
次に少し間を開けてから自身について話し出した。彼がどのように育ち
そうして異端宗教ハーヴェストに入っていたのか。それは300年近く遡ることに
なる。彼は少なくとも300歳以上ということになる。それを気にしていたら
キリがないので今は何も聞かない。
エスメラルダの話に全員が耳を傾ける。
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