こういうのを待っていたんですわ!!!!
扉が閉まる音にミケとフェルは慎重に顔だけを出して確認すると、メルナスとプルーキーが廊下に出たのが見えた。
書斎から連れ出すことには無事成功したようだ。その後、同じく書斎から出て、こちらへ向かってくるセバスをやり過ごし、二人は書斎へと向かう。
周囲を警戒しつつ、書斎に侵入した二人は出来る限り物音を立てないように家探しを始めた。メルナスたちが向かった方向にはプルーキーの私室があると連れ込まれかけたミケは知っていた。時間はあまり残されていない。
屋敷にいるのはプルーキーとセバスを除けば数人の年配のメイドたちだけ。その内の誰かがこの書斎を訪れる可能性は低いが、急いで権利書を見つけ、処分しなければメルナスの貞操が危ない。
祈るような気持ちで探る二人だが、メルナスの最低過ぎる進言で権利書はそこにはないのだ。
そんなことを露とも知らない二人は必死に机、本棚、ありとあらゆる場所に目を向けてあるはずのない権利書を求める。
数分と経っていないにも関わらず、焦りからか時間の流れがとてつもなく早く感じてしまう。焦燥感がどんどんと増していく。
可能性を示唆こそしたが、あのズボラで愚図のプルーキーが権利書を肌身離さず持っている可能性は低い。そう考えたからこそフェルはこの作戦に乗った。
しかし、探せど権利書は出て来ない。額に汗が滲み、視界は潤み始める。今すぐにでも泣き出したい気分だった。
こんな作戦に賛同するべきじゃなかった。別の方法で教会を守る為に戦うべきだった。
そんな考えばかりが浮かんで、ついには探す手が止まってしまう。
「フェルさん、諦めてはいけません。メルナスさんが作ってくれたチャンスを無駄にしてはいけません」
同様に焦りから汗を滲ませたミケが手を止めないまま、フェルを激励した。本当ならミケも膝を折って、嘆きに暮れてしまいたかった。だがそれはメルナスに対する裏切りだ。まだ一ヵ月、たったそれだけの時間しか過ごしていない彼女が自分を危険に晒してでも教会を守ろうとしている。なのに自分たちが諦めてどうする。その思いがミケを突き動かしていた。
絶好のチャンスを不意にしたのもメルナス本人である。
「でも、これだけ探しても見つからないってことはこの部屋にはもう……」
「……そうかもしれません」
もしかしたらプルーキー自身も権利書を見つけていないのかもしれない。
だが先代領主は几帳面な男だった。その可能性は限りなく低い。そんなもしもに懸けることは出来ない。
見つけた権利書を置くとしたらこの書斎か部屋だろう。書斎にないという事はプルーキーの私室か、それとも本当に肌身離さず持っているかのどちらか。
どちらであっても既に私室に向かったであろうプルーキーに気付かれず手に入れる事は不可能だ。
隙があるとすれば、それは全てが終わった後にしかない。
静かにミケは胸の前で両手を組み、祈りを捧げる。やがてその手は強く、固く握り締められていた。
◇◆◇◆
ミケたちが書斎へと侵入したのとほぼ同時、メルナスはプルーキーに腰を抱かれながら彼の私室を訪れていた。
書斎よりもさらに豪奢な家具が並んでいたが、メルナスの目をひと際引いたのは──というよりそれしか目に入っていないが──プルーキーの巨体が横になっても有り余るサイズの大きく立派なベッドだった。
それ以外にも上等なソファや観賞用なのか大層な装飾が施された剣も壁に掛けられているのだが、それらはまるで興味の対象ではなかった。
(どんな豚小屋かと思いましたが、それなりの貴族の部屋、という趣ですわね)
普段は寄り付きもせず、街の上等な宿屋の一室を根城にしているのだ。整えられているのも当然だった。
感心と落胆が半々といった様子でベッドに目が釘付けになっている間にプルーキーは後ろ手に扉の鍵を下した。合鍵はあれど、これで密室の完成だ。
「さて、それではプルーキー様。今後についてのお話合いを──あら? どうされましたの? なんだか随分と息が荒くなっていますわ」
メルナスはすっとぼけた態度でプルーキーの異変を指摘する。
彼の鼻息はもはや騒音の域に達するほどに荒くなり、目は赤く血走っていた。
初めて会った時と同じかそれ以上の熱の籠った視線でメルナスを舐めるように見つめ、一歩、また一歩と近づいてくる。
「ゲフッ、ゲフフッ、ああ……話し合いも大事だけど、その前にもっと大事なことがあってね……」
「まあ、そうなんですの? それは一体なんでございましょうか」
世間知らずの無垢な箱入り娘のように小首を傾げるメルナス。
それがより琴線を刺激したのか、豚のような歩調から猪の如く一気にメルナスに突撃し、その肩を掴んでベッドへと押し倒した。
「きゃっ、プルーキー様、一体何を……っ?」
「僕のメイドになったら毎晩相手をしてもらうんだ……まずは君の味見をしないとねぇ……!」
両腕を頭の上で押さえつけ、巨体に圧し掛かられたメルナスは僅かに身じろぎすることも出来ない。
そんなメルナスを見下ろし、プルーキーは口の端から涎を垂らして粘着質な笑みを浮かべた。
「そ、そんな……! お、おやめくださいっ、い、いやっ、いやですわ! そんなっ、だってっ、
これから起きることを想像し、顔を青褪めさせて震え始めたメルナスの姿がさらにプルーキーの嗜虐心を滾らせた。
貴族という強者として弱者を虐げる快楽は慣れ親しんだもの。だがそれがシスターの、しかも元は公爵令嬢という高貴な身分であって美女となればその征服感はこれまでの感じたものの比ではない。
公爵令嬢を組み伏せている。公爵令嬢が涙を浮かべて嘆願している。それを蹂躙し、味わい尽くせる。これ以上の快楽があるだろうか。プルーキーは今までにないほどに興奮していた。
(んほおおおおおおおおお! たっまんねえですわ! やっべーですわこれ! 豚に押し倒されてますわ! 豚に見下されてますわ! 本来なら絶対に関わることないようなクズでゲスでブスの豚野郎に犯されてしまいますわー!!!!)
限界性癖元お嬢様も過去最高に滾っていた。本当にもうダメだこいつ。
(腰から下が押し潰されそうなくらいの重量感! むわっと香るくっさい体臭! ぶにょぶにょの気色悪い手ェ! これですわこれですわ!
逃れようのない土壇場にまで追い詰められれば正気に戻るかもしれない、そんな可能性があると思っていたがそんなことはなかった。
もうこのお嬢様の性癖は取り返しのつかないところまで来ている。抜け出せない深みにどっぷりと浸かり、ハマっている。
断罪からの婚約破棄と前世の知識はとんでもない性癖モンスターを生み出してしまっていた。
(んああああ! 汗が! 涎が! 垂れてきて
メルナスの内心は狂喜乱舞する。
初めては野外とかもっと小汚い場所で、などと理想はあったがそんなものは消し飛んでいる。彼女にとって此処が、この場所この時が間違いなく過去最高の絶頂期であった。
「シスターに戻りたくはないんだろう? だったら大人しく僕の言う事を聞いていた方がいいよぉ……? 大丈夫、優しくしてあげるし、悪いようにはしないさぁ……」
(はあああ? こっちは悪いようにしてほしいんですわ!)
まったく優しくないし紳士的でもない下種の言葉であったが、メルナスはお気に召さなかったらしい。
鋭く、反抗的な目つきで睨みつけると、唯一自由に動く首を使い、ペッとプルーキーの顔に唾を吐きだした。
「お断りですわ……っ! あなたのような男に抱かれるくらいなら死んだ方がマシですわ!」
「……はぁ。優しくしてあげようと思ったのに、気が変わったよ……!」
「いやぁああ!?」
予想していなかった思わぬ抵抗に青筋を浮かべ、プルーキーは力任せに片手で修道服の胸元を破り捨てた。
飾り気のない下着が露わとなり、それだけでは隠しきれないメルナスの肌が外気と視線の下に晒される。
(くーっ! そうこなくてはですわ! まだまだ煽っていきますわよ!)
これにはメルナスもにっこり。なに笑ってんだよ。
「いやっ、いやですわ! 離してっ、離しなさいこの下種!」
「無駄だっていうのに、鬱陶しいなぁ……!」
必死に体を揺らし、どうにか脱出しようともがくメルナスの無駄な抵抗がさらにプルーキーを苛立たせた。そいつがどうなってももういいけど気付け、ここまで全てその女の思い通りだぞ。
「いいから大人しくしてろッ!」
「ひぐっ!」
バシン、と乾いた音。プルーキーがメルナスの頬を手加減もなく平手打ちした音だった。
「えっ……あっ……?」
「顔に傷がつくと萎えちゃうからさぁ……これ以上叩かれたくなかったら大人しくしてなよ、ねぇ……?」
「ひっ……」
平手打ちした部分を恐怖を煽るようにぱしぱしと軽く叩くと効果は覿面だった。
メルナスはか細い悲鳴を上げ、それきり大人しくなった。
「そう、それでいいんだよぉ……ゲフフゥ」
「いや……そんな……誰か……っ」
暴力に訴えられ、これ以上抵抗することも出来ず、メルナスは絶望に満ちた声で嘆くばかり。
それに満足したのか、プルーキーは両手を押さえていた手を外し、破かれた修道服に手を掛けるとさらにその破れ目を一気に下まで広げた。
「あ、ああ……っ」
「随分といやらしい物を身に着けてるんだなぁ。君の国では女はみんなこんなタイツを穿くのか。これじゃあどのみちシスターなんてやれるはずもないなぁ……」
上下の下着が曝け出され、その下の網タイツまでが丸見えの状態。決してシスターが見せるべきではない姿──はどうでもいいとして、とんでもない風評被害がこいつのせいで発生していた。ヴェルフェクス王国民全員に謝罪してほしい。
(ああっ! 罵られてますわ! 軽蔑されていますわ! こんな豚に! 生肌を見られてしまっていますわ! こんな豚に! このまま全身くまなく観察されて触れられてしまうんですわ! こんな豚に!)
謝罪先に本物の豚も追加だ。
そしてついにプルーキーの手がメルナスの下着にまで伸びる。もうここまで来たら逃れる術はない。
完全にメルナスの狙い通り、メルナスは凌辱の限りを尽くされてしまうだろう。
彼女の過去の悪行を思えばざまぁと言いたいところだがそれではメルナスを悦ばせるだけ。因果応報で可哀そうな目に遭っているはずなのに、あまりに釈然としない。
本当にこのままメルナスの完全勝利に終わってしまうのか──そう思われたその時、鍵が掛けられた扉が強く叩かれた。
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