脈動
カバン。
布。
下着。
シャツとズボン。
軽くて暖かい上着。
靴下。
靴。
ナイフ。
研ぎ石。
ロープ。
着火剤。
寝袋。
生きるために必要なのはだいたいこのくらい。
あとは、ギターと、ケースと、画材と、スケッチブック。
これと声があればお金は稼げる。
ぼくには帰る家がない。両親と妹と共に焼けた。
7歳の誕生日だったのは覚えている。それからは年を数えるのをやめたので、自分が正確に何歳かを知る術はもうない。
でも、季節が10回は確実にめぐっているし、背はもう伸びなくなったから、成人はしていると思う。だから自分は大人だと居酒屋で言い張り酒を飲む。他人から見たらぼくはどうやらそこらのガキと同じらしいが。
今日の宿代と食事代を稼ぐために、広場に座り込んだ。
ぼくの右側では、胸やら腹やら足やらを過剰に露出させた女が、傍らに座り笛を吹く男の音色に合わせて軽やかに飛び回っている。
ぼくの左側では、燃え上がる数本の松明でお手玉をする芸人に、近所の子供たちが歓声をあげている。
ボロボロのケースをあけてネックが歪に反ったギターを取り出す。調律して音色を確かめるうちに、芸人に目を奪われていた子供の何人かが物珍し気によってくる。ガキはお呼びじゃない。親を連れてこい。
息を吸いこんで声を出した。
喉の振動とつま弾く弦の音色以外、何も聞こえなくなった。
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