第4話 魔の三者面談
月明かりの中で俺は兵士に連れられて帰路につく。
家を飛び出したことだけでなく先生に事実を
「デューク、大丈夫か?」
先生が心配そうな顔で俺を見つめながら訊ねてくる。また何もかも見通してくるのではないだろうかとドギマギしながらも頷くことしか出来なかった。
「デューク坊っちゃま。着きましたよ」
しばらく歩くと家の扉を開ける。
すると目の前には腕を組んでいる父親が立ちはだかっていた。威圧感漂う空気に竦み上がり、表情も石のように固まってしまう。
その中でも先生は動じずに父親に向かって深く礼をすると口を開いた。
「閣下、お初にお目にかかります。わたくしはデュークご令息に魔法をお教えしているシェード・アングレイと申します」
「ふむ。貴様が生徒を見てないばかりにルークが飛び火で命を落としたことは分かっているよな?」
父親は先生の胸倉を掴むと睨みつける。まるで憎悪や憤怒といった負の感情が全て凝縮され、魔王のようなオーラを解き放っている。
「閣下、その件に関しては本当に申し訳なく思っています。生徒たちの管理を怠ったばかりに――」
「聞き苦しい言い訳をつくな! 」
父親は先生の態度が気に入らなかったのか怒号を彼に浴びせかけた。
俺は逃げ出したくなりそうな気持ちを堪えるように拳をグッと握った。元々は俺が家を出ようとしたことで今の状況が起きているのだ。
「はぁ……まぁいい。最低今の職を退くことを覚悟しておくべきだな。帰れ」
先生の胸倉を離すと父親は俺の方へと向かってくる。またあの時のように殴られるのだろうかと俺はふと嫌な予感がした。
逃げ出そうとしてもまるで全身が張り付いたように身じろきすらもできない。
「デューク、貴様……今から話がある。来い」
突然父親が俺の左腕を掴んだ。先程の嫌な予感が膨らむと同時にあまりの恐怖で頬から熱いものがこぼれてくる。
「嫌だ!行きたくない!!! 」
涙声になりながらも俺は助けを求めるように叫ぶ。抵抗しても父親の力ではどうにもならないことはわかっていた。ならば声をあげることが唯一の抵抗だろうと思いながら必死で絶呼し続ける。
「このっ!逆らうのか! 」
「閣下、お辞めになってください」
その刹那、全てを切り裂くように先生の言葉が響き渡った。
場が一気に静まり返ったと同時に救われたとほっとする。
「貴様……まだいたのか?」
父親は鬼のような形相で先生を睨みつける。
「そうですね。1つ大切なことを思い出しまして」
「なんだ?言ってみろ」
その一言に先生は少し考えたような素振りを見せるとしばらくして口を開いた。
「その前に閣下は水を生成する魔法は存じていますか? 」
父親の大声にも先生は動じずに淡々と彼に質問をぶつけると俺が水を生成する魔法で集めたものが入っているコップを彼の目の前に出す。
そのコップをまじまじと見つめる父親に先生は冷たく言い放った。
「実は閣下のご子息の魔法から強いストレスが確認されました。このままですと魔法を制御することが出来なくなり閣下にも被害が及びかねません」
俺は先生の言葉を聞いていくうちに鳥肌が立ってくる。確か最初の授業で魔法の危険性について色々言っていたはずだ。
子供の魔法はかなり不安定故に危険な因子を持ちやすい。その因子は魔法に変化を起こし、悪化すると制御が出来なくなっていく。
ここからどうなっていくのかは正直言って寝ていたのでよく覚えていない。
しかし先生が授業の最後で言った言葉は今でも覚えている。
『もしキミたちに困っていることがあるならば些細なことでもオレを頼ってくれ。困ったことが危険な因子に変わっていき魔法が制御出来なくなるうちにな』
ふと父親に威圧されてきた頃に先生に相談できていればこんなことにはならなかったかもしれないと罪悪感が雪崩のように俺を責め立てていく。
遅かったのだ。何もかもが遅かったのだ。
「なんだ貴様は!魔法というインチキみたいなものとやらで吾輩を
「閣下、魔法を知らないとはいつの時代ですか? まぁそれはそうとして……」
先生は言葉を切り一息つくと再び口を開いた。
「1つ選択肢を差し上げます。わたくしにご子息を預けて暴走を抑えるかこのままでご子息が暴走して――」
「貴様ッ!吾輩をバカにしているのか! 」
父親は今でも先生に掴みかからんばかりに睨みつける。それでも彼は引き下がらなかった。
「分かりました。やはり条件が必要ですよね」
しばらくして先生はある提案をしてきた。
「わたくしは先生ですから勉学や武術も全てお教えして2週間後にあるテストで首席にさせてみせます。もしその約束が守れませんでしたら……」
先生は話を途中で区切ると少し時間を置く。
そして覚悟を決めたような目で父親に言い放った。
「わたくしの首をお切りください」
驚愕。俺は先生の発言のあまりの恐ろしさに膝から崩れ落ちた。先生は俺のために自分を犠牲にしようとしている。いや、俺のためではない。全ての人のために彼は犠牲になっているのだ。
「ふっ、面白い。そこまで覚悟を決めるならば吾輩も考えてやろうではないか」
父親は腕を組むと満足げな笑みを浮かべて俺と先生を交互に見つめる。
それと同時に俺の心にふつふつと先生を守らなければならないという思いが込み上げてきた。
絶対首席になってやる。
「感謝致します。それではこれで」
疲れたというように肩の力を抜く先生に俺は恐る恐る歩み寄る。すると彼は今までにないほどの人懐っこい笑顔を見せて俺にだけ聞こえるようにぽつりと呟いた。
「デューク、オレと一緒に頑張ろうな」
先生の言葉には俺を勇気づけさせる力も味方だと思わせる信頼を与えていた。
彼を信じよう、いや……信じなければならない。
そう思いながら家から出ていく先生を見送った。
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